第20話初めまして
「克己くんだ!」
「治ってよかったな」
「克己くんだ〜!!」
部室に入った瞬間、機材のセッティングをしていた先輩たちがこちらを向いて僕の復活を喜んでくれた。
「迷惑かけてすみませんでした」
頭を下げて先輩達に謝罪をする。
「大丈夫だよ!ほら頭上げて!」
「ありがとうございます…」
優しい先輩たちに感謝して、僕はスマホを取りだした。
「実は先輩たちに聞いて欲しい曲が……」
リストから昨日の曲を選び先輩たちに紹介する。
曲が始まると、先輩たちは静かに曲を聴く。
やっぱりいい曲だな……と僕も静かに曲の世界に入り浸る。
「……ストップ!」
突然朱音先輩が声を上げる。
サッと曲を止めて朱音先輩を見ると、いつの間にかドアの前に立っており、次の瞬間勢いよくドアを開けた。
「君、新入部員!?」
「はいっ!その通りです!!」
威勢のいい元気な声が聞こえてきた。見ると、そこには入部届けを持った茶髪のポニーテールの女子が力強い眼差しで朱音先輩を見上げていた。
「やったぁ!さ、入って入って!」
朱音先輩があの時と同じような仕草で部室に案内する。
「えっと、
早口で自分の事について語る彼女からは強い熱意を感じる。
「一花ちゃんって……」
何かに気づいたように朱音先輩が言う。
「はい!歌唱部☆らいぶにはいつも参加させてもらってます!まさか認知されてるとは…嬉しいです!」
照れくさそうに笑う彼女。話を聞くと、歌唱部の熱狂的なファンのようで歌唱部☆らいぶには必ず参加しているらしい。
でも先輩たちはその名前は知らず、存在だけ認知していたらしい。
「君が克己くん!?」
急に名前を呼ばれた。
「そうだけど…」
「歌声がすごい綺麗だったよ!聴いてて楽しかった!」
「ありがとうございます!」
予想外の嬉しい言葉にすぐお礼を言った。すると彼女は慌ててこう付け足す。
「敬語なんて使わないでいいんだよ!同学年なんだし!私4組!克己くんは確か1組だったっけ?よろしく!」
「よ、よろしく」
部室の中では敬語が当たり前だったので少し違和感があるな。
「名前は皆さん存じてます!今って何やってたんですか!?」
「この曲聴いてたんだ!」
僕はスマホの画面を一花…ちゃん?さん?…今はさんにしよう。一花さんに向けた。
「あ!それ私の曲!」
「「「え?」」」
「私ボカロPやってるんです!」
待て待て待て!!どういうこと!?
「聴いてくれてありがとうございます!」
〜知らない人のために〜
説明しよう!ボカロPとは!ボカロ曲を作成し、動画サイトにアップするクリエイターのこと!
作詞、作曲、イラスト、全て自分でする人もいれば、一部を担当して他は誰かに協力してもらう場合もある!終わり!
「………」
今、僕の夢が叶った瞬間だった。
僕は1度でいいからボカロP本人に会ってみたかったんだ。
「夢が叶った……」
「凄い…イラスト以外一花ちゃんがやってる…」
「すげぇな……」
「凄い……目の前にボカロPが……」
僕だけ明らかに浮いてるな。
「まさかボカロP本人に合うという僕の夢がここで叶うとは……」
「初めてが私でいいんですね!?」
ちょっとそれは語弊があるぞ一花さん!?
「今日は何するんだ?演奏するにも一花……さんが…」
和人先輩も「ちゃん」か「さん」か迷っているようだった。
「う〜ん……今日は一花ちゃんが何を担当するか決めようか!」
「そうしますか!」
「私、作詞と作曲します!あとは……」
「おお!ボカロPが作る曲なら間違いないね!」
朱音先輩が目を輝かせながら言う。
ボカロPが作った僕らだけの曲を演奏できるとは光栄だ……
「あ!一花ちゃんにはナレーションをお願いしてもいい?」
「全然いいですよ!任せてください!あと、歌唱部☆らいぶの時私の曲は1曲にして欲しいです。私の曲ばっかりだと皆が楽しめないので!」
素晴らしい配慮だな。
「よし!決定!」
朱音先輩がパンっと手を叩いた。
「一花ちゃんは作詞作曲とナレーション担当!これからよろしくね!」
「よろしく!」
「よろしく」
「よろしくね〜!」
こうして、歌唱部の部員が一人増えた。
現在 部員数 4人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます