メガ歌唱部☆らいぶ

第23話メガ!

 あれから2週間がたち、夏休みが終わった。

「おはよ~」

 久しぶりの早起き。目を擦りながらドアを開けると、お父さんがテレビを見ていた。

「おはよう!」

「お母さんは?」

「珍しく朝から仕事。ほら、朝ごはん食べろよ」

 お父さんはテレビに視線を戻す。

 食卓に座り朝ご飯を食べる。セミの鳴く声が窓の外からけたたましく聞こえてくる。



「ごちそうさま」

 食器を下げて顔を洗い、寝癖を直す。歯磨きをして時計を見ると、家を出る時間になっていた。

「やっべ、行ってきま~す!」

「ほ~い」



 教室のドアを開ける。教室の中は冷房が効いていた。

 未だに僕は友達を作っていない。もちろん歌唱部の皆を除いて。

 そんな僕に、今日は話しかけてくれる人がいた。

「あの…いきなりごめん。俺、加藤勝かとうまさるっていうんだけどさ、えっと…その……」

 彼――加藤君はすごく緊張していた。すこし長めの髪の毛先を指でイジっている。

「話しかけてくれてありがとう。緊張しなくて大丈夫」

「…うん」


 加藤君は顔を明るくしてくれた。なんとか成功したようだ。

「俺、歌唱部☆らいぶがすごい好きでさ…俺には音楽のスキルがないから入部できないけど……陰から応援してる」

「……うん。ありがとう」

 ファンの人に直接何かを言われたことがなかったのですごくうれしかった。

 そして気づいた。加藤君は、あの時下駄箱で目が合った人だ。


「じゃ」

 そういって加藤君は僕に背を向けた。

「待って!」

 慌てて呼び止める。加藤君はきょとんとした顔でこちらを見ている。

「なんか…厚かましくて申し訳ないんだけど…よかったら友達になってくれないかな…?」

 しまった。流石に引かれ――


「うん…うん!」

 二人して顔を輝かせる。


「皆席に着いて~」

 先生が教室に入ってきた。僕らは席に着いて先生の方を向いた。

「ホームルームの前にお知らせです。文化祭についてです」

 文化祭…

「出し物があるのですが、明後日決めます。ですがこの話し合いに歌唱部の人は参加しません。説明は恐らく部活の方でされると思うので省きます」

 驚いた。文化祭に僕らでイベントがあるのはなんとなくわかっていたが、クラスの出し物に不参加とは……

「それじゃあホームルームを始めます」

 夏休み明け最初の学校生活が始まった。




 放課後、朝よりさらに暑くなった廊下を歩き部室に入った。

 黒板に謎の白い布がかかっている……

「お、来た来た!」

 一花さんが僕を見て言う。

「ちょっと遅れました」

「それじゃあみんな座って!」

 朱音先輩がみんなの前に立って言った。


「さて、文化祭だよ皆!担任の先生から聞いてると思うけど、私たちはクラスの出し物には参加しません!その代わりに私たちは大役を任されています!初めての一大イベント!その名も……」

 先輩は布の端をつかんで一気にめくった。

「メガ歌唱部☆らいぶ!」

「「「おぉ~!!」」」

 三人で拍手する。朱音先輩は自慢げに腰に手を当て、「ふふんっ」って表情をしている。

 ……ネーミングセンスには触れないお約束。

「さっそく明日から計画を立てます!みんなで観客をビリッビリに痺れさせてやろう~!今日はいつも通り歌ったり演奏しよう!」

 先輩たちは席を立ってそれぞれやりたいことを始めた。

 僕は朱音先輩の方へ行きあることを訊いた。


「音楽スキルがない人の入部かぁ~……ダメではない!ダメって言いたくない!う~ん…というかなんで急に?」

「クラスで友達ができたんです」

「おぉ!」

「それで、あ、加藤君っていうんですけど、歌唱部のファンなんです。『音楽スキルがないから入部はできないけど』って言ってたから、どうなのかなって」

「ふふっ、克己君は優しいねぇ~」

 先輩は腕を組んで窓を見ながら言った。その言葉には、どこかからかうような雰囲気があった。

「え?あ、ありがとうございます…」

 頬を人差し指で掻きながら言った。

「わかった。何とかできないか考えとく」

 先輩はこちらを向いて言った。すごく頼もしい。

「ありがとうございます!」

 軽く頭を下げる。


 メガ歌唱部☆らいぶ……か…

 僕は緊張していた。いくらなんでも早すぎるが……

 でも…すっごく楽しみだった。






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