第7話「バイバイメモリー」前編

[永瀬 里沙]

 「いや、大丈夫なら良いんだけど。それともやっぱ、忘れちゃった?」




 ゾッ……。




[朝蔵 大空]

 「え……」




 まただ、私が何か忘れてるって。



 私は一体何を忘れているって言うの?



 私の前にミギヒロが現れてから、私の記憶がおかしくなってる。



 なんで?例のミギヒロが言ってた"名前の無い呪い"のせい?



 あの呪いは、私が『忘れん坊になる呪い』だったりするの?



 でも授業の内容とか、勉強した事が覚えられないとかそう言うんじゃないって言うのはさすがに分かる。



 私が今まで生きてきて起こった出来事の一部が欠けている。



 都合良く覚えてない気さえして、私は不安になる。




[朝蔵 大空]

 「……副作用」




 私はふと、あの不可解な夜を思い出す。




[永瀬 里沙]

 「大空?」



[朝蔵 大空]

 「あ……ううん」




 こんな変な事里沙ちゃんには言えないよ。



 あの日私、ほんとに何してたっけ?



 思い出せない、気付けばベッドで寝てたし。



 ミギヒロはあの夜変な寝言言ってたし。




[永瀬 里沙]

 「色々あったけどさぁ……あいつの事は、もう忘れた方が良いよ」



[朝蔵 大空]

 「え、あいつって……?」



[永瀬 里沙]

 「だから刹那君の事、アレ許される事じゃないから」




 許されない事?



 思い出してみれば私は五木君にひとつ怒りたい事がある。



 小学校を卒業をした頃、五木君が私に何も言わずに引っ越してっちゃった事。



 あの時は凄く悲しかった。



 それからはもちろん音信不通。



 親同士も仲良かった、五木君のお母さんとよくカフェなどに遊びに行ってたらしいのにそれも今は無い。



 そして私はあの頃から孤独になった。



 今まで私は、ずっと五木君に支えられてきたのだ。



 それから中学で里沙ちゃんに出会ったのだ。




[朝蔵 大空]

 「うん、分かってるよ」




 もう今じゃ、顔すらよく思い出せないな。



 もう忘れたかと思ってたけど、名前だけはしっかり覚えてた。



 まさか高校生2年生になってこんな形で彼を思い出す事になるなんて。




[永瀬 里沙]

 「ねえ、またあいつと話したいとか……思ってたりする?」



[朝蔵 大空]

 「えっ、どうかな……もう何年も話してないし、さすがに気不味きまずいかな。五木君は私の事覚えてないだろうし」



[永瀬 里沙]

 「うーんそれはどうかな。だってあいつ、大空の事好きだったし。てか、両思いでしょ?」



[朝蔵 大空]

 「む、昔の話でしょ!」




 五木君は明るくて運動も出来て皆の人気者だった。



 だから私の事が好きだったって言うのもよく分からない、付き合ってはなかったし。



 それにあの彼ならもう彼女のひとりやふたりぐらい居るはず。



 今も私の事好きかも?なんて、期待しちゃいけない。






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






 午後の授業も終わって今は昼休み。




[巣桜 司]

 「よし……く、狂沢君!一緒にご飯食べませんか?」




 司が弁当を片手に持って勇気を出して狂沢君に話しかける。




[狂沢 蛯斗]

 「え……ごめんなさい、ボクお弁当持ってないです」



[巣桜 司]

 「えっ」




 そう言ってあっさり狂沢君は手ぶらで教室から出て行ってしまった。




[巣桜 司]

 「ガーン!!」




 取り残されてその場に立ち尽くす事しか出来ない司君。



 うちの学校では昼食は皆食堂に集まるのが主流なので、お弁当を持って来ている人はこの学校では逆に珍しいまである。




[朝蔵 大空]

 「司君はお弁当なんだね?」




 狂沢君に断られてひとりで泣きそうになってる司君に私は咄嗟に声を掛ける。




[巣桜 司]

 「は、はい!皆さんご飯は……」



[朝蔵 大空]

 「知らない?うち、食堂あるんだよ。一日一食無料なんだけど」



[巣桜 司]

 「そ、そうなんですか?」




 司君が驚いた顔をした。



 私も初めは知らなかったもんな、お母さんに相談して昼食は学食にするようにしたけど。



 お母さん、お弁当作らなくて良いようになって楽になるだろうし。



 でも困ったな、司君がひとりになっちゃう。



 転校初日にぼっち飯は可哀想。




[文島 秋]

 「巣桜くーん!こっち来なよ」




 前の方の席から手を振って司君に呼び掛ける文島君。



 文島君と木之本君はいつもお互い席をくっ付けて昼食を取る弁当組だ。




[巣桜 司]

 「あ……えと」




 司君は呼ばれてもモジモジしてるけど、私が後押しをしてあげなきゃ。




[朝蔵 大空]

 「文島君と、木之本君だよ。良かったね、行ってきな」



[巣桜 司]

 「は、はい!」




 ふたりの元にお弁当を持って真っ直ぐ駆けて行く司君。




[木之本 夏樹]

 「巣桜だっけ?」




 木之本君がいつもより慎重に話し出す。




[巣桜 司]

 「は、はい!よろしくお願いします!文島君!」




 木之本君に文島君の名前を呼びつつ頭を下げる司君。




[木之本 夏樹]

 「お、おう。文島はこいつだけど……」




 と言って木之本君は文島君の顔に目を向ける。



 それに対し司君はハッとして……。




[巣桜 司]

 「へ!?ご、ごめんなさい!間違えちゃいましたっ……」




 焦ってふたりに謝罪をする司君。



 真面目だなぁ。




[文島 秋]

 「あはは!よろしくね、文島秋です。で、こっちが木之本夏樹」



[巣桜 司]

 「は、はい!よろしくお願いします!」




 今日は木之本君達と食事を取るようだ。




[永瀬 里沙]

 「文島君は良いとして、木之本か……」



[朝蔵 大空]

 「うん……」




 その時、私は卯月君の席の方を見る。




[永瀬 里沙]

 「どうしたの?」



[朝蔵 大空]

 「卯月君、どこ行ったのかなって」



[永瀬 里沙]

 「さ、さぁ?」




 卯月君、ちゃんとご飯食べてるかな?



 卯月君、休み時間の度に居なくなる気がする、それもいつの間にか。



 私の見てない間に居なくなる。



 なんだか不思議だよね。



 ……。



 その頃学校の裏庭にて。




[嫉束 界魔]

 「よお、吉鬼」




 ベンチに座って食事を取っている笹妬の隣に許可無く座りに来る嫉束。




[笹妬 吉鬼]

 「……なんだよ」




 笹妬はとても嫌そうにして嫉束から距離を空ける。




[笹妬 吉鬼]

 「……お前メシは?」



[嫉束 界魔]

 「え?僕お昼は食べないよ。前も言わなかったっけ?」




 横目に笹妬の方を見る嫉束。



 無視して弁当のおかずを摘む笹妬。




[嫉束 界魔]

 「今日もひとり?」




 嫉束はニヤつきたいのを我慢しつつ聞く。




[笹妬 吉鬼]

 「分かり切ってるような事聞くなよ鬱陶うっとうしい。う・ざ・いんだよっ」




 笹妬が嫉束の挑発的な質問に食い気味で答える。




[嫉束 界魔]

 「おーこわ。酷いなぁ、吉鬼が可哀想だから来てあげてるのに」




 嫉束はフフンと笑った。




[笹妬 吉鬼]

 「別に来なくて良い。さっさとファンの所にでも戻ったらどうだ?」




 嫌味に嫌味を重ねる笹妬を睨む嫉束。




[嫉束 界魔]

 「……嫌だよ。あの子達めんどくさいし」




 うんざりした表情で腕を頭の後ろで組んでベンチの背に持たれる嫉束。




[笹妬 吉鬼]

 「俺の所に来るのも謎だけどな、帰れよ」




 笹妬は嫉束にそう冷たく言い放つ。




[嫉束 界魔]

 「吉鬼、大空ちゃんって子と喋ったでしょ?」



[笹妬 吉鬼]

 「は?」




 単刀直入に出された話に戸惑う笹妬。




[笹妬 吉鬼]

 「……俺が知ってる大空って、朝蔵の事か?」



[嫉束 界魔]

 「あ、ごめんね。そうそう、そうだよ。朝蔵大空ちゃん」




 うなづく嫉束。



 嫉束の口から朝蔵大空の名前が出てきて複雑な心境の笹妬。




[笹妬 吉鬼]

 「なんだよ、知り合いだったのかよ」



[嫉束 界魔]

 「知り合いと言うより、友達。この前彼女と喋ったら吉鬼の名前出てきたから、吉鬼には友達いないのにどうしてかなーって?」




 マウントを取る勢いで答える嫉束。



 案の定イラッとした様子の笹妬。




[笹妬 吉鬼]

 「だから何?初めて会った時、あいつが泣いてたから慰めただけだけど?」



[嫉束 界魔]

 「……へぇ、優しいじゃん。吉鬼のくせに」



[笹妬 吉鬼]

 「は?別に、泣いてる奴が居たら普通声掛けるだろ」




 嫉束の発言にムカついて声を少し荒らげる笹妬、そしていくつもひるまない嫉束。




[嫉束 界魔]

 「それで?あの子、なんで泣いてたの?」




 ニヤニヤするのを辞め、真剣な表情で聞く嫉束。




[笹妬 吉鬼]

 「知らないよ。聞いたけど、なんか言いたくないみたいな感じだったし」




 笹妬の言葉に一瞬黙り込む嫉束。




[嫉束 界魔]

 「ふーん……悪いんだけどさ、もうあの子に近付かないでくれる?」




 そう言う嫉束にびっくりして箸を止める笹妬。




[笹妬 吉鬼]

 「なんでだよ。なんでお前が、俺の事決めるんだ?」



[嫉束 界魔]

 「別に1回喋っただけでしょ。ね、僕からのお願い?」




 嫉束は不敵な笑みを浮かべる、そして不満を抱く笹妬。




[笹妬 吉鬼]

 「言っちゃ悪いけど、それお前が日頃あいつらにやられてる事と一緒じゃないか?」



[嫉束 界魔]

 「……そうだね、でも」



[笹妬 吉鬼]

 「俺は、喋りたい奴と喋る。良いだろ」




 そう言い残して裏庭から去って行く笹妬。



 それを憎しみを込めた目で見つめる嫉束。




[嫉束 界魔]

 「……捕まればいいのに」




 ……。




[巣桜 燕]

 「まあ!司、さっそくお友達が出来たのね!司が学校楽しんでくれてるみたいでママ嬉しいわ〜!」




 放課後家に帰る途中、巣桜さんの家の前でお話する私と司君と燕さん。




[巣桜 司]

 「友達……」




 司君は嬉しいのか微笑んでいる。




[朝蔵 大空]

 「木之本君とは……どう?」




 木之本君、が強いタイプだから少し心配。




[巣桜 司]

 「木之本君!はい、初めはちょっと怖かったんですけど……」




 そうだよね、木之本君は初対面少し凶暴そうに見える。



 1年間同じクラスだったからもう慣れたけど、彼は人より大きい声を出すから……。




[巣桜 司]

 「でも優しいですよ!」



[朝蔵 大空]

 「そっかぁ」




 あ、意外と大丈夫なもんなんだ司君ああ言うの。



 基準が微妙に分からないなぁ……。



 司君、きっと気が強くて引っ張ってくれそうな人には弱いんだろうなぁ、狂沢君とか。



 今日見た感じ、狂沢君と司君ってすっごく相性良さそう。



 でも狂沢君は学食で、司君はお弁当だから昼食は一緒に過ごせないね。



 なんか良い方法無いかなぁ……。




[巣桜 司]

 「……」




 何やら真剣な表情の司君。




[朝蔵 大空]

 「司君?どうしたの、難しい顔してるけど……」



[巣桜 司]

 「あ、ちょっと……」



[朝蔵 大空]

 「……?まあいいや、じゃあねー」




 私は燕さん達とバイバイして家に帰る。



 と言っても隣だが。




[朝蔵 大空]

 「んー、この手紙ほんとになんなんだろ」




 私は昨晩届いた怪しい封筒を気にする。



 

[朝蔵 大空]

 「魔王試練って……?」




 私がパートナー?誰の?



 ……。



 ミギヒロ?




[朝蔵 大空]

 「よく分からない……」




 その時急に眠気が襲って来た、夕飯もまだなのに、私の瞼が私の意思とは関係無く下がって来る。




[朝蔵 大空]

 「寝ちゃ……ダメ……」




 私は眠気に耐える事が出来ずに結局そのまま眠ってしまった。



 ……。




[謎の声]

 「ソラ様」




 誰?



 誰かが私の名前を呼んでいる。




[謎の声]

 「ソラ様、聞こえますか?」




 返事をしたくても、目が開かない、体も動かない、口も……。



 暗灰あんばい色の世界に、私の名前を呼ぶ声だけが聞こえる。



 誰?知らない声……。




[謎の声]

 「ソラ様?」




 知らない声がずっと私の事を呼んでいる。




[謎の声]

 「ああ、今日はここまでのようですね。またお会いしましょう、それまでどうかご無事で…………」






 つづく……。

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