第5話「和解の狂執」前編
[大空&里沙]
「「う、うわぁ……」」
開幕から私と里沙ちゃんの前では、地べたの渡り廊下に土下座している嫉束君が居ますが。
[嫉束 界魔]
「お願いします!僕を王子役にして下さい!なんでもしますから!」
こんなみっともなくて情けない姿の嫉束君を見る事になるなんて……。
幸福なのか不幸なのか。
[永瀬 里沙]
「き、きつー……さっき断ったでしょ!行くよ、大空!」
里沙ちゃんは嫉束君には構わず走り去ろうとする。
[朝蔵 大空]
「え、え、でも……」
私は突然の事に足を動かせないでいた。
[永瀬 里沙]
「ほら行くよ!」
里沙ちゃんが私の手を取って引っ張っていく。
[朝蔵 大空]
「あ、う、うん」
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん!」
後ろから私の名前を呼ぶ声がした気がするが、振り返る事はなく私と里沙ちゃんは理科室へと逃げた。
[嫉束 界魔]
「そんな、ここまでしてもダメなんて……」
──『嫉束君が居ると、部活になんないよ』
[嫉束 界魔]
「はぁ……ううん、諦めないよ」
……。
[永瀬 里沙]
「
あれから私達は嫉束君を避けていた、そして劇の練習を終わらせてのやっとの放課後。
疲れた、嫉束君に見つからないように過ごしてたから……。
[永瀬 里沙]
「ねぇねぇ!部活も無いしさ、街行こうよ!まだ体力あるっしょ?」
対してまだまだ元気が溢れていそうな里沙ちゃん。
さすが運動部は違うなぁ。
[朝蔵 大空]
「あーたまには良いかもね〜」
里沙ちゃんと放課後デートか、超久し振りだな。
入学当初以来?
[永瀬 里沙]
「服買う〜」
[朝蔵 大空]
「私はまたバスボムが欲しいなー」
この前買った入浴剤も、もう無くなっちゃったし。
[永瀬 里沙]
「いいね、あのカフェの新作も飲みたいし」
[朝蔵 大空]
「あーあのスイカのやつね」
そうして私と里沙ちゃんは放課後電車を使って街の方に向かった。
──駅近のカフェにて。
[朝蔵 大空]
「スイカ下さい」
[カフェ店員]
「はーい」
私は期間限定のスイカフレーバーのドリンクを注文する。
[永瀬 里沙]
「私パイナップルで!」
里沙ちゃん新作のスイカ飲むんじゃなかったの。
数分後……。
[朝蔵 大空]
「美味しいね」
[永瀬 里沙]
「うーーん♡」
私と里沙ちゃんはそれぞれのドリンクを楽しむ。
その時だった……。
[嫉束 界魔]
「ここ一緒に良い?」
女同士の席で突然、男の影が現れたのである。
[大空&里沙]
「「ぶっ!!!?」」
私と里沙ちゃんは揃って飲み物を吹き出す。
[嫉束 界魔]
「良いよね??」
嫉束君は私達が許可を出す前に一緒のテーブルに座ってくる。
[朝蔵 大空]
「ゴホッ!ゴホッゴホッ……!ゴホッ……」
私はびっくりしすぎて激しく
[永瀬 里沙]
「ケホッ、ケホッ……あんたほんとヤバいからね?こんなとこまで追いかけて来て。この執着力、狂沢の受け売りだったりしない!?」
この前の水族館の時にも思ったけど、もしかしてこの人……ズレてる?
あの時も私が卯月君と過ごしてる時に急に割って入ってきたもんだし。
[嫉束 界魔]
「すごーい!どうして分かったの?」
あ、当たってたー!
だよねー、私もなんかそんな気がしてた。
[永瀬 里沙]
「い、良いからあっち行ってくんない、今私達デート中だから。嫉束君?」
私はスイカで里沙ちゃんはパイナップルだけど、嫉束君はバニラのドリンクを持っている。
嫉束君はそれをストローでひと口飲んだ。
[嫉束 界魔]
「へぇ!甘くて美味しい、飲む?大空ちゃん」
嫉束君は私に自分のドリンクを飲むように言ってくる。
[朝蔵 大空]
「えっ!///」
ちょっと待ってよ!!
彼氏持ちにナチュラルに関節キスさせようとして来ないで!?
[永瀬 里沙]
「バニラ飲むんだ……なんだか解釈一致ね」
確かに、嫉束君にはバニラが似合う。
[嫉束 界魔]
「店員さんのオススメだよ。僕こう言う所あんまり来ないから、選んでもらっちゃった」
[永瀬 里沙]
「ふーん、あっそ」
里沙ちゃんはあまり興味無さそうに突き放す。
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん、今度は僕とデートしてね?」
[朝蔵 大空]
「えっ!ちょっとそれは……」
そんなの色んな意味で無理だよ!
それに私は既に卯月君以外の男の子とはデート出来ない体になっているのです……。
[永瀬 里沙]
「……もう良い。大空、外行って歩きながら飲も」
[朝蔵 大空]
「あっ、ちょっと待って里沙ちゃん。外暑いよ〜?」
私は嫉束君を置いて、店から出て行こうとする里沙ちゃんをドリンクと荷物を持って追いかける。
[嫉束 界魔]
「また……僕だけ仲間外れなの?」
その時、嫉束君の酷く悲しそうな声が
[朝蔵 大空]
「嫉束君?」
嫉束君の目から涙が溢れそうになっているように見えた。
[永瀬 里沙]
「し、嫉束……?」
外に出ようとしていた私達は一旦立ち止まって嫉束君の様子を見る。
[嫉束 界魔]
「……」
──『悪いんだけどー、さ……辞める事も考えといて』
[朝蔵 大空]
「……ちょっと外行こっか」
私は嫉束君の傍まで戻って彼にそう呼び掛ける。
[嫉束 界魔]
「えっ?」
それから私達3人は近くの大きな公園まで移動してきた。
とりあえず嫉束君はベンチにでも座らせといた。
[永瀬 里沙]
「ちょっと、ちょっと……!なんで連れて来ちゃったのよ?」
[朝蔵 大空]
「ごめん、ほっとけなくて」
[永瀬 里沙]
「そうかもしれないけど、危険よ?」
[朝蔵 大空]
「うん……」
私達はベンチで暗い顔をして俯きながら座る嫉束君の方に目をやる。
[嫉束 界魔]
「……」
この通りすっかり大人しくなってしまった。
[永瀬 里沙]
「しかもあいつ、さっきからなんにも喋らないじゃない」
[朝蔵 大空]
「とりあえず話聞いてあげようよ、もしかしたら謝った方が良いかもしれないし」
私達が気に触るような言動をしたのかもしれない。
[永瀬 里沙]
「うーん……分かった」
[朝蔵 大空]
「いける?」
[永瀬 里沙]
「うん…………嫉束ー?」
まずは里沙ちゃんが嫉束君に話し掛けていく。
[嫉束 界魔]
「ん、何?」
嫉束君は
嫉束君、今は辛い思いをしているはずなのに。
[永瀬 里沙]
「さっきは冷たくしてごめん、私らもびっくりしちゃってさー」
[嫉束 界魔]
「……?いや、僕がごめんだよ。空気読めてなかったって言うか」
里沙ちゃんと嫉束君がお互いに謝り合う。
[永瀬 里沙]
「う、うん」
[朝蔵 大空]
「それでどうして嫉束君はここまで?」
私達ここまで電車で来たのに、狂沢君の受け売りだとは言え凄い行動力だなこの人。
[嫉束 界魔]
「!!……その、僕諦められなくて」
[永瀬 里沙]
「王子役をって事?」
[朝蔵 大空]
「どうしてそこまで……」
[嫉束 界魔]
「やっぱり、楽しそうだから?分かんない、僕にもあんまり」
そう言って嫉束君は自信無さげに答えた。
[永瀬 里沙]
(大空目的じゃないの?)
『楽しそう』……そっか、嫉束君も文化祭を楽しみたいんだ。
そうだよね、嫉束君も男子高校生だもん。
嫉束君って普段から周りに気を使ってそうだし。
人気者として誰かの期待に応えようと頑張っているんだよね。
そんな嫉束君が王子をやったら、きっと皆んなが喜ぶし、本人も楽しいだろうし。
"そうなったら私も嬉しい"。
[朝蔵 大空]
「分かった、良いよ!」
私はそう笑顔で応える。
[嫉束 界魔]
「あっ、い、良いの?」
[永瀬 里沙]
「大空!?ど、どう言う事か分かってるの?」
里沙ちゃんは私が一足先に許可を出した事により慌て出す。
[朝蔵 大空]
「うん。それに里沙ちゃん、本音はこう思ってるんじゃないの?」
[永瀬 里沙]
「な、何よ?」
私は知ってる、里沙ちゃんの本当の気持ちを。
[朝蔵 大空]
「『イケメン来たー!イケメン最高ー!』……ってね?」
本当は今すぐにでも嫉束君の王子姿を見たいくせに。
[永瀬 里沙]
「はっ?」
[嫉束 界魔]
「永瀬さん、僕頑張ります!!」
[永瀬 里沙]
「……やられた、あんたがそんな情熱的な男だなんて、思ってもみなかったわ。良いよ、あんたがそこまで言うなら仲間に入れてあげる」
[永瀬 里沙]
(こいつを入れるのは怖くてしょうがないけど。まあSFCの奴らも、なんだかんだ言って喜ぶでしょ、多分)
[嫉束 界魔]
「……!!ありがとうございます!」
その時の嫉束君の笑顔は、とても自然な笑みだった。
[永瀬 里沙]
「少しでも言う事聞かなかったら即効外すからよろしく」
[嫉束 界魔]
「えっ!」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん!意地悪しちゃダメだよ」
この日はこれで街で遊ぶのは終わりにして、私と里沙ちゃんは自分達の家の近くまで帰って来た。
[永瀬 里沙]
「
[朝蔵 大空]
「大丈夫だよ、所詮お芝居だし。あの団体も嫉束君の王子役が見られてラッキーじゃん?それに今回は本人がやりたいって言ってるんだし、それを言い訳にすれば良いよ」
[永瀬 里沙]
「あははっそうだね!むしろ感謝してほしいぐらいだわ」
そうそう、無駄に怖がらず、ポジティブに考えて行こう。
[永瀬 里沙]
「じゃあここでじゃあね!」
[朝蔵 大空]
「うん!またね〜」
そう言って里沙ちゃんは別の道を歩いて行こうとする。
[???]
「里沙さーーん!!」
その時、後ろから誰かが走ってくる。
[永瀬 里沙]
「きゃっ!?」
その誰かが里沙ちゃんの体に抱き着いて来たのだ。
[朝蔵 大空]
「あら、真昼……」
なんと、里沙ちゃんに抱き着いたのは我が弟の真昼。
真昼はきっと今塾から帰って来たのであろう。
[朝蔵 真昼]
「里沙さん好き好き好き好き好き」
[永瀬 里沙]
「あっ……ちょっと大空助けて?」
里沙ちゃんは真昼に強く抱き締められて身動きが取れなくなってる。
[朝蔵 真昼]
「里沙さんもっと会いに来てよ、里沙さん里沙さん里沙さん」
あのドライな真昼が里沙ちゃんに対してはこのようにゾッコンである。
ち、ちくしょー!姉の私を差し置いて!
あの真昼にここまで好かれて正直言って羨ましい、私は悔しさのあまり泣きながら自分の家の玄関まで走った。
助けを求める里沙ちゃんを置いて。
……。
その夜、SFC緊急会議が行われた。
[杉崎 アンジェリカ]
「ウッウン……では始めましょうかね。……えー皆様、本日は急な呼び出しに応じて頂きありがとうございます。既にご存知の方もいらっしゃると思いますが一応名乗らせて頂きます。
[剣崎 芽衣]
「……ゴクリ」
一瞬の静寂の中、生唾を飲み込む剣崎。
[杉崎 アンジェリカ]
「どう思いますか芽衣様っっっ!!?」
即効剣崎に話を振る杉崎。
[剣崎 芽衣]
「何が!?」
[杉崎 アンジェリカ]
「2年2組の出し物についてです!」
[剣崎 芽衣]
「あ、劇だよね?たまに何人かで体育館で練習してるみたい。ふふっ、すっごく楽しそうだった」
[会員B]
「はい!」
[杉崎 アンジェリカ]
「Bさんどうぞ」
[会員B]
「その劇には嫉束君も出演するらしいです!」
周囲から「えっ、嘘ー?」「やばくね?」など驚きの反応が見られる。
[杉崎 アンジェリカ]
「その通り、私達の嫉束君が勝手に使用されようとしているのです!」
[剣崎 芽衣]
「使用って……嫉束君も物じゃないんだから」
[杉崎 アンジェリカ]
「しかも王子役でっっっ!!」
ピリつく部屋の空気。
[剣崎 芽衣]
「で、でも皆んな。嫉束君の王子姿見たくない?」
[会員一同]
「「「……見たいっっっっっ!!!」」」
[杉崎 アンジェリカ]
「では、ここは泳がせてみましょうか」
つづく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます