第4話「強引な契約者」後編

[朝蔵 大空]

 「あー」




 里沙ちゃんが居ないと1日が長すぎる。



 今はやっと午前の授業が全部終わった所だ。



 寂しいな、里沙ちゃんに会いたい。



 見舞いは良いって言ってたけど、学校終わったぐらいに電話しようかな?



 ゆっくり休めてると良いけど。



 ……。




[朝蔵 大空]

 「今日は何にしようかな……」




 昼休みになって私は昼食を取りに食堂までやって来た、ひとりで。




[朝蔵 大空]

 「はは、ぼっち飯ぐらい慣れたもんだ」




 私はひとりで堂々と、孤独に唐揚げ定食を食す。




[朝蔵 大空]

 「いただきます、モグモグ……」




 旨い、やっぱり私唐揚げ大好き!!



 ちなみにうちの高校の学食はひとり1日1食だけ無料で食べられる。



 心底しんそこ金のる学校だなぁと思う。






 ガシャッ。






 私の座っているテーブルに何かドンっと置かれた。



 これは……お蕎麦そば??



 急に目の前にお蕎麦セットが現れた。



 お上品な小盛こもり。




[狂沢 蛯斗]

 「ひとりですか?」




 げっ、またこいつ……。



 狂沢君が勝手に向かいの席に座ってきた。



 何しに来たんだ?




[朝蔵 大空]

 「な、何?」



[狂沢 蛯斗]

 「大空さんがひとりでとても寂しそうに食事をしてらしたので!」



[朝蔵 大空]

 「あ、そう」




 別に寂しくなんかないし、ほっといてくれてて良いのに。



 しかも貴方なんかと一緒に居たら地味に目立つんですけど?




[女子生徒A]

 「ねぇアレ、カップルかな?」




 違います、今日初めて喋りました。




[女子生徒B]

 「かもね、男の子可愛い〜」




 見られている、しかも私達が可愛いんじゃなくて狂沢君だけ可愛いって言われるんだね。




[狂沢 蛯斗]

 「……」




 あ、蕎麦すすりだした……。



 この子周りをなんにも気にしてないみたい。



 あーなんか私だけ意識してて悔しい、私も気にせず早く食べちゃおう。




[狂沢 蛯斗]

 「ごくっ……」




 静か……食べ方、綺麗だな。




[朝蔵 大空]

 「……」




 私は狂沢君をジーっと観察してしまう。




[狂沢 蛯斗]

 「あの、文島君に言われたんですけど。さっきはごめんなさい、ボク空気読めなくて……すみませんでした」



[朝蔵 大空]

 「え?うん」




 謝るんだ、普通に……。



 へぇ、結構可愛いとこあんじゃん。




[狂沢 蛯斗]

 「ごくっ」




 それにしても本当に少食なようで、お肉とかちゃんと食べてるのかな?



 めっちゃチビチビ食べてるし、実際チビだし。



 本人には言えないけど。




[朝蔵 大空]

 「……はい」




 私は狂沢君のお盆に置かれたスペースの空いた薬味皿に、自分の所から唐揚げを1個乗せた。




[狂沢 蛯斗]

 「え」



[朝蔵 大空]

 「食べなよ」




 狂沢君は背もそうだし色んな所がサイズ小さくて心配になる。



 目と態度は大きいけど。




[狂沢 蛯斗]

 「い、頂きます」




 狂沢君は唐揚げを箸に取って口に運ぶ。




[狂沢 蛯斗]

 「あ、熱っ」



[朝蔵 大空]

 「き、気を付けて……」




 唐揚げ食べた事無いのかな?



 ただ単に食べ慣れてないだけ?




[朝蔵 大空]

 「ふーふーしなよ」




 私は少し冷ましてから食べろとアドバイスをする。




[狂沢 蛯斗]

 「……ふぅ、ふぅ」




 あーなんか、家が開業医なんだっけ?



 里沙ちゃん情報だけど。



 里沙ちゃんってばちょっと顔が良い男の子の事なら何故か詳しいから。



 確かに親が医者だと唐揚げとか食べた事無さそう、偏見だけど。




[狂沢 蛯斗]

 「美味しい……」




 あ、ほんとに無さそう。




[朝蔵 大空]

 「ふふっ、あはは」




 私はなんだか微笑ましくて笑ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「ファースト・カラアゲだ」



[狂沢 蛯斗]

 「え……なんですか?それ」



[朝蔵 大空]

 「ううん、なんでもない」




 一緒にご飯食べてくれてありがとう。



 意外と一緒にいて楽しいかも。



 ……。



 そして時は過ぎ放課後。



 私は狂沢君に中庭まで連れて来られた。




[朝蔵 大空]

 「ねぇ、部室とかって……」




 入部する気があるかと聞かれたら正直無いが、約束した以上今日の見学だけは誠実に向き合おう。




[狂沢 蛯斗]

 「無いです、部員はボクひとりなので」



[朝蔵 大空]

 「えぇ狂沢君ひとりー?!」




 ひとりなんかーい!



 それはもう部活と言っても良いのか怪しいな。




[狂沢 蛯斗]

 「はいっ、だから寂しくて。なので大空さんに入って来てもらいたいんです」




 うおー、必死に詰め寄って来た……。




[朝蔵 大空]

 「そっか、そっか、ちょっと離れて」




 私は狂沢君の肩を押して離れさせる。




[朝蔵 大空]

 「でー、部活内容って何するの?」



[狂沢 蛯斗]

 「もちろん、写真を撮る。ですね」



[朝蔵 大空]

 「あ、ほんとにそれだけなんだ」




 簡単そう、私でも出来そう!




[狂沢 蛯斗]

 「大空さんは……」



[朝蔵 大空]

 「ん?」



[狂沢 蛯斗]

 「撮るのと撮られるの、どっちが好きなんですか?」




 何その質問、初めてされた。




[朝蔵 大空]

 「えっ」




 考えた事無かったなー、でも撮られるのはそこまで得意じゃないかも??



 撮る方も別に大した経験がある訳でもないし……。




[朝蔵 大空]

 「どっちもどっちかなー?あははっ答えられなくてごめん」



[狂沢 蛯斗]

 「そうですか……」



[朝蔵 大空]

 「狂沢君は?どっちの方が好きなの?」



[狂沢 蛯斗]

 「ボクは撮る専門です、撮られるのは嫌いなんです……恥ずかしいから」




 へぇ、意外とシャイなんだなこの子。




[朝蔵 大空]

 「へー」




 その時、狂沢君の首にかけている大きなカメラが目に入る。



 うわぁ、きっとお高いんだろうなぁ……。




[狂沢 蛯斗]

 「あ、気になりますか?」




 狂沢君が私の視線に気付く。




[朝蔵 大空]

 「う、うん」



[狂沢 蛯斗]

 「お貸ししますよ、どうぞ!」




 狂沢君が首にかけていたカメラを外して私に押し付けてきた。




[朝蔵 大空]

 「あ、うん。じゃあ〜……」




 私は起動しているカメラを狂沢君に向けて……。






 パシャ。






[狂沢 蛯斗]

 「……!?なんでボクを撮るんですかー!撮られるの嫌いって、言ったじゃないですか!」



[朝蔵 大空]

 「あははっ、ごめん!でも可愛いじゃん」




 写真に写った狂沢君は気の抜けた顔をしていた。



 ちょっとこの写真欲しいかも。




[狂沢 蛯斗]

 「返して下さい、消します」




 カメラが狂沢君の手元に戻っていく。




[朝蔵 大空]

 「ねぇ!私の事も撮って〜!」




 私は狂沢君に向かってニカッと笑って片手でピースサイン。




[狂沢 蛯斗]

 「え?」



[朝蔵 大空]

 「ねぇねぇー!早く撮ってー」




 狂沢君は私に向かってカメラを構えた。






 パシャ。






 その時、木々を激しく揺らすほどの強い風が吹き込んだ。




[朝蔵 大空]

 「わっ!急に何、もう!」




 風のせいで私の髪が乱れて最悪だ。




[狂沢 蛯斗]

 「……綺麗だ」



[朝蔵 大空]

 「嫌味?」




 こんな頭ぐしゃぐしゃなのに、綺麗な訳ないよ。




[狂沢 蛯斗]

 「あ、あっ、貴女はやっぱり良いな!」




 再び私に詰め寄ってくる狂沢君。




[朝蔵 大空]

 「はい?」



[狂沢 蛯斗]

 「もっと貴女を撮らせて下さい!!」




 狂沢君、息の仕方が変になってる。



 興奮してらっしゃる。



 なんか怖くなった、逃げよう。



 やっぱりこの子はなんか頭おかしい気がする。




[朝蔵 大空]

 「ご、ごめん私もうそろそろ帰るねー!」



[狂沢 蛯斗]

 「冗談でしょう?貴女が部に入ると言うまで帰しません」




 うわー強引すぎる。



 しかも腕!ガッシリ掴まれてる、しかもちょっと痛い。




[朝蔵 大空]

 「ちょっと!辞めてよ!」






 バンッ!






 急に横からカバン?のような物が突っ込んできた。



 私の腕から狂沢君の手が離れる。



 これで逃げられるが、しかし今何が起こった?



 今はそっちの方が気になって、逃げようにも逃げられない。






 バンッ!バンッ!






 !?




[狂沢 蛯斗]

 「痛っ……痛いです!」




 痛がる狂沢君、そして狂沢君に学校カバンを一心不乱いっしんふらんに叩きつける男子生徒。




[嫉束 界魔]

 「大空ちゃんをいじめるなこのケダモノー!」




 なんとその男子生徒は嫉束君だった。



 助けに来てくれたの?




[狂沢 蛯斗]

 「……」




 狂沢君は動けず耐えている。



 絶え間無い嫉束君の攻撃。



 私はさすがに不味いと思い止めに入る。




[朝蔵 大空]

 「し、嫉束君?ちょっと……やめて。ねぇ!そんな酷い事されてないから!」




 狂沢君はか弱そうだから本当にやめてあげてほしい。




[嫉束 界魔]

 「あれ?あっ、僕なんて事を……」




 嫉束君は我を失っていたようだった。



 そして私の言葉にようやく嫉束君は狂沢君への攻撃をめる。



 少し涙目になりながらひるんで倒れている狂沢君。



 可哀想だとは思ったが私は狂沢君を慰めには行かない。




[嫉束 界魔]

 「大空ちゃん逃げるよ!」



[朝蔵 大空]

 「きゃっ……ちょ、うわぁ〜」




 嫉束君が私の手を取り走り出す。




[狂沢 蛯斗]

 「カメラが……」




 どうやら狂沢君のカメラが嫉束君の攻撃により少し傷が付き、変形してしまったようだ。




[狂沢 蛯斗]

 「あれは嫉束界魔……絶対、許さない!!」




 ああ、彼とは距離を取ろう、と私はそう思った。




[嫉束 界魔]

 「あいつ、追いかけて来なかったね」



[朝蔵 大空]

 「う、うん」




 この人ととも本当は一緒に居ちゃいけないのに、でも助けてもらったしなとも思う私。




[嫉束 界魔]

 「僕あの子と中学一緒だったんだけど、うん前から変わった子だよね」



[朝蔵 大空]

 「だ、ダメかと思った……」




 あのままじゃ確実に入部させられていた、無理やり。




[嫉束 界魔]

 「大丈夫?何もされてない?」



[朝蔵 大空]

 「うん私は大丈夫……それより狂沢君置いてきちゃった」




 ボッコボコにされてたもんな、犯罪者予備軍相手でも少し心配にになる。




[嫉束 界魔]

 「大丈夫だよ、あの子しぶといから」



[朝蔵 大空]

 「そうなんだ?」




 結構よく知ってる仲なのかな?



 同じ中学って言ってたけど、あんだけ躊躇ちゅうちょ無く殴ってたから友達ではなさそう。



 とにかく助けてもらって良かったー。




[嫉束 界魔]

 「それはそうと大空ちゃん」



[朝蔵 大空]

 「ん?」



[嫉束 界魔]

 「僕のファンの子達になんか言われたでしょ?」




 はい、昨日言われたばかりです……。




[朝蔵 大空]

 「あ、うん」



[嫉束 界魔]

 「あれクラスの女の子達、僕と大空ちゃんの話してて怪しかったから問い詰めたら、動画見させられたよ」




 動画とは例の私が嫉束君のケータイを無理やり奪って連絡先を交換させたように見える動画の事だろう。




[朝蔵 大空]

 「あっ!あれなんか誤解されてて……」



[嫉束 界魔]

 「うん知ってるよ。でも誤解は解いといたから、あと盗撮した事も怒ったよ。だから多分もう何もしてこないと思うよ」




 多分もう何もしてこないって言われても、あの子達には煙たがられてるだろうな。




[朝蔵 大空]

 「……」



[嫉束 界魔]

 「大空ちゃん、あの子達に何もされてない?」




 何かされたと言われると暴言ぐらいしか思い浮かばない。



 言われた言葉だって充分傷付いたが、それを言うのは嫉束君になんか悪い。



 "自分のせい"と、責任を感じさせてしまうだろうから。




[朝蔵 大空]

 「ううん、ただ話を聞かされただけ」



[嫉束 界魔]

 「そうなんだね」



[朝蔵 大空]

 「うん!あとあの時は助けてもらったんだ!」



[嫉束 界魔]

 「そうなの?誰に?」



[朝蔵 大空]

 「えっとね、笹妬君って子」



[嫉束 界魔]

 「……え、笹妬って……吉鬼の事?」




 あれ?友達なのかな?



 にしてはなんか反応が……。




[朝蔵 大空]

 「うん。とっても優しかった!」



[嫉束 界魔]

 「優しくないよ、あいつは」



[朝蔵 大空]

 「え……」






 「強引な契約者」おわり……。

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