第6話「気絶許」前編

[巣桜 司]

 「あ、あのー?」




 司君って、こんなに可愛い子だったんだ!



 これはお母様の血を色濃く、色濃く引き継いでいますね。



 私は司君が小汚いオタクじゃなくて安堵あんどした。



 良かった……この子なら仲良く出来そう!




[朝蔵 大空]

 「あっ!私隣に住んでるんだけど、大空って言います!」



[巣桜 司]

 「あ……貴女が大空さんですか?は、はい、母から聞かされてます」




 巣桜司君、濃いめの金髪にピンク色の瞳のスリムな美少年。




[朝蔵 大空]

 「うん!学校、明日からだよね?」



[巣桜 司]

 「はい、その予定です……」




 やっぱりあんまり楽しみそうじゃないな。



 前の学校ではあんまり上手くいかなかったんだっけ?




[巣桜 司]

 「あのっ、ぼく……怖くて」



[朝蔵 大空]

 「えっ……あ、うん、そうだよね。でも大丈夫私も着いてるからさ!安心してよ」




 司君の瞳がキラキラと輝く。




[巣桜 司]

 「うっ……すんっ……すっ、ぐすっ」




 !?




[朝蔵 大空]

 「ど、どしたの?!」




 司君の目から涙がポロリポロリと流れた。




[巣桜 司]

 「うわん、ごめんっ……なさいぼく、ひっく……やっぱり怖くてー!ぼ、ぼくなんかがそんなっ……ひっ、優しいお言葉貰って、い、良いのかなーって……!!」



[朝蔵 大空]

 「えぇ〜……」




 泣き出した!?



 しかもそんな言い方……前の学校がどれだけ冷たい学校だったのか想像がつく。




[巣桜 司]

 「ぼ、ぼくの事は……どうかほっといて下さい!め、迷惑かけちゃうのでーっ……!」



[朝蔵 大空]

 「司君!?」




 司君は泣きながら闇夜やみよに爆速で消えて行ってしまった。



 あの子ったら、こんな時間にどこ行ったんだろ?



 コンビニにでも行くつもりだったのかな?




[朝蔵 大空]

 「司君……」




 かなりデリケートそうな子だったな、もう少し接し方を考えないとダメかも……。



 彼、ほっといてくれとか言ってたけど明日ちゃんと登校してくれるかな?



 まあどんだけ嫌々言ってても明日って言うものは必ず次の日来るんだけどね。




[朝蔵 大空]

 「寝よーっと……」




 そして次の日の朝!




[朝蔵 真昼]

 「ふーん、学校楽しませたいの?」




 今は姉弟きょうだいで朝ご飯を食べている。



 ちなみにミギヒロはまだ着替えでウダウダやっています。




[加藤 右宏]

 「ママー!ネクタイ結んでー」



[朝蔵 葵]

 「うふふ、仕方無いわねぇ」




 うわきっつきなぁミギヒロ。



 ミギヒロはひとりでネクタイを結べないので毎朝私のお母さんに頼んでいる。




[朝蔵 大空]

 「うん!助けてあげたいの!」



[朝蔵 真昼]

 「でもお姉ちゃんに出来る?自分ですら普段なんもしてないのに……」




 私の胸にグサッと刺さるようなセリフ。



 私は真昼に痛い所を突かれた。




[朝蔵 大空]

 「うっ……わ、私の事は関係無いでしょ」




 確かに私は学校内では特出出来るような面は無いけど、それとこれとは別なんだから!




[朝蔵 真昼]

 「ねぇ……その人、いじめられてたんじゃない?」



[朝蔵 大空]

 「そ、それは知らないけど……」




 "いじめ"と言う言葉を聞いてドキッする。



 真昼の言う通り司君のあの喋り方とか、なんだか人に怯えているようだった。



 人間恐怖症ってやつ?




[朝蔵 大空]

 「いってきまーす!」




 でも、それを乗り越えてこそのなんだからね!




[朝蔵 大空]

 「司君、もう出たのかな?」




 私は司君の家の前でキョロキョロする。




[巣桜 燕]

 「あら大空ちゃん、おはよー!」




 燕さんがホウキを持って庭の方から出てきた。




[朝蔵 大空]

 「燕さん!おはようございます」




 今日も本当に可愛らしい!




[巣桜 燕]

 「司先に行ってるよ♪大空ちゃんも学校行ってらっしゃい!」



[朝蔵 大空]

 「はい!」



[巣桜 燕]

 「よろしくねー♪」




 良かった、司君ちゃんと学校に向かってるみたい。



 そう思うのもつか




[朝蔵 大空]

 「ん?あれ……」




 学校に行く途中、私は道に人が倒れている事に気付く。




[巣桜 司]

 「あばばばばばばばば」



[朝蔵 大空]

 「ひゃっ!?司君?!」




 なんと歩道の真ん中で司君がぶっ倒れていた!




[朝蔵 大空]

 「し、死んでないよね……?」




 私がそう声を掛けると、司君はバッと顔を上げて……。




[巣桜 司]

 「うわ!天国!?天使様なのですか!?」




 司君には私が天使に見えてると言うのか?




[朝蔵 大空]

 「違うよ司君、私だよ!ここ、この世だから!しっかりして!」




 私は焦点の合ってない司君に、肩を揺らして必死に呼び掛ける。




[巣桜 司]

 「あ……大空さん?ぼくは何して……」




 司君は目元をグリグリとこすった。




[巣桜 司]

 「あっ!そうだ学校!学校は……?」



[朝蔵 大空]

 「大丈夫?少し日陰で休もっか?」




 私は近くの公園に指をさす。




[巣桜 司]

 「は、はい……そうします」




 私は司君に肩を貸して、日陰の木の下に座らせる。




[朝蔵 大空]

 「はい!スポドリ!」




 私はそこの自販機で買ってきたスポーツドリンクを司君に渡す。




[巣桜 司]

 「あ、これは……?」




 私は自分が貰った優しさをちゃんと誰かに返していきたい。




[朝蔵 大空]

 「飲んで良いよ!ちょっと涼んでから行こうか」




 ホームルームが始まるまでとりあえずまだ時間はあるので私は、2人で少し休んでから学校に行こうと考えた。




[巣桜 司]

 「あ、ありがとうございます……」




 司君はペットボトルのふたを細い腕で踏ん張るように開けて水分を口に運んだ。



 か弱そう……心配になるなぁ。




[朝蔵 大空]

 「司君、なんで倒れてたの?」



[巣桜 司]

 「あ……それは多分、太陽の下に出たからだと……」




 太陽の下に出たら倒れるって……。




[朝蔵 大空]

 「えっ!司君って吸血鬼なの!?」



[巣桜 司]

 「え……ち、違います!違います!ぼく、昼間外に出ないから、日光は苦手で……」



[朝蔵 大空]

 「あはは!冗談だよ〜!」



[巣桜 司]

 「えぇー……」




 困惑した顔、可愛い!






 コラーーーーー!!!






[大空&司]

 「「きゃっ!?」」




 いきなり耳に響く怒声どせい



 何かと思って前を向く。




[おじいさん]

 「これぇ!お前ら、イチャついてないで早く学校に行きなさい!」




 イチャついてはないけど……。




[朝蔵 大空]

 「ごめんなさい!」




 あーこう言う町の見守り老人ってやつかな?



 こう言うおじいさんおばあさん、最近は居ないなーって思ってたけどレアだな。



 声掛けって大事だよね、少しでも犯罪とか事件を防げるから。




[巣桜 司]

 「あわ……」




 大変!司君泣いちゃいそう!




[朝蔵 大空]

 「司君、立てる?」



[巣桜 司]

 「は、はひ」




 司君は自分から立とうとしないので私が無理やりに立たせる。




[朝蔵 大空]

 「いってきます!」



[おじいさん]

 「はい、いってらっしゃい……」




[朝蔵 大空]

 「ほら行くよ司君!」



[巣桜 司]

 「はひ〜……」




 私は司君の背中を押して通学路に戻る。




[おじいさん]

 「……青春じゃのぉ」




そしてやっとこさ来た校門前。




[朝蔵 大空]

 「司君行ける?」



[巣桜 司]

 「ちょ……ちょっと無理!」




 司君はそう言って来た道の方に戻ろうとする。




[朝蔵 大空]

 「ダメだよ!転校初日に遅刻はまずいよ!」



[巣桜 司]

 「でも……でもぉ」




 あー焦れったいのねぇこの子!



 これじゃあ私も遅刻しちゃうじゃないの!




[朝蔵 大空]

 「やば……生徒指導」




 校舎の方から生徒指導の増田がこちらに向かってくるのが見えた。




[増田先生]

 「お前らまだか?門閉めるぞー」




 生徒指導の増田、筋肉隆々りゅうりゅう、ガタイの良い屈強な男だ。




[朝蔵 大空]

 「ごめんなさい!ほら司君、先生困ってるから……」



[巣桜 司]

 「うわーん帰りたいよぉ……」




 お、往生際が悪い……。



 私はもう司君を押さえてる腕が疲れてきちゃったよ!




[巣桜 司]

 「わぁー!!!」




 すると案の定司君が私の腕からスルりと抜けて行ったかと思うと、学校から背を向けて逃げ出して行ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「あー逃がした……」




 司君の面倒を見るって燕さんと約束したのに、司君がこれじゃ果たせそうにないよ、どうしたら良いの……?




[増田先生]

 「待て!」




 次の瞬間増田先生が司君を追いかけ司君の服を掴んで捕まえた。




[巣桜 司]

 「きゃいんっ!?」




 私は心の中で増田先生に対して『ナイス!』と叫んだ。




[増田先生]

 「お前は転校生の巣桜司だな?よし俺と来い、職員室まで連れてってやる。よいしょー!!」



[巣桜 司]

 「ギャー!嫌だぁー!!」




 司君は増田先生にかつがれて、暴れながら校舎に入って行った。



 そして耳に残るのは司君の悲痛な叫び。






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






 それがチャイムの音でき消される。




[朝蔵 大空]

 「やっば……」




 うわーもう絶対間に合わないよ〜!



 私は自分の教室まで走った。




[朝蔵 大空]

 「お、遅れました!」




 教室の扉を開けると一斉に集まる私への視線が辛かった。




[二階堂先生]

 「遅刻か?」



[朝蔵 大空]

 「すみません!」



[二階堂先生]

 「いいよ、席着け」




 教室に着く頃にはホームルームがもう始まってて私は恥をかいてしまった。




[永瀬 里沙]

 「遅刻かーい?」



[朝蔵 大空]

 「そうだよ」






 ざわざわ……ざわざわ……。






 ん?何やら廊下が騒がしくなってきたぞ?




[増田先生]

 「俺も一緒に入ってやる」



[巣桜 司]

 「ちょ、ちょっと待って……くだひゃ」






 ガララっ!!






 教室に前側の扉が勢い良く開けられた。




[二階堂先生]

 「……よし、今日は転校生を紹介する」




 ゴクリ……。




[モブA]

 「また?」



[モブB]

 「てかどれ?」



[モブC]

 「増田先生じゃね?」




 皆、司君がどこに居るか気付いていないようだ。



 私にはもうバッチリ見えてるが……。




[モブB]

 「あっ……ちょっと待った!持ってるやつ!」



[モブC]

 「あー!なんか持ってる!あれ人間か?」



[モブD]

 「人間だ……」




 そう、司君は増田先生に片手で腰を持たれているのだ。



 ダラーっとしていて体に力が入っていないようだった。




[二階堂先生]

 「増田先生、すんません。あとそいつ……」



[巣桜 司]

 「ぷひ……」




 司君は白目を向いて気絶しているようだった。




[増田先生]

 「なんだ……?わぁ!いつの間に!?」




 増田先生は手に持っている司君が気絶している事に驚く。




[二階堂先生]

 「いや今気付いたんかーい!」




 二階堂先生がツッコミを入れると一斉に湧き上がる笑いのうず



 私は笑えないのだが……。




[増田先生]

 「こいつ、どうしますか?」



[二階堂先生]

 「んーっと……ああ朝蔵の後ろか。増田先生、そこの女子の後ろの席が空いてるのでそこに座らせておいて下さい」



[増田先生]

 「それで大丈夫なんですか?」



[二階堂先生]

 「あー大丈夫っす。よくある事らしいので」



[増田先生]

 「いやよくある事なんかーi……」






 つづく……。

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