第28話みんながいる

「みんながいるじゃん」

 一花さんが顔を上げる。何かに気づいたようだった。

「一花さんの最高の曲、みんなで作ろう」


「みんなで……」

「うん」

 僕が微笑むと、一花さんは短く息を吐き伸びをした。

「ありがとう。目、覚めた」

 凛々しく、まっすぐな瞳で僕を見る一花さんを見て安心した。



 一花さんの家に来たみんなは僕と一花さんを見て、深くは聞かなかった。

 曲のテーマは「友情」。

 パソコンの前に集まり、みんなで作曲を始めた。


 作詞は一花さん、ギターは和人先輩、ドラムは美香先輩、僕と朱音先輩は音程の確認。分担して作業を進めていった。

 そしてキーボード係は遅れてやってきた。息を切らして額に汗を浮かべている。

「初めまして…ちょっと遅れちゃいました……」

 硬くなっている加藤くんに和人先輩は「硬くならなくていいよ~!」と笑顔で言う。

 加藤くんは和人先輩にお礼を言って笑顔になってくれた。


 練習してきてくれたキーボードは想像よりも上手だった。みんなが称賛の声を上げると、加藤くんは照れ臭そうにはにかむ。

「よろしくねっ!加藤くん!」

 朱音先輩が後輩に対して向ける笑顔は優しくて、温かくて、すごく安心する。

 加藤くんは明るい笑みを浮かべている。

 僕は君が魅せてくれる演奏がすごく楽しみだ。



「ここはもうちょい高くした方が歌いやすいかも」

「オッケー!――このくらい?」

「うん!いい感じ!」

 一花さんが僕にグーサインを向ける。


 皆パソコンの前に集まり修正に修正を重ねる。スカスカだった曲は段々とたくさんの音で満たされていく。

 そして何度も試行錯誤を繰り返し、大体の土台が出来上がった。

「今日はこんなもんかな?」

 窓の外を見ると、夕日が沈みかけていた。時間を見ると7時前。夏は日が沈むのが遅くて体内時計がバグってしまう。

 部屋を出るときも、一花さんは笑顔だった。


 帰宅した後、僕は練習を始めた。

「――♪―――♪……」

 喉の調子が悪い。歌いすぎだろうか。

 部屋の中に常備してある喉飴を舐めた。レモンの酸味が口に広がる。

「!」

 メールの受信音。携帯を手に取りメールを開く。

 冬弥からのメールだった。


 文化祭行くからなっ!


 短くそう書かれていた。


 ありがと


 僕も短く返した。



 やわらかい朝日を浴びながら音楽を聴く。この時間が僕は好きだ。


 一花さんはあの日から毎日学校に来て部活を楽しんでいる。一花さんにとって歌唱部が本当の居場所になったようで嬉しかった。












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