第4話「強引な契約者」前編

[卯月 神]

 「まったく、妙な言い方をして……」



[朝蔵 大空]

 「ちょっと待って、どう言う事?」




 私は真実が知りたくて必死だった。



 教えて卯月君!




[卯月 神]

 「知りません、じゃあ僕もう行きますね」




 私は彼を引き止める事はしなかった。



 その後ミギヒロを探しに急いで家に帰った。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ!!」




 私は家じゅうミギヒロを探し回った。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ?」




 だけどどこにも居ない。




[朝蔵 葵]

 「〜♪」




 キッチンに行くと鼻歌を奏でているお母さんの姿が目に入った。




[朝蔵 大空]

 「お母さん、ミギヒロ知らない?」



[朝蔵 葵]

 「さ、さぁ?まだ帰って来てないみたいだけど……」




 帰って来てない……って言う事はまさかまだ学校?



 仕方無い、戻ってやるか。




[朝蔵 大空]

 「私もう1回学校戻る」



[朝蔵 葵]

 「えっ?晩御飯までには帰って来るのよー?」




 私は夕方空の通学路をつっぱしった。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ……?」




 1年の教室を覗くと、もう誰も教室に残っていなかった。



 トイレにも手洗い場にも人の気配は無い、窓からグラウンドを見てみてもサッカー部が部活をしてたりするが、ミギヒロらしい人は居ない。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ、どこ?」




 そう声に出した瞬間、私の頭の中にある場所が浮かんだ。




[朝蔵 大空]

 「会議室……」




 私は急いで会議室に向かった、途中すれ違った先生に『廊下を走るな』とか言われた気がするが無視してとにかく走った。



 会議室の前まで来て部屋に入ろうとした時、中から人の声が聞こえた。



 誰かと誰かが会話している。



 この声……卯月君とミギヒロ!?




[卯月 神]

 「せっかく悪魔である貴方と契約したのに。ミギヒロ君、貴方って人は本当に役立たずですね」



[加藤 右宏]

 「ごめんって!これでも急いで色々やってるツモリだよ!?」



[卯月 神]

 「どこが?貴方はいつも呑気だ。そうだ……聞けば貴方、あの人の家でお世話になってるそうですね?」



[加藤 右宏]

 「ウッ、それは雨風しのげる所が無くて……夜も寒いシナ。お、怒らないでくれよ!お前が妬きモチ焼くんだろうなとは思ってたけどサ!オレだって野犬やけんに食い殺されたくないシ〜!しかもあの家に居れば朝昼晩あさひるばん飯は出るシ〜」



[卯月 神]

 「はぁ……ただでさえあの人の周りには人間が増えてきていると言うのに」



[加藤 右宏]

 「お願いです天使様!この可哀想な悪魔にお許しヲ〜」



[卯月 神]

 「はぁ……」




 どう言う事?静かに聞いていればふたりとも訳の分からない事ばかり。



 ふたりは一体どう言った関係?



 悪魔とか、契約とか天使とか、なんの話?



 野犬って何??



 焼き餅が何?食べ物??




[卯月 神]

 「とにかく、今日はもう良いです。帰りましょう、次もまた進捗状況聞きますから」



[加藤 右宏]

 「は、はい……」




 やばい、外にふたりが出てきちゃいそう!



 よく分からなかったけど、逃げよう!






 ガラッ……。






 私は逃げようとしたが、全然間に合わなかった。



 会議室から出てきた卯月君とバッチリ目が合ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「あっ」



[卯月 神]

 「あ、朝蔵さん?なんで……」



[加藤 右宏]

 「んぁ!?お前聞いてたノか!?」




 続けてミギヒロにも見つかってしまった。



 卯月君もミギヒロも、私を見て驚いていた。




[朝蔵 大空]

 「いやー別に!?私は何も聞いてません!ぐ、偶然通りかかっただけで!それでは……さよなら!!」




 私はふたりに背を向けて廊下を走りだす。




[加藤 右宏]

 「あいつ……」



[卯月 神]

 「はっ、分かりやすい」




 その時だった、卯月君の右手からまばゆい光が放たれて……。



 私の方に、もの凄い勢いで飛んで来る。




[朝蔵 大空]

 「ぶふっ……!?」




 急に前に進めなくなった、と言うか手足が動かない。



 視線を下に向けて見ると、私の腕から膝ににかけて光を放つ鎖のような物がぐるぐると巻き付いていた。



 何これ!?現実?!



 ほどこうにもガッシリとホールドされてて身動きが出来ない。




[加藤 右宏]

 「お、おいやりすぎだよ……」



[卯月 神]

 「逃がすでしょう?」



[加藤 右宏]

 「ま、まあね?……大空ー?大丈夫か?」




 大丈夫な訳ないっ!!



 息だって、しづらいほどにきつく締め付けられてる。




[朝蔵 大空]

 「あんた!これ外しなさいよー!ミギヒロ!!」




 私はミギヒロに怒鳴る。




[加藤 右宏]

 「いやオレじゃないんだけど?」



[卯月 神]

 「どうしますか?」



[加藤 右宏]

 「……うーん聞かれた以上、もうこの機会にやるしかナイだろ」




 やる!?殺される!?




[卯月 神]

 「同意見です。さぁ彼女にを」



[加藤 右宏]

 「大空ごめんな、この天使様怖いからオレは逆らえないんだ」




 ミギヒロがこちらに歩いて来る。



 何かやられる!




[朝蔵 大空]

 「嫌ー!!死にたくない!!」




 近くに人は居ないのか?



 そもそもこんなに叫んでるのに何故誰も助けに来ない?



 さっき居た先生とかは??




[加藤 右宏]

 「えっと……セカンドキスって事になるのかな?」




 セカンド……キス!?



 いや待って何それ、ファーストキスも私はまだのはずなんだけど!!




[朝蔵 大空]

 「ちょ、ちか



[加藤 右宏]

 「うわーんオレ初めてだからさー、マジ恥ずいんだけど!悪いけど目つむっててくんない?」




 ミギヒロの顔がグイッと近付いて来る。



 拒絶!そうだ、拒絶しないと!!




[朝蔵 大空]

 「いや!いや!嫌!!」



[加藤 右宏]

 「え、シンプルに傷付く」



[卯月 神]

 「嫌われてますね」



[加藤 右宏]

 「あ、安心してくれ!これでも口臭予防は完璧なんだ!」



[朝蔵 大空]

 「そ、そう言う問題じゃない……」




 口内環境とかそんな事言ってないんだよ、なんで私はいきなりミギヒロにキスされる事になってんの?



 その説明が欲しい……。




[加藤 右宏]

 「大空!オレだって不本意なんだ!……いくぞ」




 ……。



 けがされた。



 次の瞬間私は気を失った。



 気を失う前に見た最後の光景は怒りに顔をしかめた卯月君の姿。




[朝蔵 大空]

 「……」



[加藤 右宏]

 「あれ?気ィ、失っちまったのか?」




 ミギヒロが私の脈を確かめる。




[卯月 神]

 「はい、おめでとう。そして離れろ」




 次の瞬間卯月君はミギヒロの肩を突き飛ばした。



 そして私はミギヒロの元から卯月君の腕の元へ。




[加藤 右宏]

 「グフッ……!?」



[卯月 神]

 「それにしても……はぁ、貴方のお父様もいやしい契約方法を考えたものだな『キス』だなんて。はぁ、朝蔵さんの唇がよごされてしまった」




 天使と悪魔からの両方のキス。




[加藤 右宏]

 「おい……まあ、アッチではキスはそれだけ特別?高尚こうしょうな事なんだ。ご、ごめん」



[卯月 神]

 「急いで朝蔵さんの口を洗います」



[加藤 右宏]

 「いやだからそれ傷付くんダッて!」






 ジャー……!!






 水道の水で卯月君に口をゆすがれる私。




[卯月 神]

 「あぁ、早く連れて行きたい。早く、早く」




 ……。




[加藤 右宏]

 「ふぅ……運ぶの大変だった」




 ミギヒロは私をおんぶして家まで運んで来た。






 ガチャ。






[朝蔵 真昼]

 「ただいまー……って何それお姉ちゃん?」




 塾から帰って来た真昼。




[加藤 右宏]

 「おっとー真昼か!悪いがお姉ちゃんベッドに寝かせるの手伝ってくれ」



[朝蔵 真昼]

 「え、良いけど……なんかあったの?これ」




 ミギヒロが私の肩を支え、真昼が私の足を持って私を部屋まで運んでいく。





[加藤 右宏]

 「ふー!真昼!ありがとな!」



[朝蔵 真昼]

 「ねぇ、お姉ちゃん川にでも溺れたの?なんか髪とかちょっと濡れてるけど」



[加藤 右宏]

 「ね、寝てるだけだよ!ほら、もう戻って良いから」



[朝蔵 真昼]

 「あっ、あーあーあー……?」




 ミギヒロが真昼の背中を押して部屋から追い出す。




[加藤 右宏]

 「ふぅ……さて、これからが本当につまらなくない人生だぞー。頑張ろうな」




 ……。




[朝蔵 大空]

 「ん、あれ……私、今まで寝てた?」




 時計を見るともう深夜の2時だった。



 私、家に帰って……何してたっけ?



 なんだか記憶がおかしくなってる気がする。




[朝蔵 大空]

 「あれ?私パジャマになってる」




 着替えた覚えは無いのに、私はパジャマを着ていた。




[朝蔵 大空]

 「あらミギヒロ」




 左横を見るとミギヒロも一緒に寝ていた。



 もうそろそろ一緒の部屋で寝るの辞めてほしいんだけど。



 夜はひとりの時間が欲しい。



 でも寝てる所をうるさくして起こすのは可哀想って思っちゃうのよね。



 だから私も最近は早く寝てる。




[加藤 右宏]

 「ん、起きたのか……?」




 見てたらミギヒロを起こしてしまった。



 目はいていないが。




[朝蔵 大空]

 「ああ、おはよう」



[加藤 右宏]

 「お前……そっか、副作用が」



[朝蔵 大空]

 「何?」



[加藤 右宏]

 「なんでもない……」




 そう言ってミギヒロはまた眠ってしまったようだった。



 私もまだ眠いし、寝よっと。



 ……。



 そして朝が来た。




[朝蔵 大空]

 「はぁ……」




 今日は里沙ちゃんは休み。



 私はひとりぼっち。



 里沙ちゃんは風邪をひいてしまったらしい。



 学校に行くのがとても憂鬱だ。




[朝蔵 大空]

 「ひとり、辛っ……」




 休み時間も誰も話す人が居ない、私は孤独。



 今日はもう存在感ゼロにして過ごそう。




[???]

 「浮かない顔ですね?」



[朝蔵 大空]

 「えっ……」




 この子は確か、狂沢くるさわ蛯斗えびと君だ。



 同じクラスの男の子。




[狂沢 蛯斗]

 「大空さん」




 赤茶色の髪に深い青色の瞳が印象的、顔は結構な美少年だと思う。



 背丈は……私が160cmで、同じくらい?




[朝蔵 大空]

 「あ、どうも」



[狂沢 蛯斗]

 「どうやら大空さん貴女、部活には入っておられないようで?」



[朝蔵 大空]

 「そ、そうだけど」




 この子はなんで急に私に話しかけたきたんだ?



 今まで喋った事無いはず。



 彼は不思議ちゃんで有名な子だけど。




[狂沢 蛯斗]

 「でしたら是非うちの部に!」



[朝蔵 大空]

 「はっ?」




 うわ、凄く厚かましい子。



 圧が……凄い。




[朝蔵 大空]

 「いや……あんまり気が進まないって言うか。私、運動とか苦手で……あっ、写真部とかそう言う所なら楽そうだなーとは思ったけど」



[狂沢 蛯斗]

 「はい、写真部です」




 あっ、写真部なんだ……。



 確かにこの子、首にカメラかけてるな。




[朝蔵 大空]

 「……」



[狂沢 蛯斗]

 「迷ってるなら、見学に来て頂いても良いですよ?大歓迎なので!」




 来て頂いても良いですよ……って本当に凄い。




[朝蔵 大空]

 「えー、どうしよーかなー……」



[狂沢 蛯斗]

 「来たいですか?」



[朝蔵 大空]

 「……じゃ、じゃあ?」




 ああ、本当に圧に弱いな私。



 この子、苦手かも。



 まあ1回見るだけ、見るだけだから。




[狂沢 蛯斗]

 「はぁ。実はボク、前から貴女の事が気になってたんです!それで、今日は永瀬さんがお休みで貴女がひとりの今しか無いと思いまして」




 あー、凄い早口。




[朝蔵 大空]

 「そ、そうなんだ……へー」



[狂沢 蛯斗]

 「大空さん!是非貴女をうちの部に欲しいです!前向きなご検討を!!良いですよね?」




 こんなのが同じクラスに居たのかよ。




[朝蔵 大空]

 「う、うん」




 えーん、誰か助けて。




[文島 秋]

 「ちょっと、狂沢君。彼女困ってるから」




 文島君!




[文島 秋]

 「彼女……あんまりメンタル強くないみたいだから、そんないっぱい言わないであげて?」




 メンタル弱い言われた……。



 まあ本当の事だけど。




[狂沢 蛯斗]

 「なんですか?今はボクと大空さんふたりで話してるので、割って入って来ないでもらえますか?悪いですがボク、貴方には興味無いです」




 そう言って狂沢君はフンっと文島君に悪態をつく。




[文島 秋]

 「……君ねぇ」



[狂沢 蛯斗]

 「ふん」




 あ、気不味い雰囲気。



 文島君も怒りが内側からメラメラと燃えているようだった。




[朝蔵 大空]

 「お……御手洗に行ってきまーす」



[狂沢 蛯斗]

 「あ、まだ話は終わってないのに!!」



[文島 秋]

 「行かせてあげよ?あと、君は僕と話そうか?」




 私は根性も無しにその場から逃げ出した。






 つづく……。

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