第2話 海外文学20作
まずは文学のおすすめだ。世間に出まわっている文学のおすすめがおれはちょっと納得がいかない。あんな小説たちが本当に面白いのか。みんなが小説を読まないのは、世間に出まわっている文学のおすすめがあまり面白くないためではないのか。
なんでも、自分たちの秘蔵の小説は、世間に知られることなく隠したいのだという。面白い文学を知っていることは、権威のある行為なのだ。だから、秘蔵の傑作は隠すのだという。しかし、いくらなんでも隠しすぎだろう。ここいらでちょっと文学の名作を刷新してみたい。
そうやって選んでみたら、有名作ばかりが並ぶことになってしまった。こんな有名作を今さらおれが推薦する必要があるのか。しかし、有名作の中から一作を選ぶのも、ものすごく難しい作業。その助けになればと思い、このおすすめを紹介する。
海外文学のおすすめ二十作
神曲(全3巻)
ティラン・ロ・ブラン(2巻まで読了。全4巻)
ガリヴァー旅行記
戦争と平和(全4巻)
ケンジントン公園のピーターパン
オズの魔法使い
やし酒飲み
幻獣辞典(ボルヘス、ゲレロ)
失われた時を求めて(おすすめは3巻まで。6巻まで読了。全14巻)
百年の孤独
戦争は女の顔をしていない
シャーロック・ホームズの冒険
モンキーハウスへようこそ(全2巻)
ありきたりの狂気の物語
深夜勤務
ソドム百二十日(サド。澁澤龍彦訳)
赤毛のレドメイン家
Xの悲劇
エジプト十字架の謎
三つの棺
海外文学のおすすめの二十作である。外れのないように厳選したつもりだ。膨大な数のある海外文学のごく一部しかおれは読めていないのであるが、それでも、三百冊を超える海外文学から厳選したものである。ここまで厳選すれば、文学でも、充分に楽しんで読んでいただけるだろう。
ダンテ・アリギエーリ「神曲」(全三巻)
まずは、ダンテの「神曲」だ。みんな、名前くらいは聞いたことがあるだろう。地獄篇、煉獄篇、天国篇の三冊からなる。中世キリスト教の天動説世界における地上から地獄へ行く大旅行記である。荘厳な文体による名作で、義侠心も、反抗心も、そして、世界に対する感動も感じさせる作品だった。
ジュアノット・マルトゥレイ「ティラン・ロ・ブラン」(全四巻のうち、おれは二巻まで読んだ)
次は、中世騎士道物語の最高傑作といわれるマルトゥレイの「ティラン・ロ・ブラン」だ。日本に紹介されたのは二十一世紀になってからで、まだそれほど年月はたっていない。十五世紀のスペインの小説なのだが、スペインで人気のある騎士道というものがどんなものなのかは、これを読んで知るべきだろう。心に突き刺さる味わい深い物語である。
ジョナサン・スウィフト「ガリヴァー旅行記」
スウィフトの「ガリヴァー旅行記」は、ヨーロッパの大航海時代において未知の世界に盛り上がる面白い冒険小説である。小人の国、巨人の国、空飛ぶ国、馬の国の四つの国を旅する珍道中だ。常識に染まった先入観をおかしく風刺して、また、幻想的な出来事が起きた時にどのような事態に遭遇するのかを指摘してくれる面白い物語である。
レフ・トルストイ「戦争と平和」(全四巻)
トルストイの「戦争と平和」は、戦争における兵士の評価について、重要な示唆を与えてくれる物語である。全四巻の長大な小説であるにも関わらず、物語の目的が表面にあるのか、背後にあるのか、読者が読解するしかない。一見、辛辣な小説に思えるが、よく考えると、優しい、とても、優しさのある小説である。
ジェイムズ・バリー「ケンジントン公園のピーターパン」
バリーの「ケンジントン公園のピーターパン」は、短いがとても感動的な傑作だ。ピーターパンの小説は出版事情が複雑で、この「ケンジントン公園のピーターパン」が見つかるかどうかは、がんばってもらうしかない。素直になれない子供心、意外性のある奇妙な遊び心を子供だけでなく、大人も持っていることを描いている小説である。
フランク・ボーム「オズの魔法使い」
読んでおくべき必読本を選んでいると、この有名な「オズの魔法使い」も外すわけにはいかないとしか考えられない。少女が主人公の冒険譚であり、仲間たちと協力して敵を倒し、仲間たちが人生で成功することに面白さを感じずにはいられない。二十世紀初頭のアメリカの小説である。
チェツオーラ「やし酒飲み」
二十世紀半ばのアフリカの小説である。神を風刺した小説で最もよくできた小説はこの「やし酒飲み」だろう。短い小説なので、おすすめしたい。キリスト教勢力の進出が激しかったアフリカで、ヨーロッパ人の文化を風刺するために描かれたのだろうか。アフリカの価値観が勝利するのが楽しい傑作である。
ボルヘス、ゲレロ「幻獣辞典」
南米の本である。幻獣を収集して描いた本はたくさんあるものの、このボルヘスのゲレロの「幻獣辞典」は選ばれた幻獣たちの重みがちがう。それは、ただ幻獣の博物辞典を作ったのではなく、幻獣の一種類一種類について、深く思考されたことによって作り出された迫力というものがあるのである。
マルセル・プルースト「失われた時を求めて」(おすすめは3巻まで。6巻まで読了。全14巻)
二十世紀初頭に書かれたフランスの小説である。何が書いてあるかというと、社交界のサロン文化についてである。上流階級の社交界なんてまったくわからないおれだが、プルーストのこの小説を読むと、社交界の雰囲気を感じることができて楽しい。自費出版から始まり、成功した小説でもある。
ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」
二十世紀のコロンビアの小説。重厚な文学であるが、奇妙な小説である。たくさんの登場人物が出てきて、さまざまな人間模様を描き出すのだが、おれにはほとんどの場合において弱者が勝利しているように見える。内向的な人物が活躍するのは、おれにはとても嬉しいのだ。
スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ「戦争は女の顔をしていない」
二十世紀のベラルーシの本。おれは、戦争で女の兵士について書かれた本をこの本以外にほとんど知らない。人類の歴史において、女の兵士はずっといたはずなのに、ずっと文学では描かれることなく隠されてきたのだ。それを描いたこの本は、どうしても外すことのできない気になる本なのだ。
コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」
十九世紀後半のミステリ短篇集である。びっくりするような場面がたくさん描かれ、最初疑わしいとされた人物が、実は犯人ではなかったと真相で描かれる逆転劇はとても心を打つものだ。また、殺人ではないミステリがあるのも、とても好みになるところだ。そして、何より、ホームズの推理の面白さである。
カート・ヴォネガット・ジュニア「モンキーハウスへようこそ」(全2巻)
二十世紀のアメリカの短編集である。「ハイアニスポート物語」「嘘」「構内の鹿」は、とても感動した。民主主義の価値観で描かれた傑作であり、二十世紀アメリカの大人たちのあるべき価値観をうかがうことができる。
チャールズ・ブコウスキー「ありきたりの狂気の物語」
二十世紀のアメリカの短編集である。幻想的で、下層階級的な日常、詩人、精神病院などが題材になる。ひとつの短編はとても短いが、しかし、興味を覚えることがいくつも書いてある。ひとりの作家の一冊の短編集として、ここまでうまくまとまった短篇集が他にあるだろうか。
スティーヴン・キング「深夜勤務」
二十世紀アメリカのホラー小説の短編集。二分冊されたうちの一冊。ホラーなので、怖い小説たちである。怖い小説を一度、読んでみたいと思う人もたくさんいるだろう。どうせ、たいして怖くない話のはずだと強気でいるはずだ。ホラー小説に挑戦してみたい人におすすめなのはこの短篇集だ。
マルキド・サド「ソドム百二十日」(澁澤龍彦訳)
十八世紀後半のフランスの背徳小説である。背徳で有名なサドの本である。「ソドム百二十日」という序文と、「悲惨物語」という本文と、「ゾロエと二人の侍女」というおまけからなる。サドの思想について、どうしても、刺激を受けてしまいがちな我々は、サドの本を一度は読んでみるべきなのかもしれない。
イーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」
二十世紀前半のイギリスのミステリ小説。日本のミステリ読者が選ぶベスト一位である。まさか、そんなことになるわけがないと思わせつつも、意外性のある結末へ向かう衝撃作である。登場人物たちは魅力的であり、物語の劇的性も高い。ミステリは、演出力に凝った文化が醸成されていて、その魅力をいかんなく伝える名作である。
エラリー・クイーン「Ⅹの悲劇」
二十世紀前半のアメリカの列車もののミステリ小説である。謎解きが面白くて、犯人当てが楽しい。こんな複雑怪奇なトリックを構想して、表現することができるミステリ作家たちは、すさまじい知性のある存在だ。論理に傷のないミステリとして、印象深いミステリである。
エラリー・クイーン「エジプト十字架の謎」
二十世紀前半のアメリカのミステリ小説である。連続殺人におけるトリックが構築されていて、ミステリの大きなアイデアの収穫のひとつだ。犯人がここまですさまじいトリックを仕掛けてくると、ミステリは、神秘的なことは起きていないのに、なんだか幻想小説のような雰囲気すら醸し出してくる。怪しさ満載のミステリである。
ディスクン・カー「三つの棺」
二十世紀前半のアメリカのミステリ小説である。密室ものの傑作。論理的な犯人当てミステリであり、納得のいく完成度がある。おれはミステリはあまり読んでいないので、紹介するミステリが古いんじゃないかと思われるかもしれないが、読んで楽しかったミステリを選ぶとこうなるのである。
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