第34話旧友と
「おはよー」
「おはよう!大分声出るようになったな!」
お父さんが言う。確かにちょっと楽になった。
「休日だし、ゆっくり喉休めろよー」
「はーい」
寝起きでまだぼんやりとした意識のままスマホを開くと、冬弥がイラストを投稿したと通知があった。
「イラスト?珍しいな…」
アプリを開いて目に飛び込んできたのは、昔よく見ていたアニメのキャラクターだった。
「懐かし…!?」
数年ぶりに見たな…
『めちゃくちゃ懐かしい…久しぶりにアニメ見ようかな』
短いコメントを打って朝ごはんを食べた後部屋に戻った。
何となくラインを開いてみる。休日だけど出かけることも出来ない…暇だ。
「あれ?これって……」
冬弥からさっきのアニメの総集編が送られてきている…偶然……なのか?
不思議に思いながら送られたメッセージを見ると、
『久しぶりに見たいって言われたからどうぞw』
そう僕のコメントのスクショといっしょに送られていた…
『なんでバレてんの……』
『加藤君と色々あってさw』
『色々?』
『この前あんたに電話したの、あれ加藤君から頼まれたんだよ』
『加藤君が?なんで?』
既読が付かなくなったかと思えば、一枚のスクショが送られてきた。
イラストについたコメント。送り主は加藤君で――
『全く知らなかった…』
『加藤君にお礼言っとけよ?』
『もちろん』
『大丈夫か?』
突拍子もなくいきなり何かを心配された。
『なにが?』
『いや、喉だよ。文化祭まであと一週間切ってるだろ?』
いきなり強い焦燥感が背筋を走る。心臓が大きな音を立て始めた。
『焦るな落ち着け』
その一言で、不思議と少し楽になった。
『なんでわかったんだよ』
『は?親友舐めんな』
冬弥は当然のように言う。
確かに舐めていたかもしれない。
『ちょっと電話するか』
『――もしもし?』
「ん」
『「ん」ってなんだよ』
「だってもしもしってなんて返せばいいんだよ?」
『ハハ、言われてみれば確かに』
ひょうきんに笑う冬弥。でもどこか落ち着いた雰囲気がある。
それは昔の冬弥と同じ雰囲気だった。
『声、大分出るようになったじゃん』
嬉しそうに言う冬弥。他人の進捗で喜べるのはいい事だと聞いたことがある。
「歌えるほどじゃないけどな」
――あ、やべ。
『そうやってネガティブなこと言うなって。素直に喜べよ』
「ご、ごめん」
『別に謝らなくてもいーよ』
そう静かに笑いまじりで言う。
『――コメント、いつもありがとな』
初めて聞く、少しはにかんだ声色でそう言う冬弥。
「どういたしまして」
なんて返したらいいのかわからず、静かにそう返した。
『うわ、なんか腹立つ』
「なんなんだよ」
思えば、「なんて言ったらいいかわからない時」が僕には多い気がする。幼少期友達ができなかったのもこれが原因か?あ、今も友達そんなにいないか…
そんな自虐ネタを考えているうちに冬弥が言い始めた。
『克己がコメントしなかったら、俺漫画書くのやめてたな』
冗談に思えたが、その落ち着いた声色からそうは思えなかった。
「何が言いたいんだよ?」
僕は訊く。
『克己が一人の人間を変えたってことだよ。ありがとな』
「俺が……」
『そう。お前が』
冬弥はきっぱりと言い切る。
「………喋りたかったことは終わり?」
『……せっかくだからもうちょい
小さな沈黙の中で、僕と冬弥の想いが交差した。
片方は「ありがとう」と。そしてもう片方も「ありがとう」と。
「仕方ないな……」
『ありがと。最近さ――』
『じゃ、文化祭当日にまた』
「おう」
ツー、スマホが音を立ててアイツとの会話は終わった。
『文化祭、絶対行くからな』
見ると、短くそうメッセージが送られていた。
何回も言うなよな…と思いながらスマホの電源を切る。
でもその短いメッセージにすごく励まされた。
ベッドに座る。ギシ、と静かに音を立てた。
「文化祭まであと一週間……」
天井を見つめながら小さく呟く。
あと一週間で喉が全快するとは限らない。
弱音は吐きたくない。でも、文化祭を楽しみにしているみんなのことを考えたら心配にならないはずがない。
窓から入った冷たい風が頬をゆっくりと撫でる。その気色悪い感触に顔をしかめた。
そして今の自分の情けない姿もまた、すごく気色悪い。
「馬鹿だなホント」
自分の頬を軽く叩く。さっき言われたばっかだろ。
今歌えなくてもできることはある。
ネガティブ思考は今日で終わりだ。
スマホを開いてアミザージの歌詞をコピーする。それをメモ帳アプリにペーストし、抑揚をつける箇所や細かいキーをひたすら打ち込み始めた。
共に歩んできた人たちと、最高の文化祭を。
僕が、人を変えられるのなら、喜んで誰かを救ってあげよう。
旧友への感謝を込めて『わかってるよ』と短くメッセージを送った。
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