轟け!鐵輪‼︎ それぞれの0キロポスト
鐵 幻華
甲武 大和
ーー「夢を追うことに辛くない道はない」と偉い学者は言ったーー
木々が色づき、葉を落とす11月の上旬。
俺は選択を迫られていた。
「風神君、結局中央鐡道學園を受験するの?それとも翡翠高校を受験するの?」
好きなものを仕事に…そんなことは夢物語だとこの時の俺は思っていた。
「はい、翡翠高校を受けようと思います 」
俺は選択した。
リスクを捨て、何者でもない誰かに染め上げられる道を。自分で何かを選ぶことなく個性を潰され社会で都合の良い人材になる道を自ら選んでしまったのだ。
この時にもし中央鐡道學園を選んでいたらとこの一年間何度思ったことか。この時の俺は自分の好きを追いかけるのが怖かった、好きなものが嫌いになるその転換点がいつかくると本気で思っていた。
結局この判断が高校半年間を面白くない、後悔に満ちたものにした。この半年間どれだけ自分の弱さに気がついただろうか。そしてどれだけ自分を嫌いになっただろうか。
時は流れ本格的な夏を迎えた七月下旬学校帰りの上野駅四番ホームで俺は泣いていた。
終業式も終わり夏休みに入る、ほとんどの学生にとっては嬉しい日だろう。
ハンカチで涙を拭おうとしたその時ちょうど京浜東北線が目の前にやってきた。その風圧にいつもは耐えられているのに今日は耐えられずハンカチを落としてしまった。
「どうして泣いているんだ?」
涙でよく見えないが、おそらく女性?がハンカチを拾い俺の前に差し出す。
「ありがとうございます 」
俺はハンカチを取るために腕を伸ばした。
するとその女性が俺の手を強く握った。
「もう一度聞く、どうして泣いている?」
その時の俺にとって泣いている理由を話すことはそう難しいことじゃなかった。
「簡単に言えば後悔です。あの時ああしていればとそう考えている内にだんだん涙が溢れてきて...... 」
その女性はさらに腕を強く握りこう言った。
「人生というのは選択の連続だ、一つを選択すればもう一つを選んでいたらと考えることもある。だが考えたところでどうにもならないのは今の君には痛いほど分かるはずだ 」
あぁ、本当にそうだ。今悔やんでも仕方がない。
「自分の信じる
突然の大声にびっくりして一瞬腕の力が緩んだがまた一段と力を込めて手を握られる。
女性は優しく包み込むような声で言った。
「今の君にできることを精一杯やることが、君の後悔を払拭できる唯一の手段だ。これから後悔のない選択をすることができるのは他でもない君なんだよ。やって後悔するよりやらなくて後悔する方が嫌だろ 」
そうだ、やらないで後悔なんてもうしたくないこうなったらできること全部やってやる。今の俺に精一杯できること、それは......。
思わず手に力が入った。
「もう大丈夫そうだな 」
女性は手の力を徐々に緩めてスッと手を離す。
「はい!ありがとうございま...... 」
《四番線ドアが閉まりますご注意ください。》
女性は俺がお礼を言う前に青二十二号で包まれた103系に乗って行ってしまった。
手に残っているのは夏の暖かさとは別の温もりが宿るハンカチと強く握られてまだ少しジンジンとする清々しい痛み。
ハンカチで急いで涙を拭き俺は階段を駆け登る。
そう、今までの俺にまとわりついていた黒い霧を断ち切る吹き飛ばす新しい風を吹かせながら。
階段を登り切り、入谷口の有人改札をジャンプで乗り越えた。
そう、今まで俺の足にまとわりついていた後悔という錘を振り切るように
その勢いのまま学校に行き職員室前で一度軽く汗を拭った。
「先生、省大プログラムの参加希望用紙をください!」
担任の先生を含む職員室の先生は全員驚いていた。中には急須で注いでいたお茶をひっくり返し慌てて拭いている先生もいた。
「甲武、そんなに焦らなくてこのプログラムの参加希望提出は十一月だぞ 」
そんなことは分かっている。
ゆっくりと参加用紙を持ってきてくれた先生に対して言った。
「自分の信じる
俺はそう言いながらここ半年間できていなかった本当の笑顔を先生に見せた。
「なるほどな、それじゃあ書き終わったら読んでくれ、まさかそのプログラムの参加用紙を甲武が最初に提出するとはな」
腕を組み「そうか、甲武がな…」うんうんと頭を振って呟いている。
紙を受け取り職員室を後に使用したとその時、可愛らしくアホ毛をツンッと伸ばした小柄な女生徒?いや男ものの制服を着てるから男子生徒?
「すみません、学生特別公職体プログラムの参加用紙をいただけますか」
と職員室全体に聞こえそうもない声で言う。
その男子生徒?は俺の方を見て参加用紙を指差す。
「あっ、君も参加用紙出すの、どこ志望?僕は鐵道省なんだけど」
これが翼との最初の出会いでありこれから二年間を共にする最高の仲間の一人との最初の出会いでもあった。
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