第14話真夏のゲーセンは疲れる1
「克己…だよな?」
青年は期待に満ちた表情で言う。
知人なんだよな?
僕は頭の中で知人の顔を1人ずつ思い浮かべる。
少なくとも、僕の記憶のフォルダに彼の顔は無かった。
すると青年は何かを察した様に口を開いた。
「もしかして忘れた?」
「ごめんなさい……」
覚えてないのが申し訳なくて顔を俯ける。
「ったく……冬弥だよ!と、う、や!」
バッと顔を上げる。
頭の中のモヤが一気に晴れた。冬弥は小学校からの友達だ。
僕は冬弥の髪型と服装をジロジロと見た。それに冬弥は「うっ…」と引くような動作を見せる。
「僕が知ってる冬弥じゃない……」
その言葉に冬弥は「ですよね〜…」と頬を人差し指で描きながら一言。
冬弥といえばピシッと決まった服装に賢そうな髪型。あの冬弥がウェーブパーマにラフな服装……とても冬弥とは思えない。
「「元気だった?」」
綺麗にハモった。揃って「あ」みたいな感じのリアクションをする。
一瞬気まずい空気が流れたが、沈黙を破ったのは僕だった。
「高校には通ってるよ。歌唱部っていう部活に入って楽しくやってる」
冬弥は胸を撫で下ろす。不登校にでもなったかと思ってたのかコイツは。
「よかった…不登校とかになってなくて……」
予想的中……
わざと大袈裟に冬弥は安堵する。ちょっとウザイ。
「そういう冬弥は?」
僕の問いに冬弥は答えた。
「バイトで金稼ぎながら漫画書いてるよ。今日は気分転換にヒトカラしてんの」
「漫画!?」
予想外だった。確かに冬弥は昔から絵が上手かったが、あのスポーツマンの冬弥が…冬弥は鬼ごっことかドッヂボールでは常に最強の男だったのだ。
「流石に売れるクオリティじゃないけどな。機材買い集めて描いてるよ」
冬弥は続ける。
「ほぼ自己満だな」
自己満。僕は「ネットに上げればいいのに」と言おうとしたが言わなかった。冬弥ならいつかすると思ったからだ。でも好きなことにはズンズン行動するのが冬弥なんだが……少し違和感を感じた。
「てかどうすんの?」
「何が?」
「いや、連絡先とかさ、今からどうするかとか」
連絡先…今僕の連絡先にはお母さんとお父さんしかいない。
友達がいない訳じゃない。連絡先から消したんだ。
変に中学時代のことを考えたくなかったから。
「交換するか」
そう言った冬弥のスマホの画面には既にQRコードが表示されていた。
断っても追加するつもりだったな…
QRコードを読み取り友達の欄に「冬弥」の2文字が追加された。
「問題は今からどうするかだな」
今からどうするか……他のところに一緒に出かけるかとか、一緒にカラオケするかとかだろう。
お互いにどうするか考えているからか、沈黙が流れる。
「遊びますか!」
「遊ぶか!」
どうやら思っていることは同じだったらしい。
代金を支払い、カラオケを出た。
「どこ行く?」
「えっとね…今手持ちが――」
僕は財布を開いて残金を確認する。大体4300円。ゲーセンとかには行けそうだ。
「今大体4300円だわ」
冬弥も財布の中身を確認する。
「俺は6400円ぐらいだな」
ショピングモールとかで買い物をしたい訳では無い。無難にゲーセンが良いだろうか。だが僕はここらへんにゲーセンがあるのかどうか知らない。
「ゲーセンとかってここら辺あるの?」
「もうちょい歩いたとこにあるぞ」
「行く?」
「行くつもりで聞いたんだろ?」
呆れたように冬弥が言う。まぁ当たりだ。
「俺高校ここら辺だからさ。ある程度何があるかは知ってるんだよ」
ここらへんに高校ってあったのか。知らなかった。
「てか早く行こうぜ!時間がもったいねぇ!」
そう言って冬弥は走り出した。こっちは最近運動不足なんだが……まあそんなこと冬弥が知ってるわけないんだけど。
「ちょ待って――って速!?」
想像以上に足が速い。ゼェゼェ言いながら冬弥を追いかける。僕はあれから全く変わっていない冬弥に少し安心感を覚えた。
僕らはいつの間にか笑いながら人通りの少ない歩道を走っていた。きっと冬弥と再会できた嬉しさと、体力の差が激しいのが面白くて笑っているんだと思う。冬弥も同じ気持ちなのかな。
🏃♂️🏃♂️🏃♂️
ゲーセンに着く頃には、すっかり体温が上がってめちゃくちゃ暑かった。
バッグに入れておいたポカリは
「ちょっとコンビニ寄るか。喉乾いた」
「賛成〜」
ゲーセンのすぐ近くにあるコンビニでほうじ茶を袋ありで買った。冬弥からは「わざわざなんで?」という顔をされたが、僕が汗で濡れたタオルをビニール袋に詰めているところを見た時は納得した様子だった。流石に直でバッグに入れたくない。
ゲーセンはかなり大きめで、深夜でも営業してるタイプだった。外壁には大きく「メリーの遊び場」と書かれていた。
「なんで羊?というかなんで英語?」
と僕が困惑しているのを冬弥は
「俺も知らね。なんかメリー
「夢の中みたいに楽しいよ!」を某ネズミのような裏声で話す冬弥が面白くて吹いてしまった。
自動ドアを抜け中に入ると冷たい風と一緒にゲーセンのやかましい騒音が耳に飛び込んできた。
「おっしゃ目一杯遊ぶぞ〜!」
腕を高く上げて冬弥が言った。その元気な声は騒音で少しかき消されていた。
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