夢の中の幽霊

 長い長い廊下をひたすら歩き、ようやく私は目的地である書庫に到達した。

 ーー誰もいないよね?

 使用人たちにでも見つかったら大目玉を食らうこと間違いなしだ。私は誰もいないことを祈りつつ、書庫の扉を開け、中を確認した。

 青い静かな月光が降り注ぐ大窓の前には、外を眺める老爺がいた。月明かりで彼の横顔が照らされていたが、私は彼を一度たりとも見たことはなかった。

「君が来るんじゃないかって期待して待っていたよ、シャンタル」

 幼い私でも、使用人でも兵士でもない身元不明の部外者が屋敷の中にいることの危険性は知っていた。しかし、私は何故だかは分からないけれど彼に危害を加えられるような心配はないと思った。

「どうして名前を知っているの?」

「……そりゃあ君は、その博識さから将来有望だと噂されるほど有名な子供だからね」

 見知らぬ人からの賞賛に、私は目を輝かせた。

「おじいさんはどこからきたの?」

「信じられないかもしれないけど、私はずっとここにいたんだよ」

 好々爺は私と目線を合わせるためにしゃがみながら言った。とても物腰の柔らかいお爺さんという印象を受け、私の中の彼への評価は高くなった。

 父や私に会いに来る高齢の人はみんな野心を含んだギラギラとした目をしているので苦手だった。それに比べてこの老爺は温かな目で私を見てくれる。私には、そんな目で見てくれる人は母以外に存在しなかった。

 父はいつも仕事で忙しいのであまり会えないし、会えたとしても私とは目をろくに合わせようとしなかった。いくら親しい使用人たちとも私とは、主従関係にあるので一線を置かれていたことを普段から感じていた。

「なんでここにずっといるのに、私の噂を聞けるの?書庫ではみんな静かにしているよ!」

 おじいさんは明らかに狼狽え、そして笑い始めた。

「シャンタル、やはり君は賢いね。そこに気づくなんて」

「もう、誤魔化さないでよ!」

「すまないすまない。君を甘く見ていたよ。本当に君は賢い女の子だ」

 再び彼に褒められて、私の気分と彼への評価は鰻登りだ。

「シャンタル、本当のことを言うとね、私はこの書庫ではなく屋敷全体を彷徨っているんだ。だけど、そう言っても君からしてみれば、私とは会ったことがないだろう?そうすると、君に何かやましいことがあるんじゃないかと疑われてしまうのではないかと思って、咄嗟に嘘をついてしまったんだ。」

「そうなの?」

「そうなんだよ。私の話を信じてくれるかい?」

 私はうーんと少し考えた後、首を横に振った。つまり信じないと否定したのだ。

「シャンタル、私の手に触れてみなさい。まあ、無理だと思うけどね」

「そんなのできるよ!」

 おじいさんは、しわがれた手を私の目の前に差し出してきた。

 私は当然、彼の手に触れるようとした。しかし、私の手は彼の手をすり抜けたので叶わなかった。

「え、なんで!」

 私は驚いて、自分の手を凝視した。

 おじいさんはそんな私をみてハハッと笑った。

「シャンタル、本来私はこの世にはいない幽霊なんだよ。だから触れることはできないし、普段は誰も私のことを見ることはできないんだ」

「幽霊!」

 その言葉に私の胸は高鳴った。幽霊ということは、彼が生きていた時代の話を生で聞けるということだ。それは好奇心旺盛な私にとって何よりも素晴らしいことだった。

「おじいさんおじいさん、あなたはどんな時代で生きていたの? 教えて!」

「シャンタルは好奇心旺盛だね。……私の生きていた時代は、そうだね。君が今日覚えた文字を使う時代だったよ」

「私が今日覚えた文字?」

「その文字で書かれた書物をどれだけ読めるか腕試ししにここまできたんだろ?」

「……そうだ! 古代文字!」

 すっかり忘れてた、と口元を手で覆う。

 そんな私を見て、おじいさんはにっこりと笑った。

「どれ、私がみてやろう。君の時代に到達するまでに失われた技術が多すぎる。これではーー」

「どうしたの?」

「シャンタル、君は公爵家の人間として、あまり人を信じないように耳にタコができるほど何回も言われてきただろう。しかし、私からは君個人に言いたい。公爵家としての君にではなく、ただのシャンタル。君に向けた言葉だ。よく覚えておいてほしい。あまり人を信じてはいけないよ。君の人を信じる気持ちは素晴らしいものだ。だけどね、それを悪用しようとする奴らがこの世界にはごまんといるんだ。なにか、おかしな状況に陥ってしまったら、周りを疑いなさい。どれだけ親しくても信頼していても裏切り者である可能性を捨ててはいけないよ」

「そんなの悲しすぎるわ。人は人と手を取り合って生きていく者だもの」

「それならば何故戦争は起きるんだい?」

「え?」

「君はすでに習っていると思うが、過去に何度も戦争が起きているだろう。その度に大勢の人は亡くなった。親しい人が亡くなる辛さを誰もが知っているのにね。戦争を辞めようとする会談、話し合いが行われたことも沢山あるだろう。その中で一体どれほどの会談が成功した? 戦争以外だってそうだ。王が側近や王妃に殺害されたことも両手で数えられない程あるんだよ、シャンタル」

「でもーー」

「私の死は病死だと処理されているようだね」

 彼の言葉と今までの会話内容から、私は悟った。もしかして、このおじいさんはーー。

「私もね、親友に殺されてしまったんだ。幼い頃からずっと一緒にいた唯一無二の親友だった。それなのに、彼は嫉妬から僕を殺したんだよ。」

 私の真相はバクバクとうるさいほどに音を立てる。

「私は愚かだった。君の抱いている理想を

本当に信じていた。結果が、これだよ」

 彼はぎゅっと見たくないものが見えないように目を瞑った。

 このままでは空気が重いままだと悟った私は、この雰囲気を打破するために大声を上げた。

「お、おじいさん!」

 おじいさんはまん丸の目でこちらを見た。私が大声を出したことにびっくりしたようだった。

「さっき古代語を教えてくれるって言ったよね! 教えて!」

「おお、そうだったそうだった」

 おじいさんは『さっきはあんな話をしてすまないね、シャンタル。』と申し訳なさそうに謝罪した。その際、彼は私の頭を撫でようとしたのだが、当然すり抜けてしまった。

 『触れられないのを忘れていたよ』と恥づかしそうに笑うおじいさんを見て私もつられて笑った。

 


 私がシャンタルに伝えなければならない事柄を全て覚えさせた後、少しの会話をて彼女に帰るように促した。

 術式、悪魔、古代文字とその解読法、私が生きていた時代の歴史。シャンタルはそれらを一度聞くとほぼ全てを記憶した。非常に彼女は賢い。この先、もし過酷な運命がなかったとしたら、もし彼女が普通の令嬢として過ごすことができたのならば、彼女は才女としてこの国全体に名を馳せ、彼女の夫と共に限りない幸せを享受できたであろう。しかし、彼女の現実はそんな優しいものではないことを私は知っていた。

 彼女がこの夢から覚めたら、私との会話は全て微睡と共に記憶の奥底に封印する暗示と彼女が辛くなった時にこの事を思い出すように暗示をかけておいた。

「おじいさんまたね」

「ああ」

 また私と会えると疑わないシャンタルは手を大きく振り、扉を開けてトテトテと足音を立てて去っていった。

 足音が遠ざかり聞こえなくなると、ただ1人書庫に取り残されたフリューゲルは彼女が出て行った扉に同情の眼差しを送った。

「シャンタル。君みたいな可愛い子がこんな過酷な試練を負わなければならないなんて」

 フリューゲルが予知できるのは、シャンタルが自分の術式を使用して過去に行くところまでだ。フリューゲルが見ることのできるのは、彼が存在する世界の話だ。

 彼女が過去に戻り彼女が以前と異なる言動をすれば、それが分岐点となり世界が分たれる。そうなってしまうとこの世界のフリューゲルは彼女の安否を知ることはできない。過去に戻った後、彼女がどうなるのかは全く分からない。

 この世界で彼女とその周りの人たちを救うことができるのならば是非そうしたい。しかし、出来ないのだ。彼女がいくら賢す同世代よりも優れていたとしているといったって精神はまだまだ子供のそれなことに間違いはない。彼女にも言った通り、彼女は人を信じすぎるきらいがある。それが仇となるんだ。彼女が変わるのは、彼女自身が何かがおかしいと気づき始めたあたりからだ。

 彼女が信じる者の中に、裏切り者がいると言ったって彼女は信じないだろう。悪魔はいつだって巧妙に人に寄り添うふりをして熟した絶望という名の果実を食らうのだ。しかも、彼が戦わなくてはならない悪魔は素晴らしいほどに狡賢く計算高い。

「どうかあの子に幸あらんことを。『私』が彼女の力にならんことを」

 フリューゲルは彼が作り出したこの夢の中でただ一人、彼女のための祈りを夜が明けるまで捧げていた。



 その夢から覚めた後は、老爺に出会ったことや、教えてもらったことなどを全て思い出した。どうして、あんなに不思議な出来事を忘れてしまっていたのかは分からないが彼に術式や暗示にでもかけられたのだと1人で納得した。悪魔が存在していた時代に生きていた老人ならば、とっくの昔に消滅した魔法というものを使っていてもおかしくはなかった。

 もし、あの時の記憶を持っていたままだとしたら、父に気を止めてもらおうと躍起になっていた私は自分の知識をひけらかしまくって殺されるのが早まっていたのだろう。

 もしかしたら、あの老爺はフリューゲル本人だったのかもしれない。古代語の時代に生きていたことやあの目の色は私や父のそれとよく似ていたし、なにより未来を知っているかのように今の私に必要な知識を全て教えてくれた。

 父の葬式のために首都に来ていた私は、こうしてはいられないと鉛のように重い体に鞭を打ち起き上がり、使用人たちに1人にしてほしいと憔悴した演技を見せながら彼と出会った書庫に向かった。

 それからは何日もかけて未だ解読しきれていない古代語の書物や文献を片っ端から読み漁った。

 これらのフリューゲルや彼の弟子たちによって書かれたと思われるものには、一つの場所を示す暗号になっていることに気づいた。  

 私はフリューゲルの書物や同時期に書かれた歴史書や文献を何度も読み、着実に暗号を解いていき、術式をいくつか解読した。

 最終的には隠されていた『秘宝』を何とか見つけた。

 そして、その秘宝を見つけた日のうちに蓄えた知識で三つの術式を描き、呪文を唱えた。一つ目は人間に擬態している悪夢を判別可能にするもの、二つ目は死ねば過去に回帰するというもの、三つ目は、悪魔が私が発動させた術に気付きにくくなるというものだった。

 過去に回帰する術には、術式と呪文と秘宝、そしてフリューゲルの子孫である私の血が必要だった。フリューゲルが編み出したとされるその術式は、悪用されれば大惨事を引き起こすものだったので難易度が極めて高く設定されているようだった。

 この世界で私の名誉を挽回するのは不可能だと悟った私は、この世界で出来るだけ情報を手に入れようと思ったのだ。

 私は未来にかけるしかない。だから、この世界で少しでも長く生きて少しでも多くの情報を手に入れる必要があった。拷問され、民たちに罵詈雑言を浴びせられながら処刑されるまで、私は絶望はなく希望を胸に抱いていた。術式がうまく発動してくれるのかという疑念もあった。

 術式を描くのなんて初めてなので、失敗してもおかしくはなかった。しかし、私には失敗するという恐怖や不安といったものはなかった。絶対に成功するというどこから来ているのかも分からない自信だけがそこにはあったのだ。

 結果は私の予想通り大成功を収め、私は過去に戻ってきた。



 父は大きなため息をついた。

 「はあ、お前がまともなドレスを着てきた時点で何かあるとは思ったが、こんなーー」

 ーーということはやはり、お父様も私のセンスはおかしいと気づいていたんじゃ……。指摘してほしかったわ。

「お父様、協力してほしいのです」

「殿下との婚約の破棄をか?」

「……いえ、貴族まだまだしも皇族ともなると難しいでしょう。それに、何の理由もなしに婚約を破棄してしまっては、怪しく思われてしまいますわ」

 もし私を嵌めようとしている相手に怪しまれてしまってはこの先行動しにくくなってしまうだろう。

 さらには、私とエリオットとの間にも政治的にも何の問題もないのに皇族との婚約を破棄してしまっては、公爵家と皇室との間には深い溝ができてしまうことは明らかだ。最悪の場合、戦争にまで発展する可能性だってある。私は婚約破棄によって起こる様々な問題に対応している時間はないので絶対に避けなければならない。

「では何を協力しろと?」

「今度、お父様が参加される皇族主催のパーティがありますよね? それに私も出席したいのです」

「殿下もおいでになるのにか?」

「ええ、彼は別に気になる事がありまして……あれは私が体験したことの中でも、20番目くらいに衝撃的なことでした。もちろん一番は処刑されたことですけど」

 あえてぼかした言葉に、父はこれ以上追求しても意味はないと思ったのだろう。幾許か考えてから、保留にする旨を伝えてきた。

「……シャンタル、君はとても辛い経験をしたということはわかった。だが、その自分に起きた辛い経験を嗤うのはやめてくれないか。心苦しくなる」

 私はティーカップの取ってを掴んだまま、硬直した。

 ーー笑わないとやっていけないのですよ、お父様。あんなに辛く苦しい思い出は、ただ思い出すだけでひどく暴れて泣き叫びたい衝動に駆られるのです。希死念慮が体の芯から溢れかえり、今にもベランダから身を投げてしまいたいと思ってしまうのです。なので、全て終わったことなのだと絶望を全て笑い話にして、自分の願望を抑え込むために言い聞かせるしかないのです。

 そのような本心を言葉を父に言うわけにはいかなかった。この辛さも辛さもわかるのは私だけ。どれだけ話したって、父が理解を示そうとしたって、あの時味わった私の絶望をわかってくれない。それならば、適当にこの話題を打ち切るべきだろう。

「ごめんなさい、お父様。つい、重い話を少しでも明るくしようと冗談で言ってしまいました。これからは過去での辛い出来事はあまり思い出さないようにします」

 申し訳なさそうに謝罪の意を述べる私に、父はあからさまに安堵の表情を浮かべた。

 回帰前、私は父に慰められたことから、彼の前では弱音を吐いてよいものだと思い込んでいた。

 しかし、この反応を見るにそうではなさそうだ。できる限り弱音は表に出さないようにしなくては。

 協力してくれるだけでもありがたいのだ。このやり場のなくどうしようもない感情は、何とか自分だけで封じ込まなければ。

 お父様と再会し、心のもやが晴れただけでも十分じゃないかと自分に言い聞かせる。

「お父様なら分かってはいらっしゃると思うのですが、今私がお話ししたことは絶対に口外無用ですからね!」

「ああ、分かっているさ」

 話も一区切りついたところで、私は少し冷めた料理を頬張る。久しぶりのまともな食事は何ヶ月ぶりか。私は、暖かさの残る美味しい料理に涙を流した。

「ど、どうしたんだ!」

「料理が、美味しくて……何ヶ月間もろくな料理を食べてなかったものですから、食べられたとしてもカビの生えた噛みきれないような硬い黒パンと、腐った水を少量しか貰えなかったものですから、この料理に感極まってしまっただけです」

 そう父にいいながら、私はいっそう涙を流す。

 あの牢獄であの極悪非道の死刑を待つだけの平民たちが暴れているのを何度も見たし体験した。毎日朝から晩まで獣のように喚いている奴らを思い出して私は小刻みに震えた。

 ボロボロと流れる涙も止まることを知らないようで、ドレスにシミをつけていく。私が身につけた作法や礼儀、マナーなんてものはどこかにいってしまったようで、声を押し殺して涙が枯れるのを待つほかなかった。

 父がそんな私を見かねておもむろに立ち上がり、私にハンカチを渡してくれた。私はそれを受け取り、涙を吸わせる。

「シャンタル、辛かったんだな……もう大丈夫だ。私がいる。協力して、絶対にその未来を変えよう」

 父は私をそっと抱きしめた。あの日、仕事を中断してまで別荘にやってきて階段で転倒しそうになる私を受け止めてくれた父を思い出し、私はより一層泣いた。

 そして、十数分経った頃、私は何とか涙を抑え、残りの料理を全て平らげた。あの牢獄の中、食べられなかった分を取り返すかのように。

 私が泣き止み目元が腫れていないことを確認した父は席に戻り、私の顔をじっと見ていた。その視線に気恥ずかしさを覚え、私は父から目を逸らした。先ほどまで私の中にあったヘドロのようなドロドロとした気持ちの大半はどこかへいってしまったようで、今はどことなくスッキリとしている。

 食事も済んだことだし、もうそろそろ自室に戻ろうと思うが、このまま最悪の雰囲気で別れるのも気が引けた。

 なので、私は不相応に明るい笑顔を作った。普段、私はあまり笑わないので程度というものがわからない。しかし、その笑顔が作り物だということを、今まで私と接する機会があまりなかった父が気づくはずもなかった。

 ーーお父様は、私が笑顔でいる方が嬉しいみたい。これからは、お父様も私も心から笑いあいながら生きていけるようにしたいわ。

 私は笑顔を保ったまま、様々なことを尋ねた。年齢や今の私の今の状況や交友関係などだ。

 私の年齢が現時点で7歳だということを教えてもらった瞬間、この当時流れていた『ある噂』を思い出した。『あの噂』は、私が食人鬼であるといった噂ではない。その噂はこの当時に私が失敗したものが誇張されて広まってしまったものだ。このことは考えるだけで嫌になってくる。

 父に、すでに『あの噂』は聞いているかと尋ねると彼は頷き、つい先日そのことで私を呼び出したばかりだったらしい。

 そのことを聞き、何という良いタイミングで回帰してきたのだろうと私は口角を上げた。



 父と別れ、私は部屋に戻った。父と対面したせいで精神的に疲れていたが、先ほど寝たばかりだからか眠気は全くなかった。

 「どうしたのですか? シャンタル様」

 マーニーに聞こえないようにため息をついたのだが、どうやら聞かれてしまったようだ。

「……父と会話をしたのだけど、私には普段着ているようなドレスではなくて、今着ているドレスの方が似合っているって言われたの。明日には服を新調しなきゃと思って」

 これは私のセンスがいきなり変わったことを不審に思われないようにするための策だった。私を昔から知っている使用人たちなら誰でも、私が父に気に入られようと密かに奮闘していたことを知っているので不自然には思われないはずだ。

 先ほど、私が新しいドレスとアクセサリーを買うこととそのために外出する許可をすでに父から頂いている。

「あら! では手立屋や宝石商人を呼びましょうか?」

「いいえ、今回は私が直接店に行こうと思うの」

 公爵家ほどの地位になると、わざわざ店に買いに行くのではなく、家に来てもらう事がほとんどだ。それは地位や権力を見せびらかすのにちょうどいいといことや店に出向く時間を省けるだけではなく、安全面を確保しやすいという利点があるからなのだが、今回は私は店に直接赴こうと思っていた。

 私の身の危険は少し上がっても街の中を散策して気分転換をしたいという他に、理由がもう一つあった。とある問題を片付けたいのだ。

 マーニーは、私が街に出向く危険性がわかっているので、不安げだった。

 主従関係において主の意見は絶対なので私の意見に逆らってはいけないことを重々承知している彼女は、『兵士たちを2人ほどお連れしても良いでしょうか』と確認を取ってきた。

 それに私は『1人だけなら』と了承した。

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