第4話 翻訳SF15作

一九八四年

宇宙船ビーグル号

タイタンの妖女

ソラリス

宇宙の孤児

恋人たち

時間線を遡って

エンダーのゲーム

順列都市(全2巻)

ディアスポラ

夜来たる(短篇集)

無常の月(旧版)

愛はさだめ。さだめは死

ブルーシャンペン

タンジェント



 そして、翻訳SF小説だ。おれの得意分野は翻訳SF小説なので、翻訳SF小説の名作を十五作選んでみた。おれはSF小説こそが最も知的な分野だと考えていた。その後、哲学や主流文学なども読んだが、SF作家の賢さが哲学者の賢さに負けるとはまったく考えていない。SF作家は賢い。




ジョージ・オーウェル「一九八四年」


 二十世紀のイギリスのSF小説。社会風刺をした社会派SFの名作である。全体主義を風刺しており、戦争における現実が深く洞察されて描かれる。内容は刺激的で、読んでいて退屈しない。深い思索のある小説である。



A・E・ヴァン・ヴォークト「宇宙船ビーグル号」


 二十世紀のアメリカのSF小説である。宇宙のさまざまな生命体に遭遇して、機知を働かせて危機を乗り切る物語である。全部で四話からなり、四通りの宇宙生命体との遭遇が描かれる。強い意志で戦う男は、時として意見の異なる味方と戦いになる。戦いの勝者は、敵にも勝利を得て、味方にも祝福されなければ、幸せになれないことに不安を感じる。



カート・ヴォネガット・ジュニア「タイタンの妖女」


 二十世紀半ばのアメリカの小説である。人類が弱者であることを強調して描かれる。人類の傲慢さを物語るのだが、そのまま、人類ではないものたちの強さが描かれる。弱者である人類のあがきが描かれる。宇宙人の存在を考え始めた二十世紀の人類の思索は重要だ。人類の最高知性より遥かに賢い宇宙人とやり取りしながら、人類の文明を構築しなければならない。



スタニスワフ・レム「ソラリス」


 二十世紀半ばのポーランドのSF小説である。人類と宇宙生物がどのくらいお互いに異質であるかを徹底的に描いた名作である。人類は宇宙生物と仲良くなろうとする場合でも、しかし、その時、宇宙生物に交流を拒絶される可能性だってあるのだ。人類が宇宙生命を理解できるという傲慢を戒める書でもあるのだろう。



ロバート・A・ハインライン「宇宙の孤児」


 二十世紀半ばのアメリカのSF小説である。自分たちが住んでいた世界の真の正体を発見する物語である。ひょっとしたら、ありえるかもしれない世界の真相に感動を覚える。短く読みやすい小説であり、このような物語が成立することにSFの面白さを感じる。



フィリップ・ホセ・ファーマー「恋人たち」


 読む前は、恋愛もので、しかも宇宙人が相手と聞いて、エログロかと思ったけど、読んでみれば、どうして美しい物語だった。よく考えてみても、これはそういうものかもしれないと納得する展開であり、読んでいて面白い、SF小説の名作としてふさわしいものだった。



ロバート・シルバーバーグ「時間線を遡って」


 二十世紀半ばのアメリカのSF小説である。「時間線をのぼろう」の題名でも発売されている。時間旅行ものであり、ちょっとエロティックなSF小説である。時間旅行をして何をするのかというのは実はかなり難しいのだが、時間旅行でやりたくなることを考えるのに、思いつきのきっかけをくれるかもしれないSF小説である。



オースン・スコット・カード「エンダーのゲーム」


 宇宙人との戦争に備えて、少年たちが訓練する物語である。戦闘訓練において、賢い戦略がちゃんと描かれていて、上手な戦い方だと納得のいく物語である。最後には、物語の仕掛けも決まり、感動的な結末を迎える。完成度の高いSF小説だといえる。



グレッグ・イーガン「順列都市」(全2巻)


 二十世紀のオーストラリアのSF小説である。始めは、何をしているのかまったくわからない。何のために、この登場人物はこんなことをしているのかまったくわからない。それが意味のある行動であるとわかった時、読者の胸に熱い情熱が沸き起こる。数学を応用した独創的なSF小説である。



グレッグ・イーガン「ディアスポラ」


 これも、二十世紀のオーストラリアのSF小説である。これも、始めは何が起きているのか意味がわからない。なぜこんな記述がしてあるのか不思議に思うことだろう。やはり、それが意味をもつものであるとわかった時、熱い情熱が沸き起こる。こんな物語がどこかにあるべきだったと感じさせる人類の異種間遭遇の到達点ともいえる。



アイザック・アシモフ「夜来たる」(短篇集)


 二十世紀アメリカのSF小説の短編集である。五つの短編からなる。五作すべてに、驚きを感じる。すべての作品が高い完成度を誇っている。我々の感覚は人類を中心とした知識に侵されているが、先入観を排除して、ありえるべき可能性を鋭く指摘し、また、それでいて物語としても面白い短編たちである。



ラリイ・ニーヴン「無常の月」(ベスト版ではない方)


 二十世紀アメリカのSF短編集。二十世紀にアメリカでたくさんのSF小説の短編が書かれた。おれが最も愛する小説は、SF小説の短編たちである。誰が何を考えてこんな変なことを考え出すんだというような小説を探して、好んで読んでいた。そんな小説が本当に見つかることに読書家としての幸せを感じる。



ジェイムス・ティプトリー・ジュニア「愛はさだめ、さだめは死」


 二十世紀アメリカのSF短編集。この短篇集に収録されている「そして、わたしは失われた道をたどり、この場所を見出した」は、かつてのおれのいちばん好きな小説である。勉強しか取り柄のない高校生が科学者にすら見捨てられたら、果たして人生に救いはあるのだろうか。そんな困難にあっても、自分の力で幸せにたどりつく。そんな物語を連想する。



ジョン・ヴァーリイ「ブルーシャンペン」


 二十世紀アメリカのSF短編集である。SF小説としても、独創性と物語性に富んだ名作がたくさん集められているのだが、なぜか登場人物が裸になることの多いエロい短篇集だった。SF作家たちの描き出す独創的な世界は、知的に考えさせることの多い面白いものである。自分では、何十年たってもそのようなことは思いつかないだろうことがたくさん書いてある。



グレッグ・ベア「タンジェント」


 二十世紀アメリカのSF短編集である。「飛散」の多次元世界、「姉妹」の生命工学、「タンジェント」の位相幾何学など、新鮮な世界観を与えられて、考えさせられる面白い短編たちである。「タンジェント」の世界を理解できるかどうか、試してもらいたい歯応えのある短篇集である。


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