見つかった。
2人と別れてから、私は小走りで隠れる場所を探していた。子供の体力がすぐに限界を迎えることは火を見るより明らかなので、マーニーが助けを呼んできてくれるまで上手く隠れるつもりだ。
ーー御者もマルスも無事だと良いけど。
2人の安否ーー特にマルスがどうなっているのかが気になる。奴らを迎え撃っていたマルスの生存はほぼ絶望的と言っても良いだろうが、私はどうしてもそのことを受け入れられなかった。
自分が買い物をしに出てきたから、警備を厳重にしていたらと後悔が襲ってくる。マーニーは、騎士を2人連れて行こうとちゃんと私に助言してくれていた。なのに、私は牢屋暮らしから解放されて、久しぶりの買い物ができると嬉しくなり、開放感と気の緩みでどうかしていたんだ。いくら犯罪率が少なく、危険性が低い街と道といえども、気を抜いてはいけなかったのだ。
今回は、今回こそはみんなを助けようと思っていたのに、これでは自分から危険に飛び込んでいるようなものだった。
「私は馬鹿だ。使用人達を危険に晒すようなことをして……」
熱くなる目を抑えて、泣くのを堪える。
みんなを危険に晒している私がここでできるのは助けを待つことだけだという事実にも自分に対する怒りが湧いてくる。
何も出来ない、自分自身すら守れない私がただやれることは、しっかりと周りの人たちに守ってもらう事だったのに。
小走りで移動していると、ふと木の根と土の間にできた空洞を発見し、そこに身を隠す。
ーーどうか見つかりませんように。そして、みんなが無事でありますように。
私は手を握り、ただ祈った。
♢
息を殺し続けてどれほどの時間が経っただろうか。
遠方から微かに音が聞こえてくる音は、風や木々の自然の発するものではなく人の話し声のように聞こえる。
移動した方が良いのか、その場に留まり隠れ続けた方が良いのか迷ったが、結局私はその場に留まることを選んだ。
この先逃げても隠れ場所がなかったり、崖や急斜面により行き止まりになっていたらそれこそおしまいだ。
私が隠れている隙間の存在が発見されないように、この隙間の入り口を土を盛って塞いでゆく。空気が通らなくなるのが些か不安だったが、そんなことを気にしている余裕はなく、とりあえず、奴らに見つからないようにすることが最優先事項だった。
息を殺し続ける。土で壁を作ったので、奴らがこっちにきているのかはよく見えない。外の状況が全く見えないまま隠れ続ければいけないというのは精神的に堪える。奴らがこっちにきているのか、どこか遠くへ行ったのかもわからない。
どうか見つかりませんようにと神に祈る。
が、その祈りは神に届かなかったらしい。
奴らが草木を踏み潰し、お互い話しながらこちらに向かってきている音が聞こえてくる。
ーーおかしくない?
奴らは何故か私のいる方向へ一直線にやって来ている。私がここにいるのを知っているかのように。
「おい。本当にこのあたりであってるのかよ!」
「ああ。この辺りで間違いない」
男達は私が隠れている場所の近くで喧嘩している。このままどこかに消えてくれと願いも届かないらしい。男達はずっとそこで一歩も動くことなく喧嘩している。立ち去る様子も勿論ない。
「おっかしいな〜。この辺りのはずだぜ? アイツ、どっかに隠れているんだ。探し出すとしますか」
「そうだな。連れて帰らなきゃ俺たちが危ねぇ。それだけはなんとか回避しねえと」
男達が草木をかき分ける音が聞こえてくる。どうやら、私を探し始めたらしい。
『この辺り』とは、私の現在位置でも分かっているのだろうか。でも、どうやったらそんなことが分かるんだ。
私を後からつけてくる奴がいたのならば、そいつ自身が私をさっさと捕まえてくるだろうし、こんな回りくどいやり方をするはずがない。なら、どうやって。
もし、おおよその私の現在位置が分かっているならば、奴らは私を発見するまではここから動かないだろう。
どうしようどうしようどうしよう。
マーニーが助けを呼んできてくれるまでアイツらに見つかるわけにはいかないのに!
「ん? おい」
何かに気づいた男が、もう1人の男を呼びつけ小声で何かを話している。
そして、男達は私が隠れている木の前に立った。
ーーああ、もう完全にバレているんだ。
「嬢ちゃん、そこにいんだろ? 出てこいよ」
男は、気持ちの悪い猫撫で声で私に出てくるように促してくるが、私はその言葉を無視しこの場に隠れ続ける。
するとーー
「いいから出てこい! 殴られてえのか!」
痺れを切らした男は、怒号を浴びせてきた。
私は恐怖で泣きそうになるのをなんとか堪える。完全に私の居場所がバレていて逃げ場がないことは分かっていたが、それでも私はここを出たくはなかった。1秒でも長く、時間を稼がなくてはと必死に自分に言い聞かせる。
私が捕まっても手がかりが残るように、私は片方の靴を脱ぎ木の根の窪みにねじ込んだ。
業を煮やした男が鞘から剣を抜く音が聞こえる。
「待て待て。思ったんだが、小さい子供なら怖くて縮こまってるんじゃないか? どこの誰だかも知らねえおっさん2人ーーしかも武器まで持ってる奴に追いかけられるとか俺でも怖えわ」
「…………それもそうか」
諫められた男は、剣を鞘にしまったようだった。
「はあ、仕方ない。掘るしかねえな。お前ランプ持っててくれ。明かりがないとよく見えねえわ」
男は、先ほどまで怒っており男にランプを渡すと、土を掘りはじめた。私が子供の手で作り上げた壁は、大きな手によっていとも簡単に崩されてしまった。
そして、私は木と地面の間から引き摺り出されてしまった。抵抗しようかとも考えた。しかし、私の体が恐怖ですくんでしまっていることに加え、抵抗したら最後ランプを持っている男にすぐさま殺されてしまいそうでできなかった。
「ほら、怖がってるじゃねえか」
「さっさと出てくりゃあよかったんだ」
男は私を抱き抱えて歩き始めた。ランプを持った男は私たちの前に立ち、道を照らす。
奴らは、私が靴を置いてきたことに気づいていないみたいだった。
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