第2話 火星の夕日

「火星の夕日は青いな」


執行負広(しぎょうまけひろ)は火星都市MARS(マーズ)日本県(にほんけん)日本市(にほんし)の荒涼とした大地を踏みしめながら感慨深い気持ちになった。


「そうね、火星は地球じゃないもの」


言葉こそ淡々としてはいるが、執行の傍らで体をぴったり密着させている女性はいつもみたくツンデレを発揮している。


「なあ、龍造寺アネロ」


身長170センチと男性としては平均的だが程よく鍛えられた体躯で、そばに寄り添う女性の名を告げる。


「なによ」


同じく身長170センチと女性としては平均より高めのスラリとした細身の人類の芸術品がキッと顔を強張らせる。


「火星って寒いな」


改まって出てきた言葉が平凡すぎる。

なぜいちいち名前を呼んで女性を無意味に警戒させてしまうのか。

女性の名前を気安く言ってはいけない。


「そうね」


明らかに声のトーンが落ちた龍造寺は呆れてガックリしている様子だ。

何かロマンチック告白でもされるのかと期待していたようだが。

そんな淡い期待も並び立つ男によって無意味に粉砕される。


「後ろから抱きしめていいか」


唐突だ。

これが不意打ちというやつか。

龍造寺アネロはこれを期待していたのかもしれない。


「ええ、いいわよ」


言葉こそ冷静だが、よく考えてみるとやってることはカップルである。

だが、当人たちは気づいていない。


「あったかいな、龍造寺の体」


そりゃそうだろ。

体温は36℃だ。

小学生でも分かる。

こういう天然な発言はあまりおすすめしない。


「あなたもあったかいわよ」


両方天然な場合は問題にはならない。


その後、二時間ほど二人は一緒に夕日を眺めていた。

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