第8話部活の時間

「じゃあせっかく克己君がいるんだし、お手並み拝見として一曲歌ってもらおう!」

 少し無茶振りな気がしたが、自分の腕前を知ってもらういいチャンスだ。

「好きな歌でいいよ~」

 人前で歌うのは昔から得意だった。

 自分の好きなボカロを一曲選んで黒板の前に立ちマイクを握る。

 先輩たちはまるで審査員のように僕の前に立った。


 部室に自分の歌声が響き渡る。

 日渡先輩は笑顔で目を瞑り聞き入っている様子だった。


 曲が終わり部室が一瞬静まり返った。

「克己君やるじゃん!!」

 部室が拍手で包まれた。

 僕は頬を人差し指で掻いた。ここまで拍手をもらえると思ってなかった。

「ちょっと緊張しました…」

「綺麗な声ですごい上手だったよ~」

 猿渡先輩も笑顔でそう言ってくれた。


「じゃあ次は克己君に自己紹介ポスターを書いてもらおう!」

「自己紹介ポスター?」

 オウム返しに質問すると、朱音先輩は部室の隅の壁に指を指した。

「皆自分のことを知ってもらうためにあんな感じにポスター書いてるんだよ!いきなり歌唱部の活動始めるとついていけないでしょ?だから今日はこのポスターをみんなでアイデア出しながら完成させよ~!!」


 長方形のポスターにはカラフルでポップな字で自分の名前、好きな曲のジャンルだったり自分のことについて書かれてあった。

「楽しそう…!」

「でしょ!?じゃあ始めよう!」


 数音先輩がカラーペンやマッキーが入った箱を運んできて、皆で画用紙の周りを囲んだ。

 まずは自分の名前を大きくカラフルに書いた。

 自分の好きなゲームキャラを書いたり、自由にポスターを飾っていった。

 自分の個性を出せるように、自分を象徴するものになるように作っていった。


「できた~!!」

「いいじゃんいいじゃん!!」

「克己君らしくていいね!」

「じゃあ飾るよ~!!」


 自分のポスターが壁に掛けられる瞬間、自分はこの部活に入ったんだと改めて実感した。

「まだ時間あるな…じゃあこの部活の活動内容についてちょっと話そうかな」

 朱音先輩はそう言うと、一枚のプリントを取り出した。

 それは歌唱部の活動内容について書かれたプリントだった。



               歌唱部の活動内容!


 その①

 好きに歌おう!!

 何も予定が無い日は好きに歌おう!

 みんなで楽しむことが大事!予定が無い日は歌唱部はほぼカラオケです!!

 みんなで演奏して歌ってもいいし、自由に楽しもう!!


 その②

 月一のイベントを楽しもう!!

 優しい校長先生が月一でイベントを開いてくれます!!

 見に来てくれる人たちを全力で楽しませよう!




 と書かれてあった。

「おおまかな活動内容はこんな感じかな~」

「割と少ないんですね」

「そうそう。とにかく楽しくってことが一番重要な事だから小難しいことはなし!だよ!あと火、木は休みだからね」


 話していると、チャイムの音色が部室の中に響いた。

「あれぇ?もう?」

 数音先輩が首を傾げ、ため息をついた。

「早いな…楽しかったから…」

「ん?なんて?」

「いや…なんでもないです」

 僕にはハッキリ聞こえていたが言わないことにした。


「また明日~!」

 朱音先輩が皆に大きく手を振り皆で手を振り返した。

「先輩は逆の方向だからな~」

「そうなんですね」

「イッショニカエリタイ…」

「まあまあ…」


 ふと空を見上げると、夕焼けのグラデーションが綺麗だった。

 紫とオレンジの綺麗なグラデーション。色の混ざっている部分は淡いパーマネントレッドに染まっていた。


「じゃあ僕こっち側なので」

「了解。また明日」

「また明日~!!」


 後ろに振り返り自然と笑みが零れ、今までのモヤモヤが一気に晴れたような気がした。


「ただいま~」
















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