第3話歌唱部へようこそ

 あれから数日がたった――

 相変わらず学校は楽しくないままだ。

 友達もいない。作ってないのだ。決して言い訳ではない…とも言い切れない。


 「はいじゃあ今日は仮入部する部活を決めます。え~部活はこの中から決めます」

 そう言って沢田さわだ先生は黒板にすべての部活を書いていった。


 あ、因みに先生は沢田博さわだひろしという名前だった。

 ひとりの男子が先生の名前を言い間違えたときに、「まったく…間違えるなよ!先生は沢田博だからな!」と男子と笑いながら話しているところを聞いたのだ。


 いつの間にか黒板には、『吹奏楽部』『演劇部』『歌唱部』『サッカー部』『野球部』『テニス部』『陸上部』『水泳部』とズラリと書かれてある。


(ん?)

 僕の目を引いたのは歌唱部だった。

(歌唱部ってどんな感じなんだろ…歌うんだろうけど…)

 周りが次々と仮入部する部活にチョークで名前を記入していくのを見て少し焦ってきた。


「別に今日無理に決めなくていいからな。明後日までによく考えるんだぞ~」

(歌唱部にするか…?いやでも入ってすぐ辞めたら嫌われちゃうかな…いやでもな~…あ~決まんねぇ…」


 この後もさんざん悩んだが結局悩み続け、授業が終わってしまった。

「はい、じゃあ終わります。今決められなかった人も明後日までに決めれば大丈夫なので安心してください。じゃあ次の授業の準備してください」


 放課後――


(帰るか…)

 バックを持ち、教室を出ようとしたが軽く尿意を覚えたのでトイレに向かった。

(トイレトイレ…)

 トイレを済まし、帰ろうとしたその時、どこからか聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。

(どこから…あっちからか?)

 音楽が聞こえる方に早歩きで向かうと、小さな教室があった。そこには


                歌唱部!!

 好きな歌、たくさん歌ってみませんか? 歌が大好きな人のための部活です!!!



 とポップな字で書かれたポスターが貼ってあった。教室の中からは激しいエレキギターの音色と、女性の力強い歌声が鮮明に聞こえてくる。

 その歌声に聞き入っていると、急に勢いよくドアが開き、背の高い女性が目の前に現れた。

「仮入部者!?仮入部者だよね!?さ、入って入って!!」

 ドンっと背中を押され強引に教室に入れられると、そこは本格的な機材とエレキギターにドラム、マイクが置かれた小さめの部室だった。



「ようこそ歌唱部へ!!私、ボーカル担当の日渡朱音ひわたりあかねって言います!!そしてギター担当!17歳の後輩、この男の子は猿渡和人さわたりかずとくん!!」

「ちょっと先輩落ち着いt」

「落ち着いてなんかいられないよ!!こんなにうれしいこと久々なんだもん!!で、和人君の同い年、ドラム担当の彼女が数音美香かずねみかちゃん!!」


つ、ついていけない……

「で君!!名前は!?」

「さ、佐藤克己です!」

「元気があって良し!!で、仮入部する!?」


 勝手に話が進んでいく。追いつけずに少し黙ってしまった。

 でも、こんなにも明るくて楽しそうな部活なら、今の学校生活も変えれるんじゃないか?そう思い出てきた言葉は一つだった。


「仮入部…させてください!!」


「やっったぁぁぁ!!!!」

「良かったですね!先輩!!」

「イェーイ!!」

 この部活で僕の高校生活は変わっていくだろう。

 僕の新たな学校生活が始まった。


「そういえばこの部活、部員は他にいるんでs」


ギャィィィィン!!!!


 爆音のエレキギターが部室に響き渡った。

 朱音が瞬時に克己に顔を近づけ笑顔で明るく言った。

「ちょ~っと聞こえなかったなぁ~もう一回言ってくれる?」

「な、何でもないです…」

 どうやら僕は触れてはいけないことに触れてしまったようだ……









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