第2話「アサガオの約束」前編

 前回、私は家に帰る途中に、道で水路に落ちている車椅子の人を見つけた。




[朝蔵 大空]

 「あ、あ……」




 た、大変!車輪が溝に落っこちちゃったんだ!!




[朝蔵 大空]

 「い、今助けまーす!」




 私はすぐに道路の反対に渡って、車椅子の少年の元まで駆け寄って行く。




[車椅子の男]

 「……?」




 すると、男の子もこちらに気が付く。




[朝蔵 大空]

 「大丈夫ですか!?」



[車椅子の男]

 「あー大丈夫じゃないっす」




 思ってたより落ち着いてるっぽいけど……まずは助けないとっ!!



 私は傾いて沈んでしまった方の車輪を持って力いっぱい引き上げる。




[朝蔵 大空]

 「ふんっ!!」




 私は自分の力を振り絞った。




[車椅子の男]

 「おー……」




 私は引き上げた車椅子を平坦な所に戻す。




[朝蔵 大空]

 「ふぅ……」




 私は息を吐いて左手で額の汗をひと拭き。



 良い事したわね!




[車椅子の男]

 「ウッス……」




 男の子は私を見て軽く会釈をしてくる。




[朝蔵 大空]

 「あ、あのー?怪我は……?」




 こう言う時、まずは安否確認をしないと。




[車椅子の男]

 「あ?あー、腕挟んだ」



[朝蔵 大空]

 「え!嘘!?」




 私はすぐに怪我したであろう男の子の右腕を見させてもらう。




[車椅子の男]

 「少しね」




 男の子が言う通り腕は軽傷なようで、目立った外傷も無かった。



 でも打ったと言うのだからあとから痣がブワッで出てきそうだ。




[朝蔵 大空]

 「あー……あーどうしよ……」




 これ、絶対知らんぷりしちゃいけないやつだよね!?



 そ、それなら私が補助を……!




[車椅子の男]

 「あざす、じゃ……」



[朝蔵 大空]

 「あの!ご自宅はどこですか?送って行きます!」




 そう言って私は車椅子の持ち手を握る。




[車椅子の男]

 「えっ、マジで?」



[朝蔵 大空]

 「マジです!」




 私がそう言うと、男の子は少し驚いたような顔をしていた。




[車椅子の男]

 「あんた、引けるの?」




 私に車椅子を引けるのか?と言う事だろう。



 確かに引き慣れている訳ではないが、大丈夫。




[朝蔵 大空]

 「はい!昔体験学習で!」



[車椅子の男]

 「あ、そーゆうやつね……」




 記憶の中で、大昔にそんなような体験をやらせてもらった気がする。



 言うて持ち手を持って押して行くだけなので、そんなに難しくなかったはずだ。



 あとは通る所や足場にさえ気を付ければ……。




[車椅子の男]

 「次、左ね」



[朝蔵 大空]

 「はい」




 私は男の子の指示通りに右へ曲がったり左へ行ったりして車椅子を押して行く。



 あれからしばらく歩いた。




[車椅子の男]

 「へー、結構快適じゃん」



[朝蔵 大空]

 「そ、そうですか?」




 良かった、私上手いみたい!



 それにしてもこの子、服装的にうちの高校の男子だよね?



 ネクタイも青色だし、後輩だよね?




[朝蔵 大空]

 「あ、あのー……?」



[車椅子の男]

 「何?」




 そう言って男の子はこちらに視線を向けて来る。



 わぁ……よく見たらこの子、綺麗な顔!



 ベージュの髪に、藤色の瞳なんて珍しー!




[朝蔵 大空]

 「土屋校の子だよね?」



[車椅子の男]

 「そうだけど」




 間違い無かった!



 このまま名前とかも聞いてみちゃおっかな?




[朝蔵 大空]

 「名前、なんて言うの?」



[車椅子の男]

 「え、聞いてどうすんの?」




 やべっ。




[朝蔵 大空]

 「えっ!?えーいやー!なんでも無いけど……ごめんなさい」




 そうだよね、いきなり知らない女の先輩に名前聞かれたら後輩からしたらそりゃ怖いよね!




[不尾丸 論]

 「……苗字、不尾丸ふおまる。名前、ろん



[朝蔵 大空]

 「え?ふお……何?」




 私はあまりよく聞き取れなかった。




[不尾丸 論]

 「不尾丸、論。よろしく、先輩」



[朝蔵 大空]

 「せっ……!?」




 なんだろうこの気持ち。



 今この子、私の事『先輩』って呼んでくれたよね!?



 なになにこの気持ち!



 きゅんと来るような、嬉しい気持ち!!!




[朝蔵 大空]

 「せ、先輩かぁ……」




 『先輩』……良いね。




[不尾丸 論]

 「……あんたは?」



[朝蔵 大空]

 「へ!?わ、私は朝蔵大空……」



[不尾丸 論]

 「ん?あー、あんたが大空先輩なんだ?」



[朝蔵 大空]

 「え?」




 不尾丸君が今言った事、どう言う事?



 私の事、よく聞く……かのような言い方。




[不尾丸 論]

 「あ、着いた着いた」



[朝蔵 大空]

 「ん?おうち?」




 どこに家があるの?



 どこにも家っぽいものは無いけど、まさか……。




[朝蔵 大空]

 「こ、この建物!?」




 着いた先は、『アサガオこども院』。



 ここって確か孤児院のはずだけど……。



 この子、ここが家なのか。




[朝蔵 大空]

 「……」




 私は予想外で言葉を失ってしまった。




[不尾丸 論]

 「ありがと、ここまでで良いや」




 不尾丸君は自分の力で今度は前へ進んで行く。




[朝蔵 大空]

 「あ、うんじゃあ……」




 『ここで帰ります』と言おうとした時だった。



 施設の自動ドアが開いて中から人が出てきた。




[施設の人]

 「あら!もー論ちゃん良かったぁ、いつもより遅かったから心配したんですよ?事故にでもあったのかと……」




 おー手厚いお出迎え……。




[不尾丸 論]

 「あーまあ事故っちゃあ事故」




 溝にバッチリ車輪がハマってたもんね。




[施設の人]

 「あ……」



[朝蔵 大空]

 「……!」




 恐らく施設の人間であろう女の人の目が私に向けられる。




[施設の人]

 「もしかして……うちの子をここまで?」



[朝蔵 大空]

 「あ!はい、偶然通り掛かって……」




 私がそう言うと女の人が満面の笑顔になる。




[施設の人]

 「まあーそれはありがとうございます!ほら論ちゃん、ありがとうは?」




 随分幼稚な感じに扱われてるんだなぁ……。



 一応もう高校生だよね?



 うちの真昼だったら絶対嫌がるだろうなぁ。




[不尾丸 論]

 「さっき言ったし、もう良いよ」



[朝蔵 大空]

 「じゃ、じゃあ私はこれで……」




 そう言って私は施設に背を向けて歩き出そうとした。




[施設の人]

 「あっ!待って下さい!疲れたでしょーう?お茶でも1杯飲んでって下さい!お菓子もありますからー」




 お菓子!!




[朝蔵 大空]

 「えと……じゃあ少しだけ」




 そう言われるがまま、私は自動ドアから施設内に案内された。



 中は空調が効いていてとても快適だった。



 微かに子供達の声も聞こえる。




[施設の人]

 「はい!どうぞお座り下さい!今色々持ってきますからー」




 そう言って施設の人は廊下の方に歩いて行ってしまった。



 私は今、玄関入ってすぐのロビーのような場所のフカフカのソファに座らされている。




[朝蔵 大空]

 「良いソファだ……」




 黒色の皮のソファ、フェイクか本物かは分からないがとても質が良い。




[不尾丸 論]

 「オレ着替えて来て良い?」




 あれいつの間にか不尾丸君、今度は車椅子じゃなくて杖で立ってる。



 あと今気が付いたけど身長もあんまり高くないみたい。



 165cmぐらい?




[朝蔵 大空]

 「あ、どうぞどうぞ……」




 私がそう言うと不尾丸君は、少しおぼつかない足取りで近くのエレベーターに乗って行った。




[朝蔵 大空]

 「はぁ……なんか凄いとこ来ちゃったなぁ……」




 こう言うとこ、普段絶対入らないし、縁が無いからなぁ。



 それからしばらくして……。




[施設の人]

 「すみません、今は緑茶しか無くて……」



[朝蔵 大空]

 「あー大丈夫です!私、緑茶大好きなんで!」




 私の目の前のテーブルに、緑茶1杯と色とりどりのブランド菓子が置かれた。




[朝蔵 大空]

 「ジュルリ……」




 有名なお高いお菓子ばっかり!



 ど、どれも美味しそうだけど……こう言う時ガッツいたら下品だよね!



 1、2個で……いや、3個ぐらいで我慢しておこう!



 うん、絶対に!



 ……。




[不尾丸 論]

 「お菓子好きなんだな」




 私の向かいのソファには不尾丸君が座っている。



 杖はそのそばに立て掛けてある。



 結局6個食べちゃった……どれも美味しくて予定より倍の数食べちゃったよ!




[朝蔵 大空]

 「ちょ、ちょっと恥ずかしくなってきた……」




 私はテーブルの上にある自分が食べ終わったお菓子袋の6袋を見て恥ずかしくなる。




[不尾丸 論]

 「別に、もっと食べたければ食べれば?」




 そう言う訳にもいかないんだよな……。



 私、部外者だし。




[朝蔵 大空]

 「いやちょっとこれ以上はほんと無理」



[不尾丸 論]

 「……?お腹いっぱい?」




 そっちの意味じゃない。



 これ以上食べたら印象悪い気がするから無理。




[朝蔵 大空]

 「う、うんそーいっぱい!」




 私はこの時、嘘をついてみた。



 だけどほんとはもっと食べたい。




[朝蔵 大空]

 「……はぁ」




 お菓子でのどが乾いた私は緑茶をグイッと飲む。



 のどがカラカラでチビチビなんて飲んでいられなかった。




[不尾丸 論]

 「あいつがいればなー……会えたのに」




 私は最後のひと口を飲み干した。




[朝蔵 大空]

 「はぁ……え?」




 不尾丸君、なんの話してるんだろ?



 ひとり言??




[不尾丸 論]

 「ねぇあんた、今日はいつ頃帰る予定?」



[朝蔵 大空]

 「え、えとー……晩御飯までには帰りたいから……」




 ケータイの画面を見ると、もう夕飯近い時間だった。




[朝蔵 大空]

 「うん、そろそろかな!」



[不尾丸 論]

 「だよね、じゃあまた今日みたいな事あったらーよろしくー」




 不尾丸君はそう言って、杖をついてまたエレベーターで上がって行ってしまった。



 あ、不尾丸……右足を引きずってる。




[朝蔵 大空]

 「あ……う、うんオケー……?」




 よくハマるのかな?溝に。



 あの子ドジっ子??




[朝蔵 大空]

 「……帰ります」




 そして私以外誰も居なくなったロビー。




[受付]

 「はーい!また来て下さいねー」




 私はソファから立ち上がって自分が出したゴミだけ持ち帰って施設を出た。



 最後に受付の人にだけ挨拶とお礼を言って建物を後にした。



 ……。




[不尾丸 論]

 「……」




 大空が帰った後、不尾丸が自分の部屋でゆっくりしていた時だった。






 ガチャ……ドン……。






 隣の部屋から人が入ってくるような物音が聞こえてくるのに、不尾丸が気付く。




[不尾丸 論]

 「おっ、洋助ようすけ帰って来た」




 そう言うと、不尾丸はベッドから立ち上がる。




[不尾丸 論]

 (……朝蔵先輩か)



[不尾丸 論]

 「お人好しって感じの人だったな」




 すると、不尾丸は廊下に出て来て隣の部屋の扉の前に立つ。



 そして不尾丸はノックをしようと構える。






 コンコンっ……。






[???]

 「……何?」




 中の人の素っ気無い返事が聞こえてくる。




[不尾丸 論]

 「洋助ー?風呂行かね?」



 洋助と言う男の名前を呼んで風呂に誘う不尾丸。




[洋助と言う男]

 「ああ、後で行く」



[不尾丸 論]

 「オッケー」



[不尾丸 論]

 (ほんと、学校にいる時とキャラ違いすぎだよな)




 そう言われて不尾丸は先にお風呂セットを持って風呂場に向かって歩いて行くのであった。






 つづく……。

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