第2話新たな学校生活

「朝か…」

 外からは小鳥のさえずり、車の行き交う音が聞こえてきた。

 今の自分にとって一番聞きたくない音の組み合わせだ。

「あ~もう着替えるのクソめんどい…」

 ボソっと独り言を言い、ため息をつく。

 ダラダラと着替えを終え、一階に降りるとテーブルに朝ご飯と小さな置手紙が置いてあった。パラっと手紙を開くと、


 克己へ

 今日はお母さん早朝から仕事だから、着替えと朝ごはん食べて元気に学校行ってらっしゃい!意外といいことあるかもよ!?(`・ω・´)


 と、地味にうまい手書きの顔文字と一緒にそう書かれてあった。

「いいことねぇ…あるといいけど」

 朝のニュースを見ながら黙って朝ご飯を食べ終え、

(学校行くか…)

 大あくびをしながら伸びをして玄関を出ると、かなり天気が良く、太陽の光が気持ちよかった。

 少し早めに家を出たのでまだ周りは静かだった。小さい陸橋を渡り、また無駄に長い坂を上り学校に着き、狭苦しい下駄箱で靴を履き替え、ドアを開け教室に入るとすでに相当騒がしい。


 黙ってバックをしまい席に着き、しばらくするとガララっとドアが開き2~30代ほどの男性の教師が入ってきた。

「皆席に着け~」


 周りの児童が席に着くと何故か担任が一切自分の説明をせず、そのままホームルームが始まった。

(え?なんで?忘れてる?)

 思い出した。

(入学式話聞いてなかったからかぁぁ……誰ぇぇぇ…?)

 今目の前にいる先生が、いったい誰なのかわからないままホームルームが終わった。

「じゃあ1時間目、2時間目は春休みの課題のテストなので筆箱出しといてくださいね~」

 お茶を少し飲んで筆箱を出し、頬杖をついてボーっとしていると、

 不意にお母さんの言葉が頭をよぎった。


「自分なりに好きなこと見つけて、高校生活楽しみなさい!」


(自分の好きなこと……)

 今度はまじめにしっかり考えた。

(…あ、音楽…)

 自分は音楽が大好きだということを今になって思い出した。

(でも楽器が弾けるわけじゃないし…)

 克己は歌うのは得意だが、楽器は弾けない。

「はいじゃあ数学の課題テスト始めるぞ~」


 考えているのを遮るようにテストが始まった。

 テスト用紙が配られ、ペンを握る。

「じゃあ始めてください」

 教室が一気に静まり、ペンの音だけが響きだした。


(よし。出来た)

 消しかすをはらい、ペンを置いて残りの時間は机に突っ伏せてまた好きなことについて考える。

 考えてみると、あまり浮かんでこなかった。

(あ~なんかモヤモヤするなぁ~…)

 そのあともしばらく考えているとチャイムが校内に響き渡り1時間目が終わった。

「はいじゃあ次は国語のテスト、そのあとはオリエンテーションなので準備しておいてくださいね~」

 好きなことについてはいったん考えないことにして、テストを受け、オリエンテーションを聞いた。


 帰りのホームルーム中も、下校中も好きなことについて考えたが、結局答えは見つからなかった。

「ただいま~」

 まだお母さんは仕事のようだった。宿題をして、ベットでゴロゴロしながらスマホをいじる。

 パっとスマホの時計を見ると、いつの間にか6時だった。

(お腹すいたな…)

 そのまましばらく待っていると、1階からドアを開ける音が聞こえた。

「おかe」

「克己~!!ほんとごめん!仕事長引いちゃった~!すぐご飯作るね!!」

 かなり食い気味に早口で謝られたのでぎょっとしたが、苦笑と安堵を混ぜて言った。

「おかえり」

 こうして僕の高校生活2日目は終わった。

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