龍造寺アネロは負けヒロインなのか?

@gimamagi

第1話 龍造寺アネロ

「木で出来た惑星衛星間航宙ロケットの開発ですって?」


年増の管理職の所長らしき女性が声を荒げかける。

咳払いをして、体裁を整えた。


「それで、アネロお嬢様は何と?」


管理職の女性が、訝しげに計画担当者の監理技術者の若い女性エンジニアに尋ねる。


「そのことなんですが………」


若い女性エンジニアは口籠もる。


「そう………許可したのね」


所長室にしつらえられた年季の入った革椅子が180度回転する。


「あの男の子、危険な香りがするわ」


時刻は夕方、日が沈みかけている。


「私も同感です」


若いエンジニアの女性は、持ってきた紙の書類の束をぎゅっと握りしめる。


「引き続き例の男の子の監視をお願い」


所長の女性はシックな革椅子を半回転させ、若いエンジニアの女性に向き直る。


「アネロお嬢様が傷つかないように祈るしかないわね」


どこか遠くを見るような、焦点の合っていない視線を天井に投げかける。


1ヶ月前・•

龍造寺ソフトマター研究所

第一研究所

第一研究室


「話って何かしら」


ふわりとした存在感を放つ女子高校生が、冷たく定型句を言い放つ。


「ロケットを作りたい」


机の上に一枚のイラストが描かれた紙を右手の五本指でしっかりと押さえつけながら、青年が言葉を返した。


「あんた、バカァ?」


脊髄反射で雪玉が飛んでくる。


「失礼、あまりにも杜撰(ずさん)なことを言うもんだから本音が出ちゃったわ」


発言とは裏腹に彼女の口角は鋭く上がる。

獰猛な猛禽類のそれによく似ていた。


「聞け、龍造寺アネロ」


名前を唐突に呼ばれた女の子は、一瞬身構えたが、また先ほどの鋭敏さが顔を出す。


「気安く名前を呼ばないでよ」


どうやらこの2人の間には対立があるように見えた。


「第一、あなたの言うことは無謀よ」


鋭く尖った眼差しが、青年の瞳に突き刺さる。


「分かっている」


分かっていると言いながら、諦めの気配は見てとれない。


「俺の尊敬する人物は、ヤン・ウェンリーと章北海(ジャン・ベイハイ)だ」


青年は唐突に尊敬する人物を述べる。


「誰、それ?」


若い女の子の当然の反応である。


「銀河英雄伝説と三体に出てくる人物だ」


青年は変わらず作品の出典を、聞かれたから答えたと言わんばかりに返答する。


「銀………、さんたい………?」


女の子は戸惑ってしまった。

先ほどの挑戦的な戦意を喪失してしまったようだ。


「一応、私はあなたの上司なのだから最低限のマナーは守って欲しいわね。

こんな意味不明な会話したくないわ。

とりあえず計画書を作りなさい。

話はそれからよ、執行(しぎょう)くん。」


そう言って上司の女の子は、ひらりとスカートを翻してその場を立ち去った。


執行とよばれた青年は、その場で考えに耽っていた。


「計画書って、どうやって作るんだっけ?」


この青年、度胸だけで生きているようである。


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