第11話「画面より夢中」前編

 今は里沙ちゃんとお昼の食事中。




[永瀬 里沙]

 「で?デートの場所は?」




 里沙ちゃんの顔面付近から『ドンッ!』と言うフォントが出てるように見えた。




[朝蔵 大空]

 「もう里沙ちゃん朝からそればっかり〜」




 いきなりデートって言われてもお付き合い経験の無い私だけじゃ決めらっこないよ。




[永瀬 里沙]

 「だーって!親友が初めて男子とデートするんだよ!?そんなんさ!そんなんさー!」




 騒がしい里沙ちゃんに周りの人がチラチラ見てくる。



 恥ずかしいなぁ。




[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん……私より楽しみにしてくれてるみたいで何よりだよ」




 うーん、日頃外に出ないから特にここに行きたい!って所も無いしなぁ。



 卯月君って普段どこに出掛けるんだろ?




[永瀬 里沙]

 「はぁ……しょうがないわね。場所なら私、良い所知ってるわよ?」

 


[朝蔵 大空]

 「ほ、ほんとに?」




 そう言うと里沙ちゃんがテーブルに置いてあったケータイを手に取り操作しだす。




[永瀬 里沙]

 「えーっと……よいしょ……ここよっ!」



[朝蔵 大空]

 「ここは……ビーチ?泳ぐの?まだ春なのに、寒いじゃん」




 里沙ちゃんにケータイの画面を見せられて、そこにはきらびやかなビーチが映し出されていた。



 だが今の季節は春だ、泳ぐにしてもちょっと水が冷たい気がする。




[永瀬 里沙]

 「ビーチイコール海水浴だなんてお子ちゃまの発想よ大空ちゃま!」



[朝蔵 大空]

 「お、お子ちゃま!?……そ、そう?」




 里沙ちゃん、いつにも増して得意気だな〜。



 まあ私よりは恋愛の経験はあるんだろうけどさ……。




[永瀬 里沙]

 「カップルが集まるから雰囲気も良いはずよ。だってここ、ここらで1番のラブラブパワースポットなんですもの!」



[朝蔵 大空]

 「ら、ラブラブパワースポット!?」




 な、なんか女児向けアニメの必殺技みたいだ……。




[永瀬 里沙]

 「知らないの?恋する乙女なら誰でも知ってるのよ?」




 "恋する乙女なら"か……私、恋なんて今までまともにした事無かったから、分かんなかったな。




[朝蔵 大空]

 「へ、へー……」




 私は関心する振りをする。




[永瀬 里沙]

 「ここほんとにオススメなんだからー!ふたりの絆が一生結ばれる、って言い伝えもあるぐらいなの!」



[朝蔵 大空]

 「あーよくあるやつね」




 ふたりの愛が結ばれるーとかうたい文句にしてるやつだ。



 怪しいな、あんまり信憑性しんぴょうせい無いな。




[永瀬 里沙]

 「あ!信じてないわね、とにかくここならあんま遠くないし、行ってみなさいよー?いとしの卯月君とっ♪」



[朝蔵 大空]

 「う、うん……愛し??」




 そっか、私これから卯月君とデートしに行くんだ。



 卯月君と海辺のデートか……。



 私達がそんな所、楽しめるかな?




[永瀬 里沙]

 「デートはいつ行くの?」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん。今週の土曜日にしようかと思ってて……」




 学生のデートって言ったら週末しか無いしね。



 でも、放課後デートって言うのも憧れるなぁ……。




[永瀬 里沙]

 「そうすると……あと2日後ね。なら早く誘った方が良いわ。相手の都合もあるだろうし」




 確かに、タイミング失ったら一生行けなそう。



 文化祭の準備とかもうすぐ始まるだろうし、早めに行かないとっ!




[朝蔵 大空]

 「う、うん!私、今から行ってくるよ!」




 私はやる気になって席から立ち上がる。




[永瀬 里沙]

 「健闘を祈るわ」




 私は先に食器を片付けてから里沙ちゃんを置いて食堂を出た。




[朝蔵 大空]

 「……あれれ?」




 私はとりあえず卯月君が教室に居ると思って教室に来てみた。



 けれど、卯月君の姿は見当たらない。




[文島 秋]

 「あれっ、朝蔵ちゃん。永瀬ちゃんとは一緒じゃないの?」




 私は教室内をひとりでキョロキョロしていると、文島君が話しかけに来てくれた。



 そうだ、文島君に聞いてみよう!




[朝蔵 大空]

 「あ、ごめん文島君。卯月君どこ行ったか知らない?」



[文島 秋]

 「卯月君?彼なら……そう言えば昼休みとかすぐどっか言っちゃうよね?ごめん、僕にも分からないや」



[朝蔵 大空]

 「そ、そっか……」




 うーん誰も見てないのかな?



 他の人にも聞きたいけど、私のコミュ力じゃとても……。




[文島 秋]

 「なんか……話し合いでもするの?」



[朝蔵 大空]

 「う、うん!私ちょっと探しに行くよ!」




 さすがに学校の外に出て行っちゃってる事無いと思うけど……。




[朝蔵 大空]

 「ごめんなさい!先生、卯月君を見ませんでしたか?」




 私は廊下で偶然すれ違った二階堂先生にも、卯月君の居場所を聞いてみる。




[二階堂先生]

 「卯月か?いや……俺は見てないな」



[朝蔵 大空]

 「そうですか……分かりました。失礼します!」



[二階堂先生]

 「おう」




 私は校内じゅう、卯月君を求めてひとりで探し回る事になった。




[朝蔵 大空]

 「どこにも居ない……」




 学校中歩き回って私の足が疲れた。



 今の時代、ケータイでメールやら電話やらで約束のひとつぐらい簡単に出来るのに。



 私はまだ卯月君の連絡先を知らない。



 こんな事なら交換しておけば良かったー!私のバカー!!




[朝蔵 大空]

 「疲れちゃったっ……な」




 私は裏庭の近くまで来ていた。




[朝蔵 大空]

 「ん?」




 誰かの話し声が聞こえる?



 あっちの方からだ……。



 声はひとり、人がふたり?




[嫉束 界魔]

 「そのリンゴ頂戴よ」



[笹妬 吉鬼]

 「やだよ」




 あっ、あのふたり……嫉束君と笹妬君だ。



 友達同士で仲良くベンチでお食事中?




[笹妬 吉鬼]

 「あっち行ってもう」




 だけどあんまり良い雰囲気には見えなかった。



 笹妬君の方が嫉束君の事を嫌がっているようにも見える。




[嫉束 界魔]

 「隙アリ!」



[笹妬 吉鬼]

 「ちょっと……」




 嫉束君が笹妬君の元からリンゴを奪う。




[嫉束 界魔]

 「うまっ」




 嫉束君がリンゴを美味しそうに食べている。




[笹妬 吉鬼]

 「おい……」




 ん??



 嫉束君の方は仲良くしたそうだな?



 ふたりって確か、知り合いなんだよね?



 良いなぁ、カッコ良い男の人がふたりも。




[笹妬 吉鬼]

 「リンゴ食べたんだからあっち行けよ」



[嫉束 界魔]

 「そんな約束はしてないけど?」




 ほー!良い目の保養だこりゃ。



 出来ればこのまま隠れて見ていたい!



 私は目的を忘れてふたりを陰から見守る事にした。




[嫉束 界魔]

 「あ、そうだ。お前さ、この前の体育の時、大空ちゃんと話してたよな?」




 あれ?大空ちゃんって……私の名前。



 もしかして、私の話をされてる?




[笹妬 吉鬼]

 「うっぐ……はぁ、はぁ……」




 飲み物を飲んでいた笹妬君は嫉束君の言葉に驚いてせる。




[嫉束 界魔]

 「大丈夫?水、飲む?」



[笹妬 吉鬼]

 「……見てたのかよ」




 笹妬君は嫉束君から水を受け取らずに自分で息を整える。




[嫉束 界魔]

 「もちろんっ」




 嫉束君は『当然!』と言うかのようは王子様フェイスで笑う。




[笹妬 吉鬼]

 「あの時は……話し掛けられたんだよ。心配しなくても、俺からじゃない」



[嫉束 界魔]

 「ふーん、良いなぁ。堂々とあの子と話せて。僕はむやみに目すら合わせられないよ」



[笹妬 吉鬼]

 「……別に」




 そしてしばらくふたりの間に沈黙が流れた後……。




[嫉束 界魔]

 「ねぇ、好きなんじゃないの?」




 嫉束君から話を切り出した。




[笹妬 吉鬼]

 「……えっ?何が?」




 笹妬君はなんの事か分からないような様子だ。




[嫉束 界魔]

 「フンっ。でも僕、あの子の連絡先持ってるしー、ファンの奴らに消されかけたけど……つまり、僕の方が上だ」




 嫉束君は笹妬君にマウントを取ったつもりでいる。




[笹妬 吉鬼]

 「は?……もう勝手に言ってろよ」




 ふたりとも、一体なんの話をしてるの?



 遠くから聞いてるだけだからよく聞こえない……。




[嫉束 界魔]

 「素直じゃないな吉鬼は……じゃあね」




 嫉束君が笹妬君に別れを告げてベンチから立ち上がって歩き出す。



 やばい!嫉束君がこっちに来る!



 私は日影の壁にピタッと張り付いて息をひそめる。




[嫉束 界魔]

 「……」




 結局嫉束君はこちらを振り返らずにそのまま行ってしまった。



 気付かれなかったようだ。




[朝蔵 大空]

 「ふぅ……」




 なんだか、仲が良いのか悪いのか分からないふたりだったな。



 そう思いながら私もその場から離れようと準備をする。




[笹妬 吉鬼]

 「大空」



[朝蔵 大空]

 「きゃっ……!?」




 背後からいきなり名前を呼ばれて私の心臓がドキンっと鳴る。



 ドクドクと脈打ってとても痛い。




[朝蔵 大空]

 「ぬ、盗み聞きしてました!ごめんなさい!」




 私は謝罪だけして逃げようと走り出した。




[笹妬 吉鬼]

 「待って」




 その声と同時に、私は石につまづいてその場にすっ転んでしまった。



 そして私のスカートのポケットからケータイが飛び出していく。




[笹妬 吉鬼]

 「あっ……お、おい」



[朝蔵 大空]

 「痛た……」



[笹妬 吉鬼]

 「……」




 地面に落ちている私のケータイに笹妬君が気が付き、それを拾い上げる。




[朝蔵 大空]

 「あ、それ私の……」



[笹妬 吉鬼]

 「ちょっと待って」




 笹妬君が私のケータイを持ったまま操作しだした。




[朝蔵 大空]

 「え?返してよ……」



[笹妬 吉鬼]

 「はい」




 笹妬君は私にケータイの画面を見せた。



 『笹妬吉鬼』……と言う名前がメール欄に追加されていた。



 それから私は笹妬君からケータイを返してもらう。




[朝蔵 大空]

 「え、これって笹妬君の?」




 卯月君の連絡先もまだなのに、先に笹妬君の方を貰っちゃった……。




[笹妬 吉鬼]

 「そう。盗み聞きしてた罰ね?」



[朝蔵 大空]

 「ご、ごめんなさい」




 私は気不味くて手首がかゆくなり、そこを掻きながら笹妬君に謝る。




[笹妬 吉鬼]

 「ははっ」




 そうすると笹妬君に笑われた。




[朝蔵 大空]

 「え……な、何?」



[笹妬 吉鬼]

 「いや、素直に謝るんだって思って」




 笹妬君は小さく笑うのを続けていた。




[朝蔵 大空]

 「……笹妬君、酷いよ」




 この人、私がふたりの事見てる事最初から気付いてたんだな。



 こっそり見てたつもりだったのに、普通にバレてたなんて恥ずかしい。



 もしかして通り過ぎてった嫉束君も本当は私に気付いてた?



 いや、これはさすがに私の被害妄想か。




[笹妬 吉鬼]

 「……?どうした?」



[朝蔵 大空]

 「もー!気付いてるなら言ってよ!」



[笹妬 吉鬼]

 「そう?」




 私とした事が、安心してイケメンふたりを眺めちゃってたじゃない!




[朝蔵 大空]

 「王子の嫉束君と、私のめっっっちゃタイプな笹妬君がふたりで話してたら、そりゃ見ちゃうでしょ!」



[笹妬 吉鬼]

 「ちょ、ちょっと。そんなお世辞言わなくても……俺が悪かったよ」




 そこで私は我に返る。




[朝蔵 大空]

 「あっ……」




 私、今物凄く恥ずかしい事を口走ってしまった気がする。



 しまった、つい心の中のセリフが……。

 



[笹妬 吉鬼]

 「その……嘘だって分かってても、照れるよ」




 笹妬君が照れてそっぽを見る。



 嘘でもないしお世辞でもないけど!!




[朝蔵 大空]

 「わ、忘れて下さーい!!」




 私は再び走り出した。






 つづく……。

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