第7話「バイバイメモリー」後編

 見えますか?


 

 ここは、主人公達の住む世界ではないどこかの神秘的で白く明るい世界。




[部下A]

 「リン様ー!彼女、目覚めたようです!」



[リン]

 「分かりました、ありがとうございます」



[部下A]

 「はい!では失礼致します!」




 これが毎朝のルーティン。




[リン]

 「シン……一体何をしているのですか」




 ……。



 なんだろう、狂沢君が昨日からずっとカリカリしてる気がする。




[狂沢 蛯斗]

 「カリカリ」




 私は後ろの席に座っている司君に声を掛ける。




[朝蔵 大空]

 「ねぇ、アレどうしたの?」



[巣桜 司]

 「え……あー、多分カメラを壊されたからだと」



[朝蔵 大空]

 「えー!」




 あんな高そうなやつを!?



 まさか例の五木君がやったって言うの?




[巣桜 司]

 「ぼくも狂沢君が怖くって……話しかけられないんです……」




 そりゃあんな見るからに攻撃的な態度取ってたら恐ろしくもなるよね。




[狂沢 蛯斗]

 「ボクの悪口でも言ってるんですか?」




 気付くと、私達の近くに狂沢君が立っていた。



 そばに居る司君も怯えた顔をしている。




[朝蔵 大空]

 「ひっ……!?い、いや違うよー。狂沢君今日なんか機嫌悪いなーって話してて」



[巣桜 司]

 「ふへへ……」




 私と一緒に気不味そうに笑う司君。




[狂沢 蛯斗]

 「そうそう!あの人、刹那五木に壊されたんです!」




 やっぱりそうなんだ……。



 ……。



 狂沢君の回想。



 ……。




[狂沢 蛯斗]

 「刹那五木君。ボクのカメラ、持って行きましたよね?返して下さい」



[刹那 五木]

 「えっ……!あ、君……ごめん」




 狂沢にカメラを返せと言われて、頬に汗をかいて後ろめたい事でもあるかの様な刹那五木。




[狂沢 蛯斗]

 「なんですか?」



[刹那 五木]

 「じゃ……ジャーーン」




 ボコボコになった原型の無いカメラが狂沢の前に用意される。




[狂沢 蛯斗]

 「ぎゃああああ!ボクのカメラが!!」




 他所よそのクラスで大声で悲痛な叫びを披露する狂沢。



 他の生徒も狂沢と刹那にざわざわとざわつきながら大注目。




[刹那 五木]

 「ごめん!友達と追いかけ回ってたら蹴飛ばしちゃったみたいで……か、必ず弁償するから!」




 土下座でもするかのような勢いで狂沢の前で地面に膝を着き、上半身を前に倒して謝る刹那。



 刹那五木は2年からサッカー部のキャプテン、その足から尋常じゃない威力のキックが繰り出される。




[狂沢 蛯斗]

 「それで……許されると思わないで下さいね!!失礼します!!!」




 狂沢は『もういい』と言わんばかりの顔で2年1組の教室から出て行こうとする。



 "絶対に許さない"と心に怒りの炎を燃やしながら……。




[刹那 五木]

 「あっ、ちょっと待ってよー……!」




 それをマズイと思った刹那が追いかけるが狂沢は振り向きもせずに行ってしまう。



 ……。




[狂沢 蛯斗]

 「酷すぎます!この前嫉束界魔にやられたやつも修理に出す羽目になったって言うのに!あれはもう完全に死にました!修復不可能なんですー!」




 あ、嫉束君にやられた時もなのね。



 それはそれは大変な不幸が重なりましたなぁ……。




[狂沢 蛯斗]

 「あの人達……超人気者とかすっごいモテるとか知らないですけど!あのふたりは最低です!許せません!」




 嫉束君の時は貴方も貴方でなんか変だったよ……??



 結局狂沢君のイライラはまだ治まらなかった。



 ……。




[永瀬 里沙]

 「大空ー、行こ〜」



[朝蔵 大空]

 「今行くー」




 今は2時間目が終わった所で、これから体育の授業を受けに運動場まで向かう所だ。



 私達は昇降口から運動靴に履き替えて外に出て行く。




[永瀬 里沙]

 「日焼けしちゃーう……」




 空を見て日光を嫌がる里沙ちゃん。




[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん充分肌白いじゃん」




 光に当たって輝いてる里沙ちゃん、可愛い♪




[永瀬 里沙]

 「いやいや……。って言うか、肌白いってそれならあんたの方が白いでしょ?」



[朝蔵 大空]

 「そ、そうかな?」




 それは私が休日も外に出ない事が多いから陽の光を浴びる機会が少ないからである。



 『白さ』を保つ秘訣はずばり、"引きこもり"なのです。




[朝蔵 大空]

 「……あっ」




 その時、見覚えのある男の子が運動場の方から歩いて来るのが見えた。



 ──笹妬君!!




[笹妬 吉鬼]

 「……はぁ」




 それが笹妬君だと確信した私は、気付くと彼に向かって駆け出していた。




[永瀬 里沙]

 「え、ちょっと……!あっ、あれは……」




 突然の私の行動に戸惑う里沙ちゃん、そして何かに気付く。




[朝蔵 大空]

 「笹妬君!笹妬くーん!笹妬くーん!!」




 あの時のお礼がしたいと、彼にこちらに気付いてほしくて笹妬君の名前を呼ぶ。



 そうすると狙い通り、笹妬君が私の姿をとらえた。



 彼はタオルで自分の頬の汗を拭きながら目を見開いて私を見てくれている。




[朝蔵 大空]

 「笹妬君!」




 久し振りに姿を見たけど、やっぱ笹妬君はカッコ良いなぁ……。




[笹妬 吉鬼]

 「……あ、大空か?」



[朝蔵 大空]

 「うん!あっ、覚えててくれたんだ?」




 私は笹妬君に名前を呼ばれて嬉しい気持ちになる。




[笹妬 吉鬼]

 「うん、まあ……」




 笹妬君、何故か照れた表情。



 きっとさっきまで笹妬君も体育の授業だったのだろう、クラスのメンツの雰囲気からして、3組かな?



 笹妬君、3組の人だったんだ!




[笹妬 吉鬼]

 「え、えっと……」



[朝蔵 大空]

 「この前はありがと、色々面倒みてもらっちゃって……笹妬君に感謝してるよ!」



[笹妬 吉鬼]

 「お、おう。それなら良かった?けど、うん……」



[朝蔵 大空]

 「えへへっ」




 私は自然と笑顔になる。




[朝蔵 大空]

 「あっ……」




 私は里沙ちゃんを置いて来てしまった事を思い出す。




[朝蔵 大空]

 「じゃ、じゃあね!」



[笹妬 吉鬼]

 「あ……う、うん」




 やばい、里沙ちゃん怒ってないと良いけど……。




[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃーん!ごめーん!!」




 私は里沙ちゃんを見つけて急ぐ。




[永瀬 里沙]

 「ね、ねぇ?」



[朝蔵 大空]

 「うん?」




 グラウンドに先に着いていた里沙ちゃんの様子がなんだかおかしい。




[永瀬 里沙]

 「し、知り合いだったんだ?」



[朝蔵 大空]

 「え?あ、笹妬君の事?そうだよー。あっ、そうだ!助けてもらったって言う人、あの人なんだー実は……」



[永瀬 里沙]

 「あ……あれそうなんだ。……仲良いの?」



[朝蔵 大空]

 「えっと特に、仲良いとまでは言えないかもー……」



[永瀬 里沙]

 「そ、そう……」




 あれ?本当に、里沙ちゃんどうしたんだろ?



 何かに怯えている様にも見える。




[永瀬 里沙]

 「ま、まあ所詮しょせん噂だし……」



[朝蔵 大空]

 「えっ?」



[女性体育教師]

 「集まってますか?授業始めますよー」




 里沙ちゃんと話の途中で授業が始まってしまった。



 里沙ちゃんが言ってた噂って、なんの噂だったんだろ?



 笹妬君についての噂?



 里沙ちゃん、なんだか言いにくそうな雰囲気だったし、私からまた聞くのはちょっと悪いなぁ。



 私は聞かない事にした。




[永瀬 里沙]

 「あの事なんだけどさ……あれから、あいつのファンから何も攻撃されてない?」




 今は各組別れて準備体操中。




[朝蔵 大空]

 「いや?特に何も無いよ。なんか誤解があったみたいで、嫉束君が誤解を解いといてくれたんだってー」



[永瀬 里沙]

 「へ、へぇそうなんだ。ねぇ、嫉束君と付き合うの?」



[朝蔵 大空]

 「えっ!?……うっ、ごほっごほっ……」




 私が驚いて声を出した時に、変な所に唾が入ってしまったのか激しくむせる。




[永瀬 里沙]

 「だ、大丈夫?」




 里沙ちゃんが私の背中をさすってくれる。




[朝蔵 大空]

 「はぁはぁ……う、うん……」




 私はなんとか息を整えようとする。




[永瀬 里沙]

 「え?もしかしてそう言うのじゃなかった?」




 そんな訳無いよー。




[朝蔵 大空]

 「ち、違うよー……あれはまあなんと言いますか」



[永瀬 里沙]

 「な、何よ?」



[女性体育教師]

 「ちょっと、永瀬さん達!ちゃんとやって!」




 大きな声が聞こえてきた。




[大空&里沙]

 「「は、はい!!」」




 サボってる様に見えたのだろう、ずっと喋ってたら先生に怒られた。



 そしてあっという間に昼休みの時間になった。




[巣桜 司]

 「狂沢君!」



[狂沢 蛯斗]

 「は、はい?」




 あれ?司君また狂沢君に声掛けてる……。



 しかも今、司君にしては大きな声だったなぁ、誰かと思ったよ。




[巣桜 司]

 「あの、これ……」




 狂沢君に司君が恥ずかしそうに何かを差し出した。




[狂沢 蛯斗]

 「……これは?」




 司君の手にはふたり分のお弁当袋。




[巣桜 司]

 「く、狂沢君のお弁当です!」



[狂沢 蛯斗]

 「え、ボクのって……」




 司君、もしかしてあのお弁当……。




[巣桜 司]

 「はいっ!作って来ました!め、迷惑じゃなかったら……お願いします」




 ほー!



 司君ったら、狂沢君の為にわざわざお弁当作って来たんだ?!



 昨日チラッと見た司君のお弁当、美味しそうだったな。



 ってきり燕さんに作ってもらってるのかと思ってたけど、司君料理出来たんだ!?




[永瀬 里沙]

 「あら〜」




 戸惑いながらも司君からお弁当を受け取る狂沢君。




[狂沢 蛯斗]

 「あ、ありがとうございます……」




 狂沢君と司君、今日は教室で一緒にお弁当を食べるみたい。



 私は何かふたりに可能性を感じた。




[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん?行かないの?」




 私もいい加減お腹が空いたので里沙ちゃんを食堂に誘おうとする。



 だが里沙ちゃんは、窓側の前から3番目の狂沢君の席でお弁当を一緒に食べる司君達を見つめたままその場から動こうとしない。



 あとよく見たらと文島君の表情もなんだか微笑ましそうだ。



 対して木之本君はそれに一瞥もくれず弁当にガッツいている。




[朝蔵 大空]

 「行こーよ……」



[永瀬 里沙]

 「嫌よ私一生ここから動かない!!」




 うわめんどくさいなぁ……!




[朝蔵 大空]

 「ほら行くよー」



[永瀬 里沙]

 「イヤー!!」




 この日の昼は私が無理やり里沙ちゃんを引っ張って行った。



 そして時は過ぎ、あっという間に放課後。






 ポツ……ポツっ……。






 帰ろうと思って準備をしていた所、前触れも無く雨が降ってきた。




[朝蔵 大空]

 「やば……」




 急に降って来られても今日傘持って来てないよー……。



 最悪。



 家までそんな遠くないけど、濡れて帰るのやだなぁ。



 私は嫌だなと思いつつも昇降口に向かう。



 外まで出てきた時だった、入口で印象的な赤い頭の男子生徒が立っているのに気付く。




[朝蔵 大空]

 「あっ……」




 私が絶対知ってる雰囲気、この人もしかして……。




[朝蔵 大空]

 「刹那君?五木君?」




 私はその男子に向かって両方の名前を呼んでみた。




[刹那 五木]

 「え……あ、はい?」




 私に名前を呼ばれた彼がこちらに振り返った。



 当たってた!



 たとえ成長してたって、私が五木君の事忘れる訳無いもん!



 それにしても体格とかもそうだし、背とか凄く高くなってる!



 めっっっちゃカッコ良くなってる凄い!



 こりゃーモテるわ〜。




[朝蔵 大空]

 「私の事覚えてる?」




 私からは名乗らなかった、だって覚えてないならそれでもう良いもん。




[刹那 五木]

 「お前……!?な、なんで話しかけてくんの?」

 


[朝蔵 大空]

 「えっ!?」




 私の事覚えてる覚えない以前に……『なんで話しかけてくんの?』って何??




[朝蔵 大空]

 「え。私だよ?大空だよ?覚えて……ない?」




 私は悲しくなって自分から自分の名前を言ってしまった。




[刹那 五木]

 「えっ、違っ……覚えてる、覚えてるよ」




 五木君が私の事を覚えてると分かって、私はホッとした。




[朝蔵 大空]

 「よかった……あっ、私達さ!小学校振りだね!」




 と言うと、五木君は眉をひそめた。




[刹那 五木]

 「中学振りだろ……?」






 「バイバイメモリー」おわり……。

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