第10話「空の他人」後編

 ──そして、結果発表の時。




[二階堂先生]

 「えぇ。 第89回、土屋つちや高文化祭の劇の演目は……『白雪姫』に、決定しましたー!」




 ドキッ。




「大空&卯月」

 「「あっ」」




 まさかまさかの、私達の案が劇の演目に選ばれてしまった。



 嬉しいけど、自分の意見に焦点を置かれると、なんかちょっと気恥きはずかしくもある。




[永瀬 里沙]

 「おー、良かったね! あんたの案でしょ?」




 里沙ちゃんは、当人とうにんの私達より笑顔で喜んでいる。




[朝蔵 大空]

 「う、うん。 あ、当たっちゃいましたー……」




 『ちょっと待った!』と言いたいところだけど、絶対言えない空気だよなー。



 クラスの皆も反対する人、特にいないみたいだし……。



 逃げ道が無い。




[二階堂先生]

 「よし、とりあえずホームルームは終わるぞー。 朝蔵と……あと、卯月はあとで職員室に来てくれ、じゃ」



[卯月 神]

 「なんで僕まで」




 もしかして今、私達呼ばれちゃった?




[永瀬 里沙]

 「職員室だって、行って来なよ」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん。 卯月くんも行こうか?」




 私は卯月くんと一緒に職員室まで行こうと誘う。




[卯月 神]

 「……はい」




 もう道は大丈夫だとは思うけど。



 心配だから念の為、職員室まで卯月くんも連れて行こう。




[朝蔵 大空]

 「なんだろうね」



[卯月 神]

 「さぁ……?」




 職員室に呼ばれるなんて超久し振りだなぁ、多分怒られるとかではないとは思うんだけど。



 何故か……少しだけ、嫌な予感がするんだよね。




[二階堂先生]

 「さっきの白雪姫、お前らふたりの案だよな?」



[卯月 神]

 「はい」



[朝蔵 大空]

 「はい……」




 あー、どうか私の嫌な予感が当たっていませんように。




[二階堂先生]

 「お前ら、『言い出しっぺの法則』って知ってるか?」




 ニヤッと笑う二階堂先生。




[朝蔵 大空]

 「うっ……」



[卯月 神]

 「……? 分かりません」




 卯月くんのほうは、『言い出しっぺの法則』の意味が分かってないみたい。



 私は1秒も経たずに、と言うか……先生がその言葉を言い終わる前に、それを理解してしまった。



 先生が私達に、何を頼もうかとしていることを。




[二階堂先生]

 「この機会に、お前達ふたりには主役をしてもらおう、と思ってるんだが……」




 あー、誰か夢だと言って……。




[卯月 神]

 「えっと……」



[朝蔵 大空]

 「じ、辞退させて下さい!」




 きっと、誰も主役なんてやりたがらないから、こんな強引な決め方をせざるをないんだろうな。



 土屋高の伝統、恐るべし!




[二階堂先生]

 「朝蔵が白雪姫、卯月が王子……で、どうだ? もちろん、逆でもアリだけど」




 ……って!!



 先生ってば、全然話聞いてないし!!




[卯月 神]

 「僕が王子……朝蔵さんの?」




 卯月くんが視線を、二階堂先生から私のほうに移して、その瞳を微かに輝かせる。



 ……な、何そのちょっとフワフワした表情は?




[朝蔵 大空]

 「それってもう、決まったことなんですか?」



[二階堂先生]

 「ああ、ごめんな〜」




 " ごめんな " って……その表情からして、大して悪いと思ってなさそうだけど。



 私達はそれだけ聞いて、職員室を後にした。




[卯月 神]

 「朝蔵さん、さっきのは?」




 廊下の途中で、卯月くんが私に聞いてきた。




[朝蔵 大空]

 「うん私達、劇の主役になっちゃったみたいだね……」




 どうしよう。



 『白雪姫』のお話は凄く好きだけど、演技なんかしたこと無いし、私が主役の白雪姫とかどこに需要ある??



 だけど、『言い出しっぺの法則』とか言われたら、何故か逆らえない……これが、社会に生きる人間のさが



 つっても、まだ学生ですけど。




[卯月 神]

 「……」




 見ると、卯月くんの表情はどこか不安げだった。




[朝蔵 大空]

 「ごめん」




 あぁもう、私の馬鹿!



 決まっちゃったことを、いつまでもウジウジしてても、仕方無いよね!




[朝蔵 大空]

 「大丈夫!」




 だって私、この春からになったんですもの!!




[卯月 神]

 「……朝蔵さん?」



[朝蔵 大空]

 「が、頑張ろう! 私も、一緒に頑張るからさ! 頑張って演技しよっ?」




 私は、『頑張る』と言う単語を連呼する。




[嫉束 界魔]

 「……大空ちゃん?」



[嫉束 界魔]

 (楽しそう、何話してるんだろう……)




 その途中の廊下で、大空と卯月は嫉束界魔とすれ違う。



 大空と卯月は、嫉束の存在に気付かない。




[卯月 神]

 「は、はい……」




 その調子で、私達は教室に戻って行った。



 ……。




[永瀬 里沙]

 「ひゃー! 大空〜、主役おめでとー! やったね! 高校生活、やっと目立てるじゃんっ!」




 別に私は、目立ちたい訳じゃないけど……。



 でも、里沙ちゃんも喜んでるみたいだし、まあいっか!




[朝蔵 大空]

 「わ、悪目立ちにしないように、頑張るよっ……!」




 私は " ビビってませんよ "、と冷静を装う。




[永瀬 里沙]

 「でー、王子は…………」



 里沙ちゃんが、私の隣に座っている卯月くんのほうを見る。




[卯月 神]

 「……?」



[永瀬 里沙]

 「君か」




 里沙ちゃんが、卯月くんの顔をまじまじと見る。



 出た、里沙ちゃんの『品定め』の目付き。



 はたから見ててもこの目付き、凄く怖いんだよね。




[永瀬 里沙]

 「うーん、君さぁプリンス感って言うの? ちょっと、華やかさが足りないけど。 同じ地味な大空との相性は、悪くないんじゃない? うん!」



[卯月 神]

 「……えっ」




 うわっ! 里沙ちゃん!!



 それ以上は、やめたほうが良いよ!!




[朝蔵 大空]

 「ちょーっと! 里沙ちゃん! 私は良いけど、卯月くんに失礼だよ!」



[永瀬 里沙]

 「あははー。 ごめんごめん、でも応援してるねー! 練習とか、色々頑張ってこっ!!」




 その頃、教室内の遠くのほうで……。




[狂沢 蛯斗]

 「だ、誰なんですかあの人!」



[巣桜 司]

 「えっと……前の席替えで、狂沢くんと席を交換してくれた方、じゃなかったでしたっけ?」




 狂沢くんと司くんが、こっちをコソコソと見て来ていることに気付く。




[狂沢 蛯斗]

 「……? ああ、影薄すぎて忘れてました。 あー! なんであんな影の薄い人が、大空さんの王子役なんかにっ……!!」




 デカい、デカい、声がデカい!!




[巣桜 司]

 「あはは……聞こえちゃってると思います……」




 うん、私にもバッチリ聞こえてまーす。



 全く、里沙ちゃんも狂沢くんも、発言に1ミリも遠慮が無いんだから……。



 ともかく、これからかなり大変なことになりそーだなぁー。




[卯月 神]

 「……うるさいですね」



[朝蔵 大空]

 「えっと……気にしなくて良いよ。 アレは……卯月くんが羨ましいんじゃないかな!」




 私は卯月くんに、ナケナシのフォローを送る。




[卯月 神]

 「……? なんか、自慢に聞こえるんですけど」



[朝蔵 大空]

 「え?」




 自慢ではないですけど……。




[卯月 神]

 「この前まで、なんでも無い人間だったくせに、調子に乗らないで下さい」



[朝蔵 大空]

 「えぇ……」




 ……う、卯月くんも毒舌っぽいよね。



 でも卯月くんに言われると、そんな嫌な気はしないなぁ……。




[卯月 神]

 「モテモテ人生は気持ち良いですか?」



[朝蔵 大空]

 「わ、私がモテモテ!? なっ……きゅ、急に何言ってんの卯月くん!」




 この私がモテモテなんて、無い無い!



 そんなの無い!!




[永瀬 里沙]

 「確かに! 大空の周りって、イケメンばっかで羨ましいったら、ありゃしない!! ほら……まず、S氏を筆頭に〜……」



[朝蔵 大空]

 「えすし?」




 S氏って……まさか、嫉束くんのこと!?




[朝蔵 大空]

 「ちょっと! ちょっと!」




 周りの女の子達に勘づかれたら、面倒臭いんだってば!



 また呼び出されちゃう……。




[卯月 神]

 「S氏……って、誰ですか?」



[朝蔵 大空]

 「あ! そう言う芸能人がいるの〜、とっても面白いんだっ!」




 私は咄嗟に思い付いた言い訳で、卯月くんを誤魔化そうとする。




[卯月 神]

 「げ、ゲイノウジン? それは、なんの生き物ですか?」




 あれっ?



 私、芸能人って言っただけなんだけど、卯月くんとはたまに、話が噛み合わないなぁ。




[永瀬 里沙]

 「ぷっ……大空、それは無理があるって! そうねー……まあそこに、ストーカー気味の狂沢くんとか。 あと、巣桜くんも大空のこと頼りにしてるみたいね! あと、あの訳アリの笹妬吉鬼とも、仲良いみたいじゃん? あとは…………まあ色々っ!」




 里沙ちゃんってば、なんか勝手に長々と喋ってるけど、マジでなんなのー?



 隣にいる卯月くん、そんな話着いて行けないって!!



 知らない名前ばっか出されて、『誰?』状態でしょ!




[卯月 神]

 「はい、そのようですね」




 って、卯月くん意外とそこ乗っかるんだ!?



 私が思ってたより、卯月くんってノリが良い人?



 卯月くんのことが分からない……。




[永瀬 里沙]

 「おっ、そうだよね。 最近の大空、2年に上がってから、ちょっとモテすぎよね!」



[卯月 神]

 「はい、モテすぎです」




 な、なんで里沙&卯月そこで話通じちゃうの……?




[朝蔵 大空]

 「も、もうやめて下さい……」




 ふたりとも、勝手なこと言っちゃって……恥ずかしいったらありゃしない。




[永瀬 里沙]

 「……」




 え、怖……里沙ちゃん、急に静かになった。



 さっきまでチンパンジーと同じぐらい騒がしかったのに。



 これは絶対、何か企んでる顔だ。




[永瀬 里沙]

 「ねぇねぇ。 大空が白雪姫で、卯月くんが王子役なんだよね?」



[卯月 神]

 「……?」



[朝蔵 大空]

 「ん、まあ……その予定だけど」




 ほら、とんでもないこと、言い出すぞぉ。




[永瀬 里沙]

 「じゃあじゃあ! ふたりで、デートとかしてみない?!」



[朝蔵 大空]

 「デート!? な、なんでぇ?」




 里沙ちゃん、デートって……私達、別にお付き合いしてないよ?



 なのに、なんでデートなの??




[永瀬 里沙]

 「卯月くんもさ、どこの星から来たのか知らないけど……」



[卯月 神]

 「!?」



[卯月 神]

 (永瀬さん、まさか気付いて……?)



[朝蔵 大空]

 「……?」




 卯月くん、めっちゃびっくりしてる……。




[永瀬 里沙]

 「たまには外で、遊んでみるのも良いんじゃないかな? 大空と一緒にっ!♪」



[朝蔵 大空]

 「ちょ、ちょっと待って。 『じゃあデートしてみない?』の意味が、分からないんだけど……」



[永瀬 里沙]

 「カップルの役をやるなら、それなりに親睦を深めたほうが良いに決まってんでしょ! それなら、" デート " してみるしかないっしょ!?」




 自分が視聴者側で、楽しみたいだけでしょ。



 私は卯月くんのほうを見る、すると卯月くんも私の顔を見ていた。




 ゴクリ……。




[朝蔵 大空]

 「えっと、つまりね? ふたりで、外に出掛けてみない? ってことなんだけど……」



[永瀬 里沙]

 「デート!!」



 里沙ちゃんはどうしても、デートと言うことにしたいみたいだ。




[朝蔵 大空]

 「ど、どうかな?」




 私は卯月くんに、恐る恐る聞いてみた。



 どうかな、卯月くん見た感じインドアっぽいし、絶対そう言うの得意じゃないよね?



 そもそも、ふたりきりで出掛けるくらい、まだ仲良くないし。




[卯月 神]

 「僕は構いませんよ」



[朝蔵 大空]

 「あわ……」




 承諾されちゃったー!!




[永瀬 里沙]

 「きゃっ♡」




 里沙ちゃんは……萌えているようだった。



 里沙ちゃん、もしかして私達に何か、勘違いしてないかな?




[朝蔵 大空]

 「よ、良かった……じゃあ場所は、私が考えとくよ。 それで良いよね?」



[卯月 神]

 「はい、お願いします」



[永瀬 里沙]

 「卯月くん!! 大空に任せっぱなしなのも、ダメだからね!!」



[卯月 神]

 「は、はい」




 里沙ちゃん、きっと卯月くんが私のこと、好きだって思ってるんだろうな。



 だから私達を変に、くっ付けようと……?



 まあ、初対面の時のあの行動は、今も謎なんだけど。



 デートか……何気に男の子とデートなんて、初めてかもしれない!



 なんか私、変にドキドキして来て……嫌だ。




[永瀬 里沙]

 「で? デートはどこ行くの?」



[朝蔵 大空]

 「い、家帰ってから考えるよっ……!」




 やだ私……卯月くんのこと、『なんとも思ってない』と、思ってたのに。



 卯月くんとはただ、隣の席ってだけで……。



 里沙ちゃんが変な雰囲気にするから、なんか意識しちゃうって言うか!



 私、変になってる??



 ──その頃、空の上の世界では。




[リン]

 「今夜こそ、話さなくては……」




 何者かが、怪しい計画を企てていた。






 「空の他人」おわり……。

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