第33話大言壮語

 ひとまず加藤くんの要望には応えれたよな……人を慰めるのって難しいな…まぁ、結果オーライか。



 『電話してきた』


 『どうでしたか?』


 『目、覚めたってよ』


 『よかった……本当に助かりました』


 『いやいや、こちらこそ。おかげで活動のモチベーション上がったわ』


 『良かったです』


 『文化祭、絶対行くから』


 『わかりました。満足してもらえるよう精一杯頑張ります』


 『応援してるね。じゃあ文化祭当日にまた』



「ふぅ…描くか」

 スマホの電源を切ってパソコンを起動する。

 見ていたアニメキャラを、久しぶりに描きたくなった。


「冬弥くんって絵上手いね!」


 いきなり話しかけられて驚いて鉛筆を落としそうになる。


「そんなことないよ…」


「いやいや上手だよ!僕もこのアニメ好きなんだ!」


 俺が描いていた絵は最近人気のアニメキャラ。身体を描くのは苦手だから、首から上を描いていた。


「君、名前は?」


神田冬弥かんだとうや……君は?」


「僕は佐藤克己!」


 俺の初めての友達はかつみと名乗った。


「ん!」


 かつみくんが僕に手を差し出す。


「?」


「握手!」

 戸惑っている僕に、かつみくんは無邪気に言う。

 友達ってそういうものなのか。


「あ、ごめん。俺友達ができたことが無かったから…」


「僕も初めてだよ!ほら!」


 かつみくんがグイッと俺の手を引っ張り強引に握手した。


「よろしくっ!」


「よろしく…」



「っし。できた」

 完成した絵には、あの時には無かった身体があった。


 『投稿が完了しました』


 たまには漫画以外のものを投稿するのも悪く無いだろう。




 冬弥さんの最後のメッセージを確認して携帯の電源を切って安堵感に浸る。


 『新着メッセージがあります』


 すぐに携帯を開いて確認すると、メッセージの送り主は謝罪と感謝、最後にこんな一文を添えていた。


 『必ず最高の文化祭にしましょう』



 翌日、僕らは一花さんの家に集まりいつも通り作曲をしていた。

「あともうちょっと……!」

 一花さんがパソコンを素早く操作する。みんな曲が完成する瞬間を待ち侘びている。部屋には静寂が走り、キーボードの小気味いい音とマウスのクリック音だけが静寂を彩っている。

「………かんせ~~い!!」

 一花さんが高らかに叫んだ。

「わ~!みんなおつかれ~!」

 朱音先輩が言い、みんな口々に賞賛の言葉を交わす。


「あとはタイトルだね……!」

 一花さんが言う。タイトルは克己君が考えてくれている。

「僕電話かけますね!」

 スマホを手に取って克己君に電話をかける。

 コール音はすぐに鳴り止んだ。

「克己君!」


『タイトル、決まったよ』


 みんなが固唾を飲んで耳を傾ける。克己くんはゆっくりと話し始めた。


『アミザージ。ポルトガル語で友情とか絆って意味なんだけど…どうかな?』


「完璧じゃん!!賛成の人~!」

 朱音先輩が目を輝かせてみんなに訊く。

「反対するわけがない!」

 一花さんが言う。すぐに数音先輩と和人先輩が「賛成!」と声を上げた。

「じゃあタイトルはアミザージに決定!克己君ありがと!」


『いえいえ!歌詞は完全に覚えたので、後は喉休めるだけです!最高のメガ☆歌唱部らいぶをみんなに届けましょう!』


 声は少し枯れていたが、明るくて、頼もしい声だった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る