第2話「アサガオの約束」後編

 その日の夜、家族で夜ご飯を食べようとしていた時だった。



 千夜お兄ちゃんはと言うと、この時間はどこかに出掛けていた。



 そして私の隣に真昼、その向かいにお母さんが座っているのだが、その隣にあとひとり人間……と言うか悪魔がひとりが足りない。




[朝蔵 大空]

 「あれ?ミギヒロは?」




 私はそこにミギヒロがいない事に気付く。



 もう食事が食卓に並んでいると言うのに、ミギヒロがリビングにやって来ない。




[朝蔵 葵]

 「あらほんとね……どうしたのかしら?」




 ご飯の時間に食いしん坊のあいつが来ないなんて珍しい。



 そして隣に座っている真昼が思い出したかのように……。




[朝蔵 真昼]

 「そう言えば、靴が玄関に無かったね」



[朝蔵 大空]

 「えー!そうなの?」




 靴が玄関に無い、と言う事はまだミギヒロは家にも帰って来ていない?




[朝蔵 葵]

 「嘘〜!もう外も暗いのに……」




 お母さんも心配しているようだった、だって私も心配してる。




[朝蔵 真昼]

 「外食してるとか?」




 私達に対して真昼はこんな時でも冷静だ。



 外食?でも夕飯までには戻りなって言ったのに。




[朝蔵 大空]

 「ご飯あるのに」



[朝蔵 葵]

 「それならそれで良いけど……心配ね」




 よくないよ!



 あいつめ、せっかくお母さんが美味しいご飯を作ってくれたのに、自分は外で食べてくるとか許されるはずがない!



 そう言えばあいつ、レストランがいの方に向かってったな……。




[朝蔵 大空]

 「もう!私、レストラン街の方見に行って来るわ!」




 私はミギヒロを探しに行こうと椅子から立ち上がる。




[朝蔵 葵]

 「あ、ちょっと大空!」



[朝蔵 真昼]

 「まあすぐ帰って来るでしょ」



[朝蔵 葵]

 「もう……そうなら良いんだけどね」




 ……。




[朝蔵 大空]

 「どこ行ったし、あいつ……」




 私は近くのレストラン街に向かって歩いていた。




[朝蔵 大空]

 「もう!どこ?」




 行き交う人、人集りを見ていくが、ミギヒロらしい人は見つからない。




[朝蔵 大空]

 「……はぁ」




 ミギヒロめ、ほんと迷惑な悪魔。



 人を心配させるんじゃないわよ。



 でも、本当に見つからない……どうしよう。



 その時だった。




[ナンパ男A]

 「お姉ちゃん♪」




 『お姉ちゃん』と言う声が聞こえる、でも真昼の声ではない。




[朝蔵 大空]

 「え……」




 誰かに呼び掛けられたような気がして、後ろを振り向く。



 派手な男の人達が私をニタニタとしたいやらしい目で見ていた。



 ま、まさか私に話し掛けてないよね?



 私は気付かなったフリをして前を向き直し、また歩いて行く。




[朝蔵 大空]

 「……」



[ナンパ男A]

 「ちょーい待ってよー」




 ひとり、男が私を追っ掛けて来て……。




[朝蔵 大空]

 「ひゃっ……!?」




 私の肩に手を置いて来た。



 肩に他人の手の感触が、気持ち悪い……。



 びっくりして私は後ろを振り向く。




[ナンパ男B]

 「へぇ、可愛い声出すじゃーん」




 なっ……。




[朝蔵 大空]

 「な、なんですか!?」




 男達の言動に苛立って大きな声が出てしまう私。




[ナンパ男A]

 「なんか探してんでしょ?俺らが一緒に探してあげるから、一緒に行こうよー」



[朝蔵 大空]

 「……は?」




 怖い、逃げたい。



 だけど私の足は恐怖で動かなかった。



 その代わりに、気付いたら私は……。




[朝蔵 大空]

 「い、嫌っ!!」






 パチンっ!!!






[ナンパ男A]

 「痛っ!!」




 手が出ていた。



 私の手が目の前の男を平手打ひらてうちしたのだ。




[朝蔵 大空]

 「あっ……ごめっ……」




 こ、こんな事するつもり無かったのに。




[ナンパ男A]

 「痛ってぇな……やってくれたね、君」




 男は自分の頬を手で押さえる。




[朝蔵 大空]

 「そのっ、ご、ごめんなさい……」




 あーもう私の馬鹿!




[一般人A]

 「なに?暴行?」



[一般人B]

 「何やってんだあれ……」




 これじゃ私が悪い事になる!



 道行く人、誰もが見て見ぬふりをして誰も私を助けてくれない。




[ナンパ男C]

 「まあまあ、謝罪はソッチでしてもらえると嬉しいな?」



[ナンパ男B]

 「おっ!そうだな、そうしようぜ!」




 面白可笑しく笑いだす男達。




[朝蔵 大空]

 「え?」




 男達は全員、ある建物の方を見ている。



 私もそれを見た、ゾワッとした。




[朝蔵 大空]

 「えっ……」




 あれって……ホテル?"大人"の……。

 


 嘘でしょ?



 こんな事ってほんとにあるの?




[ナンパ男A]

 「着いて来てよ」



[朝蔵 大空]

 「嫌っ……」




 すると男達が私の周りを囲み、私をホテルの方へと誘導して行く。



 背中を押され、腕を引っ張られ、私は抵抗が出来ない状態。



 凄く強い力、痛い。



 ──大人の男の人。



 助けて。



 助けて。



 助けて。



 助けてよ。




[一般人A]

 「ちょっと、あれヤバくない?」



[一般人B]

 「警察呼んだ方が…………って、え!?」




 どよめく周囲の人達。




[一般人A]

 「何?」



[一般人B]

 「そ、空から人が!!」



[一般人A]

 「は!?」




 誰か助けて!!!



 その時だった。




 ──「ちょおっと待っターー!!」




 いよいよホテル内に連れ込まれると思った時、頭上から何やら聞き覚えのある声が。




[ナンパ男C]

 「あ?なんだ?」



[ナンパ男B]

 「なんか聞こえたぞ!」



[ナンパ男A]

 「あ……え?えっ?」




 男達が上に何かがいる事に気付いて唖然としだす。



 ……あれ?あいつは。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ!!」



[加藤 右宏]

 「大空ー!!」




 私はあんたを探してたのよ!




[朝蔵 大空]

 「あの……助けて……」




 私は空に浮かんでいるミギヒロに助けを求める。



 その近くの人も飛んでいるミギヒロに大注目!?




[一般人C]

 「ゆゆゆゆゆ幽霊だ!!」



[一般人D]

 「いや!どっちかって言うと未確認生物だろ!」




 あいつ、結構目立っちゃってるみたいだけど良いの?



 てか、マジで今は早く助けて!



 私、大人の階段登っちゃうよ。




[加藤 右宏]

 「ケダモノめー!人間は醜い〜」




 ミギヒロがナンパ男どもを捉える。




[ナンパ男A]

 「な、なんかあれが俺達の事見てる気がするんだけど……」



[ナンパ男C]

 「め、めっちゃ敵視してるね」



[ナンパ男B]

 「な、なぁ逃げた方が良くないか?」



[ナンパ男A]

 「あ、あぁ……チッ、楽しめると思ったのによ」




 私の体を離してあっさりどこかへ走り去って行く男達。



 ミギヒロを恐れて逃げて行ったのだ。




[朝蔵 大空]

 「た、助かった……?」




 ナンパ男達からやっと解放された私。




[加藤 右宏]

 「大空〜!」




 ミギヒロが私に向かって空中から降りてくる。




[朝蔵 大空]

 「あ、あんた……」



[加藤 右宏]

 「ん?」






 ザワザワ……ザワザワ……。






 周りの人、皆私達の事を見てる!



 み、ミギヒロが空を飛んでからだ!




[加藤 右宏]

 「ヤベェ、大空!一旦ここから離れるゾ!!」




 そう言ってミギヒロは私に近付いて来て……。




[朝蔵 大空]

 「あ、ちょちょ……」




 お、お姫様抱っこだ!!



 初めてされた!




[加藤 右宏]

 「行き先は、近くの公園まで〜!」




 その瞬間、ミギヒロはビュンっと体を浮かせて飛んで行く。



 夜の高い高い空を飛んで行く。




[朝蔵 大空]

 「こ、怖い〜!!」




 高い所が基本苦手な私は涙目になる。




[朝蔵 大空]

 「し、下が……こ、ここから落ちたら……死ぬ」




 私は下を見てしまった。




[加藤 右宏]

 「お、おい!落とさないカラしっかり捕まってロ!」

 


[朝蔵 大空]

 「は、はい……」




 私はミギヒロに言われた通り、捕まろうとミギヒロの首にしがみつく。




[朝蔵 大空]

 「はぁ……」




 最悪、なんでこんな事になるのかな?




[加藤 右宏]

 「でも見てみろよ」



[朝蔵 大空]

 「なによ?」




 私は顔を前に向ける。




[朝蔵 大空]

 「……へぇ」




 上空から見る街の夜景?って言うのかな?眩しい光がいくつも輝いていた。




[加藤 右宏]

 「人間は愚かな奴が多いガ、この景色だけは、良いヨナ」



[朝蔵 大空]

 「そ、そうだね」




 綺麗、だけどやっぱり怖くて、すぐにまたミギヒロの胸に顔をうずめて、私は何も見ないようにした。

 



[朝蔵 大空]

 「あ……着いた?」




 私達が降り立った先は近所の公園。




[朝蔵 大空]

 「あぁ……なんか気持ち悪……」




 乗り物酔いってやつかな?



 まあ色々ありすぎてしんどくなった。



 私達は公園にあったブランコに座る。




[加藤 右宏]

 「大丈夫カー?」



[朝蔵 大空]

 「なんか、トラウマになったわ」



[加藤 右宏]

 「ウン……」




 ひとりであんな所通るのってやっぱり危ないんだね。



 こんな事なら真昼にも一緒に来てもらえば良かった。



 いや!真昼こそ襲われてたから家に置いて来てやっぱ正解!



 ま、まあその前に私が大変な目にあわされそうだったんですけど……。




[朝蔵 大空]

 「あーあ、あそこあんな治安悪かったっ?あー、男運無いってやつかしら……」



[加藤 右宏]

 「……」



[朝蔵 大空]

 「な、何黙ってんのよ?」




 しかも表情、妙に真剣だしちょっと怖いんですけど?




[加藤 右宏]

 「その事なんだけど」



[朝蔵 大空]

 「ん?なーに?」



[加藤 右宏]

 「お前の呪い、それなんだ」



[朝蔵 大空]

 「えっ?」




 出た、呪い。



 私の呪いがそれってどう言う事?




[朝蔵 大空]

 「え?男運が無くなるって事……?ちょっと!!」




 私はミギヒロの胸ぐらに掴み掛かる。




[加藤 右宏]

 「ちょ、ちょっと待て……厳密に言うとソレは違くテ」




 そう言われて私は一旦ミギヒロから手を離す。




[加藤 右宏]

 「まあ簡単に言うと、癖のある野郎どもに異常にモテるようになるんだよ」



[朝蔵 大空]

 「く、癖?」



[加藤 右宏]

 「そーそー。例えば、何か問題を抱えているような奴だな。さっきの奴らは女に飢えていると言う問題……と言うやつダナ!」




 そんな無茶苦茶な……。




[朝蔵 大空]

 「普通の男子は?」



[加藤 右宏]

 「さぁそれはどうだろ?まだそこまで情報収集してないからな!」



[朝蔵 大空]

 「……意味分かんない」



[加藤 右宏]

 「……」




 あーあ、私って本当に不幸だな。



 呪いはかけられるし、変な男に捕まるし。




[加藤 右宏]

 「うーん……」




 ──『話した方が良いと思うけどな』




[加藤 右宏]

 (アリリオ……)



[朝蔵 大空]

 「……はぁ」




 私はため息を吐いてしまう。




[加藤 右宏]

 「オレ……家に居て良いのカナ」



[朝蔵 大空]

 「え?どうしたの急に」




 横を向くと暗い表情で俯くミギヒロがいた。




[朝蔵 大空]

 「別に……いたいならいれば?」



[加藤 右宏]

 「……」




 だんまりか……よく分かんない奴。




[朝蔵 大空]

 「帰ろうよ、ご飯もまだ食べてないし、お腹空いちゃった」




 私はブランコから立ち上がり、公園を出る。



 その後ろにミギヒロも静かに着いて来る。




[朝蔵 大空]

 「何か悩みでもあるの?」



[加藤 右宏]

 「お、オレは……」




 あまりにも静かだから。




[朝蔵 大空]

 「何があるのか知らないけどさ、何かあるなら話してよ」



[加藤 右宏]

 「え?」



[朝蔵 大空]

 「家族でしょ」



[加藤 右宏]

 「……!?……かぞ、く?」




 歩いて行く内に、我が家が見えてくる。



 無事に帰って来られて良かった。



 ただいま。






 「アサガオの約束」おわり……。

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