第3話 龍造寺アリュール
「それで」
「お前たちは火星の夕日を見て、ただただバカップルみたいにデートしてきたのか」
白衣の下の乱れたスーツを直すこともせずに、書類の山に目を通しながら、執行負広(しぎょうまけひろ)と龍造寺アネロは、黒髪ロングの研究者か管理職風のウルフカット女性に詰問される。
「そんなんじゃないわ」
すかさず龍造寺アネロは言い返す。
「なら、他にどう説明するんだ」
黒髪ロングのウルフカット女性が龍造寺アネロに焦点を合わせながら説明を要求する。
その後すぐに先ほどのように書類の山に視線が引き戻された。
「龍造寺アリュール、話を聞いてくれ」
名前を呼ばれた黒髪ロングのウルフカット女性は執行負広を一度だけ睨みつけ、また書類の山に目線が下がった。
「お前は言葉遣いがなってないな、執行」
龍造寺アリュールは胸ポケットからペンを取り出し、執行負広が持っていた一枚の紙を強引に奪い去ると一言つぶやいた。
「まるでなってない」
執行負広自作のイラストが描かれた紙にペンで却下と書くと、それを持参した本人につき返した。
「無分別智(むふんべつち)」
龍造寺アリュールは執行負広の瞳をじっと見つめながら仏教用語を一言述べて二人を退室させた。
「ほら、言ったでしょ」
さもありなんという感じで龍造寺アネロは龍造寺グループ宇宙事業部長の部屋の前で執行負広を一瞥する。
「アリュールは昔っからそう。
他人のことなんてどうとも思っていないわ。
サイコパスなのよ」
社会的スティグマをあくびにも出さず自分の身内を龍造寺アネロはこきおろす。
「いや、俺はただ宇宙事業部でロケット開発に参加させてくれと言うだけだったのだが」
執行負広はあっけらかんとしていて、自分の言いたいことだけ伝えるつもりらしかった。
「あんた、正気?」
龍造寺アネロは執行負広の正気を疑う。
余程、龍造寺アリュールと関わるのが嫌いらしい。
「じゃあ、私帰るわ。
晩御飯自炊しなきゃだし。
あんたも早く帰りなさいよね。」
やれやれという感じで、龍造寺アネロは執行負広に、そう言い残しその場を立ち去った。
執行負広も納得行かなそうな気持ちだったが言われた通り帰宅しようとした。
ピロンッ
執行負広の特に何の変哲もない白いスマホのメッセージアプリが、通知を知らせる。
「もうすぐ定時になるから少しドアの前のソファで待ってて。
和食のおいしいお店に行きましょう。」
メッセージの差出人は、龍造寺アリュール。
先ほど門前払いをした人物からだった。
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