第7話歌唱部の部員たち 朱音編
「たっだいま~!」
「おかえり~」
私の名前は
「お姉ちゃん!今日部員が一人増えたんだ~!」
「やっとか」
「やっとってなんだよ」
この人は私のお姉ちゃんの
音楽大学の生徒で、成績は相当優秀。
周りからも一目置かれる存在だ。
そんなお姉ちゃんに私は憧れている。
「てかあんたそろそろ部屋掃除しなさいよ。ていうかしてくれ。たまに入るたびに引くんだけど」
「ヴッ」
半分懇願しながら冷たい目線を向けてきた。
私は掃除が苦手だ。でも安心してほしい。決してごみ屋敷というわけではない。
ちょっと靴下をほっぽり出したり、空のペットボトルが5本ほど放置されてたりするだけだ。
掃除機は三週間に一回かけている。
世間はこれすら許さないのか?心の狭い人ばっかりだ。
「どうした?固まってるけど」
「あ、ああいや、なんでもないなんでもない!」
「そうには見えないけど」
「と、とりあえず部屋行ってくるね!」
(やっぱ部屋汚いよなぁ…)
自覚はしている。自覚はしているのだ。
「とりあえず宿題するか…」
ドアを開けると、意識しているからかいつもより汚い部屋が目に飛び込んできた。
宿題を終わらせ、部屋の掃除にかかった。
(これは燃えるゴミ…これは燃えないゴミ…)
自分なりに頑張って掃除をした。
今までは友達を家に招くことができなかった。
今日でそんな暮らしとはおさらばすることになるだろう。
「お姉ちゃん!!私…頑張ったよ!!」
「よし、チェックしてやる」
自信はある。部屋を見た瞬間「お!朱音がんばったな~!」と言われる未来は見えている。
ドアを開けた瞬間、お姉ちゃんが苦笑した。
なんで苦笑いしたの?え?
「あ~…まあ、ゴミは減ったな」
あまりにも微妙な反応で、反応に困り一瞬黙ってしまった。
「掃除機かけてないじゃん」
「え!?かけたよ!?」
「かけたの!?お前どんだけ掃除苦手なんだよ!!」
「あ~もういいや!掃除めんどい!」
「まあゴミが減っただけいいんじゃない?夜ご飯作ってくるね」
「は~い」
親はしばらく帰ってこないので、ご飯はいつもお姉ちゃんが作ってくれる。
「出来たぞ~」
「今行く~」
テーブルには鯖の塩焼きと味噌汁、白米が置いてあった。
お姉ちゃんは昔から和食が好きで、いつも食卓には和食が並べられる。
「「いただきま~す」」
「お姉ちゃんホント料理上手いよね~私も上手くなりたいな」
「だろ?和食は得意なんだよ」
「和食はね」
「うるさい」
「ごめんごめん」
「ごちそうさま~」
食器を下げて自分の部屋に入り、パソコンを起動した。
動画サイトから練習用のミックスリストを開いた。
私は毎日1時間ほど歌の練習をするのが日課だ。
のど飴を一つ舐めて、歌の練習を始めた。
「ふぅ…」
40分ほど歌い続け、風呂に入る準備を始めた。
着替えを用意し、服を洗濯カゴに放り投げて浴室に入った。
全身を洗い浴槽に浸かった。
浴槽で体を休めているといつも部活のことを考える。
今後の予定や部員のことを考える。
風呂から上がるとお姉ちゃんが音楽を聴きながら洗い物をしていた。
服を着て髪を乾かしてベッドに寝転び、耳にワイヤレスイヤホンを付け、自分の好きなアーティストの曲を検索し、寝転びながら音楽を聴いた。
眠くなってきたらこのまま寝てしまう。
音楽を聴きながら寝るのが一日で幸せな瞬間なのだ。
「おはよ~…」
「いつも以上に眠そうだな」
「音楽聞いてたら…えへへ…」
「ったく…朝ごはんは昨日買ったパン食べろよ」
「は~い」
昨日は音楽を聴くのに熱中してなかなか眠れなかった。
パンを取り出し、手を合わせた。
「いただきま~す」
朝のニュースを見ながらパンを食べ、軽く伸びをした。
「ごちそうさま」
洗面台で歯磨きをして顔を洗ったが、あまり目は覚めなかった。
家を出るまでお姉ちゃんと話した。
「今日の天気は」とか、「今日の予定は」とかどうでもいいことを話して過ごした。
「行ってきま~す」
ドアを開けると、近所の桜の木には桜が咲いていた。
「わ~!春だ~!」
近所が春の景色になっているのがうれしくて、思わず声になった。
キョロキョロとあたりを渡しながら歩いて曲がり角を曲がると、鋭い視線を感じた。
自分の姿をピンで留められたように的確に私のことを捉えている。
「せ~んぱ~い!!!」
聞き慣れた元気な声の方に目を向けると、目を輝かせてこちらに向かっている美香ちゃんの姿が見えた。
「うぇ?あ、美香ちゃん。朝から元気だねぇ」
「先輩眠そうですね。寝れなかったんですか?」
「歌の練習とか音楽聞いてたら寝れなくて…」
「先輩らしいですね~」
「そう?」
いつもの通学路を楽しく歩き、学校に着いた。
私の朝は最高の朝になった。
朝のホームルームを終え、授業が始まった。
「はいじゃあ授業始めます。教科書14ページ開いてください」
少し眠かったが、授業に集中することができた。
ふと克己君の方をチラっと見ると明らかに眠気と戦っていた。
(克己君も寝れなかったのかな…私よりやばそう…)
♢♢♢
午前の授業を終え、6時間目が始まった。
教室の中を覗くと、美香ちゃんが和人君を元気づけているところを発見し、自然と笑みが零れた。
放課後――
「部室に行かないと…」
部長たるもの、一番最初に部室に向かう。
早歩きで部室に向かい部室のドアの前でボーっとしていると、廊下の奥から和人君が歩いてこちらに来ていた。
私に気付いて軽く手を振っている。
私も手を振り、和人君がこちらに来るのを待った。
「先輩相変わらず早いですね」
「部長だからね~」
「和人君は昨日何してたの?」
「ギターの練習と音源探ししてました」
「へぇ~さすが和人君!練習熱心だな~」
「弾くの楽しいですからね」
話していると、廊下の奥からリズミカルな足音が聞こえてくる。
チラっと足音の方を見ると克己君がスキップでこちらに来ていた。
よほど部活が楽しみなのが分かり、フフっと笑った。
「?」
和人君が不思議そうな顔をしていたので、克己君の方に目をやる。
和人君も克己君に気付き、ニコッと笑った。
「克己く~ん!」
「先輩、部活楽しみでスキップで来ちゃってたの見ちゃいました……?」
言ったら意味ない気が……
「いや?見てないよ?多分」
「絶対見たじゃないですか~!恥ずかしい…」
皆で笑っていると、廊下の奥から美香ちゃんがダッシュでこちらに手を振りながら向かってきていた。
「お~い!みんな~!!」
「美香ちゃ~ん!!」
「美香さん!」
「数音せんぱ~い!!」
部室の前に着くと、美香ちゃんは膝に手を置いて乱れた呼吸を整えた。
「ごめん…遅れちゃった…待った…?」
「もう…美香ちゃんったら…走らなくてもいいのに…」
「えへへ…」
「よし!部室入るよ~!」
「「「イェーイ!!」」」
「元気があってよし!!」
さあ、部活の時間だ。
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