第1話「ハマってしまった!」後編
[嫉束 界魔]
「え、えっとー……」
刹那の堂々たる登場に固まる嫉束と笹妬であった。
[刹那 五木]
「そーんなビビられちゃうか」
と言って刹那は『たはは』と笑ってみせた。
[笹妬 吉鬼]
「知り合いだっけ?」
急に話し掛けて来た刹那に笹妬は警戒している。
[刹那 五木]
「いやいや!全然初対面です」
対して刹那はなーんにも気にせずヘラヘラとしている。
[笹妬 吉鬼]
「誰だよこいつ、お前の知り合い?」
[嫉束 界魔]
「いや、特には……」
笹妬は嫉束の方に視線を向ける。
刹那そっちのけで小声で話しだす嫉束と笹妬。
[嫉束 界魔]
「えとー……刹那君だよね?サッカー部の」
嫉束は刹那の名前と肩書きだけ知っている。
[刹那 五木]
「あーそうそう!刹那五木です!よろしくねー」
爽やかな笑顔とともにふたりに友好的な態度を見せる刹那。
[嫉束 界魔]
「え?よ、よろしく」
[笹妬 吉鬼]
「よろしく……」
それに若干引き気味の嫉束と笹妬。
[刹那 五木]
「で話を戻すけどさ、これ君達も参加するの?」
再び壁に貼られている募集ポスターの方に話題が振られる。
[嫉束 界魔]
「あー……まあ、興味はあるかなって感じ」
[刹那 五木]
「だよねー!じゃあおれも」
[嫉束 界魔]
「え?君も?」
刹那も王子役に応募すると聞き、焦る嫉束。
[刹那 五木]
「うん。てか、さっき名前教えたんだから、君とかで呼ばないでよ。ね?」
[嫉束 界魔]
「あ、うんそうだね刹那君」
嫉束はそう言って刹那に微笑み掛ける。
[刹那 五木]
「わっ、やっぱカッコ良いね嫉束君」
嫉束の笑みを見た刹那は感動したように嫉束の顔を褒めていく。
[嫉束 界魔]
「ありがとう……」
[嫉束 界魔]
(男子に言われるのは久し振りだな)
『カッコ良い』とか言われ慣れている嫉束はここで軽く受け流していく。
[刹那 五木]
「えっとそっちの君は……」
刹那は笑顔を保ちつつ、笹妬の方に視線を向ける。
[笹妬 吉鬼]
「……?」
[刹那 五木]
「確か笹妬君って言うよね?うわー君達みたいなイケメンが相手かー、勝てる気がしないなー」
と、またヘラヘラと笑う刹那。
[嫉束 界魔]
(なんだろう、勝てる気がしないとか言いつつ、刹那君から絶対の自信を感じる気がする……この人、強い)
刹那に対してただならぬものを感じる嫉束。
[刹那 五木]
「あ、そうだ。ねぇねぇ、この姫役の朝蔵大空ちゃんって子とおれ、実は幼馴染みなんだー」
刹那は自慢するかでもようなテンションでそう言う。
[嫉束 界魔]
「えっ……あー、そう幼馴染み。そうなんだ」
[嫉束 界魔]
(妙に余裕そうと思ったら、そう言う事か。なんなの、マウントのつもり?)
嫉束は笑顔を作りつつも心の中でそう考える。
[笹妬 吉鬼]
「ふーん」
[笹妬 吉鬼]
(いきなりなんのアピールだよ)
嫉束と笹妬は大空に男の幼馴染みがいた事にここで初めて知らされる。
[1組男子A]
「おーい五木ー!そろそろ戻って来いよー!」
向こうから刹那のクラスメイトが刹那を呼んでいる。
[刹那 五木]
「おーう」
それに返事をする刹那。
[刹那 五木]
「あははー、じゃあおれそろそろ行くわ〜。またねー、イケメンおふたりさんっ」
そう言って刹那はふたりを後にして廊下を歩いて行ってしまった。
[嫉束 界魔]
「あの人、吉鬼の事も知ってたね」
[笹妬 吉鬼]
「……ああ言うの、なんて言うんだっけ」
笹妬が嫉束に問い掛ける。
[嫉束 界魔]
「多分、陽キャラってやつだよ」
[笹妬 吉鬼]
「それだ」
嫉束の答えに納得が出来た笹妬。
[嫉束 界魔]
「なんだろう?あの幼馴染み君に、遠回しに"顔だけの奴"って言われた気がする」
ここで嫉束が言う幼馴染み君とは、刹那五木の事である。
[笹妬 吉鬼]
「そうか?」
刹那の確かな悪意に気付いている嫉束に対して、笹妬はあまり気にしていない様子。
[嫉束 界魔]
「絶対そうだよ!ねぇなんか悔しくない!?吉鬼も一緒に応募しようよー」
今度は必死に笹妬を誘う嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「いや、俺とお前が参加しても悪目立ちするだけだろー……」
校内で一目置かれている嫉束界魔と、謎に一部の生徒達から恐れられている笹妬吉鬼。
[笹妬 吉鬼]
「こう言うのはもっと……人望とか?ある奴の方が良んじゃね、他にも居るだろ別に」
そんなふたりが王子役なんてやれば話題になるどころの話じゃないだろう。
大大大スクープである。
[嫉束 界魔]
「そ、そうかもだけどさ!やっぱり……」
嫉束は募集ポスターの方に目を向けて、姫役は朝蔵大空と書かれている所の文字を見る。
その下に、小さく『今の所の候補は卯月君&木之本!!』と書いてあるのを見つける。
[嫉束 界魔]
「……!」
[嫉束 界魔]
(大空ちゃんが言ってた卯月君!……ライバル、多いみたい!)
燃える嫉束。
[嫉束 界魔]
「……取られたくないよ、チャンス!」
[笹妬 吉鬼]
「……チャンスか」
……。
そして私達の教室。
[永瀬 里沙]
「へー狂沢君も参加してくれるの!?」
[狂沢 蛯斗]
「ええ、やります!」
狂沢君ね、条件1のイケメンは難無く果たせていると思う。
でも身長私と一緒じゃん。
あっ、本番中暴走しないか不安だなぁ。
暴走と言えばもうひとり……。
[巣桜 司]
「く、狂沢君がやるならぼくも……なーんて」
司君もやる気なんだ……。
司君、舞台立てるのかな?そもそも。
また真っ白に枯れない?
[永瀬 里沙]
「あら!巣桜君まで!オーケーオーケー!おふたりの美貌ならやれる!王子やれます!」
里沙ちゃんはそう言って席から立ち上がり、元気良くグッドポーズ。
里沙ちゃん超嬉しそうだな。
[卯月 神]
「……」
どことなく卯月君が不機嫌そうだな。
私らが隣でうるさくしてるからだろうけど。
あ、狂沢君が卯月君の近くに……。
[狂沢 蛯斗]
「すみませんね卯月君、大空さんとの仲を邪魔してしまったみたいで!」
うわー完全に煽ってるよなーあれ。
てか私との仲って何?
[卯月 神]
「あーそうですか」
卯月君は読んでいる本に目を向けたまま狂沢君をほぼ無視している。
[巣桜 司]
「うう、うわぁ〜!ダメだよ狂沢君!そう言うの良くないよ〜!ご、ごめんなさい卯月君!狂沢君がっ……」
[卯月 神]
「気にしてません」
卯月君、即答。
[狂沢 蛯斗]
「なっ……!?なに保護者面してるんですか!」
司君に怒りだす狂沢君。
[巣桜 司]
「ひぃ〜!!ごめんなひゃーい!!」
えっ!狂沢君の代わりに司君が謝ってる?
司君、ちょっとは度胸付いたのかな?
一緒にいる人がアレだと似るってよく言うよね。
でも司君、狂沢君に変な影響受けてないと良いけど……。
[木之本 夏樹]
「くそっ。なんだよ7人って、多すぎだろ。俺があいつの代わりに王子やる作戦だったのに……」
[文島 秋]
「お前が王子ふたりでやれば良いとか提案するから複雑になったんだろー、人生思い通りにいかないよなー」
[木之本 夏樹]
「大体、あいつらが付き合ってるってのはほんとなのかよ」
木之本は大空と卯月の方に目を向ける。
[文島 秋]
「なんだろうね、聞いても『付き合ってない』ってふたりとも答えるし」
[木之本 夏樹]
「なんだよ、付き合ってるなら付き合ってるでそう言えば良いだろ。ムカつく」
[文島 秋]
「お前朝蔵ちゃんの事気にしてたもんな〜」
そう言って文島はクスクスと笑う。
[木之本 夏樹]
「あっ!おい馬鹿!言うなよ!」
文島に大空の事を言われて顔が赤くなる木之本。
……。
そして放課後。
[朝蔵 大空]
「ミギヒロ、あんたの所は文化祭何やんの?」
放課後私はいつもはひとりで帰るが、この日はミギヒロとたまたま校門の所で会って、一緒に帰り道を歩いていた。
[加藤 右宏]
「ヤターイ!」
[朝蔵 大空]
「ん?屋台の事?なんの?」
分かるけど独特な発音だったな、ミギヒロの住む世界では屋台とか無いのかな?
[加藤 右宏]
「んーよく分かんなかったケド旨いモン売るらしーゼ!!」
[朝蔵 大空]
「ふふ、そうなんだ。じゃあ楽しみにしてるわ」
真昼に接客してもらいたーい!!
絶対行くー!!
私は今から当日が楽しみになる。
[加藤 右宏]
「あ、オレ用事あるカラ」
と言ってミギヒロは別の道に
[朝蔵 大空]
「ご飯までには戻って来るのよー」
外出とか珍しい、でも良いねたまには。
どこ行くんだろ?と少し気になるけどプライベートだからあんま聞いちゃ悪いよね。
……。
[加藤 右宏]
「おーい!来たゾー!いるカァー?」
ここはどこかの路地裏。
[???]
「ん、いるよ」
黒い影から何者かが現れる。
[加藤 右宏]
「アリリオー!オラに"魔力"を分けてくれー!」
ミギヒロはアリリオと言う少年に駆け寄り、何かを
[アリリオ]
「魔力、大事に使ってよね。ボクだって一々人間界に来るの面倒臭いから」
[加藤 右宏]
「これでも節約してるヨー」
アリリオはミギヒロに何か怪しげな
[アリリオ]
「たまには魔王様の所に帰ったら?心配してるよ」
[加藤 右宏]
「やだよーこえーモン……それにオレ!勉強は嫌だ!アッチで修行するよりコッチの方が楽だもん!まあ、あの天使様も嫉妬深くて機嫌取るニモひと苦労だけどナ!」
[アリリオ]
「そうなの?」
[加藤 右宏]
「アア!そりゃあもう!あいつ、顔には出ナイけど内心メラメラよ!最近なんてヤベーっゾ!」
[アリリオ]
「まあ、天使は独占欲が強い生き物。仕方無いと言える」
アリリオは
[加藤 右宏]
「オレの苦労が分かったダロ?」
[アリリオ]
「と言うか、お母様の方にはバレてるよ?ここでやってる事」
[加藤 右宏]
「親父にバレなきゃ良いよ、母さんだって、黙っててくれてるんだろ?」
[アリリオ]
「みたいだね。と言っても、時間の問題だと思うけど」
[加藤 右宏]
「まっ!上手くやるサ!それに親父も、まさかオレが人間界に降りて来てるとも気付いてないだろー!」
[アリリオ]
「そうかな」
[加藤 右宏]
「あ、そうそう。アリリオお前、あいつの家のポストにこれ入れたダロー」
ミギヒロが懐からいつしかの例の封筒を取り出す。
[アリリオ]
「うん、頼まれたからね。ダメだった?」
[加藤 右宏]
「ダメダメ!あいつに問い詰められソウになったわ、急いで隠したけど」
[アリリオ]
「話した方が良いと思うけどな」
[加藤 右宏]
「こんなん黙っときゃ良いんだよ!あいつとは役目が終わり次第バイバイなんだから」
[アリリオ]
「……寂しくならないの?」
アリリオの言葉にミギヒロは固まる。
[加藤 右宏]
「……なるワケ無いだろ。人間なんかに情は抱かナイ。オレは、悪魔なんダカラ」
ミギヒロの物言いにアリリオは少し悲しそうな顔をした。
[アリリオ]
「そう。じゃあ、頑張って」
アリリオはそう言ってミギヒロを路地裏に残してどこかへ消えて行く。
[加藤 右宏]
「……なんだアイツ」
……。
[朝蔵 大空]
「……」
私は帰り道をひとりで歩いていた。
[朝蔵 大空]
「暑くなってきたなぁ」
季節は春を過ぎて、春と夏の間の季節になる。
[???]
「あーくそ……」
どこからか人の声が聞こえた。
[朝蔵 大空]
「……?……えっ!?」
道路の反対側を見ると、水路に人がハマっていた。
しかも……。
[車椅子の男]
「ここをなんとか……あーだる」
朝見た車椅子の少年だった。
「ハマってしまった!」おわり……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます