第4話「持つべきもの」後編

 ざわざわ……ざわざわ……。

 



[女子A]

 「秋祭り早く来ないかなー!」



[女子B]

 「もうその話してんの?まだ文化祭も終わってないってーの」



[女子A]

 「今年は絶対彼氏と行くんだー」



[女子C]

 「作れんの?」



[女子A]

 「作れるもんっ!」




 教室で楽しそうな会話が聞こえる中、今私はひとりで寂しく自分の席に座っている。




[朝蔵 大空]

 「すぅー……ふぅん」




 里沙ちゃん大丈夫かなぁ、ああ見えてすぐ意地張っちゃうとこあるから心配だなぁ。



 ああ、私ったらどうしてもそわそわしちゃうな。



 いっその事、私も様子見に行っちゃおうかな?



 あ、これは決して私が野次馬やじうまとかではなくて……。



 単純に意地っ張りな親友が心配ってだけ!!




[木之本 夏樹]

 「お、おい。ひとりなのか?」




 ひとりでボーッとしている私に木之本君が声を掛けて来てくれる。




[朝蔵 大空]

 「あ、木之本君……ごめん」




 私は目の前の木之本君をにはあまり構わず席から立ち上がる。



 やっぱり気になるから、心配だから!私も裏庭に向かおう。



 と思い、私が教室から出た時だった。






 ドンっ!!






[朝蔵 大空]

 「ふぐっほげっ!?」




 な、何か"硬めの弾力のあるモノ"にぶつかったよ!



 しかもその反動で私は後ろに尻餅をついてしまった。



 いったーい!!もーなんなのよ。




[刹那 五木]

 「ふはっ、お前なんて声出してんだよっ」




 頭上から笑い声が聞こえてくる。



 あっ、人にぶつかっちゃったみたい。




[朝蔵 大空]

 「ごめんなさ……って、五木君じゃん!」



[刹那 五木]

 「おれだよ」




 なるほど、さっきの無駄に反発力のあるものは五木君の胸筋だったのか、納得。



 よく知らない人にぶつかったんじゃなくて良かった……。




[刹那 五木]

 「お前……見えるよ?」



[朝蔵 大空]

 「はい?何が?」




 何が見えるって言うの?



 五木君が見ている箇所に私も目をやる。



 するとスカートが大変な事になっているのに気付く。



 なんと、履いているスカートが大胆にめくれて居たのだ。




[朝蔵 大空]

 「ちょっ……見たのぉ!?」




 私は急いでおかしくなったスカートを直す。



 いやん、五木君にパンツ見られちゃったかも恥ずかしい!!




[刹那 五木]

 「誰もお前のパンツなんかで興奮しないよ〜」




 と言って、五木君は私に自分の手を差し出してきた。




[朝蔵 大空]

 「見たかどうか聞いてるんだけど〜!!」



[刹那 五木]

 「立ち上がらないの?お姫様?」




 そう言って五木君がかがんで自分の手を更に前に出してくる。




[朝蔵 大空]

 「へ?」






 ざわざわ……ざわざわ……。






 !?!?




[生徒A]

 「なんだあの良い感じなの」



[生徒B]

 「青春ー?」



[生徒C]

 「もしかしてあれかな?劇の練習的な!」



[生徒A]

 「すっげー!テンション上がって来たー!本番楽しみ〜!」




 !?!?



 最悪、私達変な感じに目立っちゃってるよ。



 もーう!イケメンと関わるとっ……こうなるんだっ!!



 こんな感じでいつも目立ってるんだ……ムカつく。



 この注目度、さぞモテるんでしょうね。




[朝蔵 大空]

 「……ありがとう、いいよ」



[刹那 五木]

 「ん……」




 私は五木君のその手は借りずに自分の力だけで立ち上がってみせる。



 ここで手を握ったらなんだか負けな気がしたから。


 


[刹那 五木]

 「なんだよ、ノリ悪いなぁ。それでもお姫様なのか?」



[朝蔵 大空]

 「さっきから……それ、なんの事?」




 私の事お姫様お姫様って急に変な呼び方して。




[刹那 五木]

 「え、だってお前白雪姫の劇に出るんだろ?」



[朝蔵 大空]

 「なんで知ってるのー?」



[刹那 五木]

 「つっても、あんなとこにあんな面白いポスターがあったらそりゃ知ってるよ」



 

 と言って、五木君は向こうの柱の方を指さす。




[朝蔵 大空]

 「……?」




 あ、なるほど。



 五木君、あれを見たのか。



 里沙ちゃんが描いた、あのふざけたポスター。



 と言うかあのポスター色々説明が足りてない気がするんだよね……。




[朝蔵 大空]

 「……何よ、悪い?」




 私の事馬鹿にしようとしてるでしょ……。




[刹那 五木]

 「ふっ、悪いなんてひと言も言ってないだろ。お前が楽しくしてるみたいで、おれも嬉しいよ」



[朝蔵 大空]

 「え?」




 私が楽しく?




[刹那 五木]

 「お前昔からすっげぇ引っ込み思案だっただろ?なのに主役とかすげーじゃん、何があったのかは知らないけど、成長したな!」



[朝蔵 大空]

 「そんな……あ、ありがとう……」




 五木君がそんな事言ってくれるなんて……。



 今の私は、里沙ちゃんや卯月君達のおかげで毎日楽しい!



 ちょっと前まで、学校なんて面倒臭いだけだったのに。



 つまらなかったのに。



 でも私、そんなに楽しそうに見えてるの?




[刹那 五木]

 「それでー、なんだけど。おれも王子役に立候補する」



[朝蔵 大空]

 「い、五木君もー?」



[刹那 五木]

 「うん」




 五木君は他クラスなのに……。



 確かにあのポスターには他クラスでも可みたいなニュアンスで書かれてるけど。




[朝蔵 大空]

 「い、良いと思う!あ、そうだ。その事里沙ちゃんにはもう言ったの?」




 王子役はまず里沙ちゃんの厳しい審査に通らないとダメなんだよねー。




[刹那 五木]

 「そうだなぁ……」




 五木君は私の言葉で一瞬黙り込む。




[刹那 五木]

 「今日辺りに言おうと思ってたところ」



[朝蔵 大空]

 「それなら急いだ方が良いよ!締め切り、一応明後日までなの!」




 急がないと、実はなんだけど、もう居る人は居る人で練習軽く始めちゃってるんだよね。




[刹那 五木]

 「うーん永瀬かぁ、なーんか話し掛けにくくてな。悪いけど、お前から永瀬に言ってもらう事って出来るか?」



[朝蔵 大空]

 「私から……」




 里沙ちゃんって話し掛けにくいかな?



 それに五木君なら誰とでも話せそうだけど。




 ……。




[嫉束 界魔]

 「そ、それで永瀬さん、どうかな?王子役やっても良いかな?僕」



[永瀬 里沙]

 「……嫉束君ってもしかして大空の事好きなの?」



[嫉束 界魔]

 「えっ!?ま、ま、まさか!僕と大空ちゃんはただの友達だよ〜」




 嫉束君ったら、そんなにほっぺたをピンク色に染めて慌てられてもこっちは困るんだけど。




[永瀬 里沙]

 「あ、そう」




 ただの友達?クラス違うし、大空とはほとんど接点無いはずなのに。



 嫉束君みたいなカッコ良くて人気のある人が王子やってくれたらそりゃ文化祭も盛り上がるけど。



 嫉束君とまでなると、人気が"有りすぎる"のよねー……。



 それにに何言われるか分かんないしなぁ。




[永瀬 里沙]

 「ごめん、嫉束君。貴方みたいな超絶イケメンが出てくれるのは嬉しいし、せっかくだけど……今回はご縁が無かったと言う事で、諸事情により!」




 私はそう言ってそそくさと嫉束君の前からおサラバする事にした。




[嫉束 界魔]

 「あれっ?」




 私はその後は走った。



 ……。



 午後の合同体育の時間。




[笹妬 吉鬼]

 「逃げられちゃったな」



[嫉束 界魔]

 「なんで!?カッコ良ければ誰でも採用じゃないの?」



[笹妬 吉鬼]

 「そりゃお前みたいなトラブルメーカーと関わりたくないからだろ」






 ピッ!♪






 その時、ホイッスルのような音が聞こえてくる。




[体育教師]

 「おい!!嫉束サボるな!」




 笛をくわえた教師が嫉束に怒鳴る。




[嫉束 界魔]

 「は、なんで僕だけ言われんの?……サボってませーん」




 嫉束は悪態をついて答える。




[狂沢 蛯斗]

 「いーえサボってました、くだらない無駄話で」




 それに近くに居た狂沢が横槍よこやりを入れる。




[嫉束 界魔]

 「は!?くだらなくないしっ」




 嫉束は狂沢に向かって睨んだ。




[狂沢 蛯斗]

 「ではなんの話をしていたんですか?」



[嫉束 界魔]

 「ふっふーん聞いて驚くなよ?実は僕……王子役に立候補したんだー!」



[笹妬 吉鬼]

 「不採用だったけどな」



[嫉束 界魔]

 「もー!吉鬼は余計な事言わなくて良いのー!」



[笹妬 吉鬼]

 「寄るな、アツい」




 笹妬は近くに寄って来た嫉束から一歩後ろに下がって離れようとする。




[狂沢 蛯斗]

 「そうですか、それは残念でしたねー」



[巣桜 司]

 「はぁハァ……狂沢君、ぼくはもう倒れそうですぅ……!」




 狂沢は訴える巣桜を無視して嫉束と話し続ける。




[狂沢 蛯斗]

 「まっ!ボクはOKをもらえましたけど」



[嫉束 界魔]

 「何に?木の役に?」




 嫉束は躊躇ためらいもなくニコニコで狂沢に聞く。




[狂沢 蛯斗]

 「……違いますよ、王子です」



[嫉束 界魔]

 「君が王子ー?」




 嫉束は狂沢の答えを聞いてクスクスと馬鹿にしたように笑う。




[狂沢 蛯斗]

 「なに?」



[嫉束 界魔]

 「だって君ちっちゃいじゃーん!」



[狂沢 蛯斗]

 「は?」



[巣桜 司]

 「あぅ……」



[狂沢 蛯斗]

 「ぼ、ボクはもちろんこれから高くなるんです!将来は180センチになる予定なんです!貴方なんか高校ここを卒業する頃にはしてますから!」



[嫉束 界魔]

 「あははっ!ナイナイ!」



[笹妬 吉鬼]

 「おい……辞めとけよお前」




 流石にまずいと思った笹妬が後ろから嫉束をやんわりと止める。




[巣桜 司]

 「だ、だからぼくも言ったんです!狂沢君だったら小人役の方が良いんじゃないかって!」



[狂沢 蛯斗]

 「貴方も余計な事は言わなくて良いです!!」



[巣桜 司]

 「ひいぃ……!ごめんなさい!!」




 狂沢に怒鳴られた巣桜は泣いてしまった!




[嫉束 界魔]

 「あーん泣いちゃった……」



[笹妬 吉鬼]

 「大丈夫?」




 笹妬が涙目の巣桜に寄り添う。




[巣桜 司]

 「あ、ありがとうございます。全然大丈夫ですっ!」



[嫉束 界魔]

 「お、お願いだよ狂沢君!同中のよしみでさ!僕どうしたら良いのかな?教えてよ、僕が王子になれる方法!」



[狂沢 蛯斗]

 「いーーや、知らないですけど」




 狂沢は苦笑する。




[嫉束 界魔]

 「頭良いでしょ!!」



[狂沢 蛯斗]

 「……まあひとつ言うとしたら。本気なら、諦めない事をオススメします」



[嫉束 界魔]

 「諦めない事……そ、そうだよね!」



[狂沢 蛯斗]

 「そうですよ、大体の事はゴリ押しでなんでもいけるんですよ」




 狂沢がそう言うと、笹妬も賛成するかのように何回か頷く。




[嫉束 界魔]

 「……!!分かった!」




 ……。



 午後の授業の後の休み時間。




[朝蔵 大空]

 「えーー!!?まさかまさかのーー?」



[永瀬 里沙]

 「誰にも言っちゃダメよー?」




 あの後里沙ちゃんは息を切らしながら教室に戻ってきた。



 今話を聞いたら手紙の相手は嫉束君達だったみたいで、どうやら嫉束君の方が私達の劇に参戦したがってるらしい。




[朝蔵 大空]

 「入れるの!?」



[永瀬 里沙]

 「入れる訳ないでしょ、あんな爆弾面倒見れないわよ」




 もったいなーい!けど、しょうがないよね。




[永瀬 里沙]

 「とりあえず移動しよ」



[朝蔵 大空]

 「う、うん」




 次は理科の授業で、理科室への移動になる。




[嫉束 界魔]

 「待ってーぇ!」




 ズザァーっと誰かが私達の足元を這いつくばってくる。




[朝蔵 大空]

 「きゃっ!」



[永瀬 里沙]

 「な、何!?」




 嫉束君!?



 そんな地面に転がって汚いよ!!




[嫉束 界魔]

 「お願いします!僕を王子役にして下さい!なんでもしますから!」






 「持つべきもの」おわり……。

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