第3話「優しい鬼」後編

[???]

 「大丈夫かよ?」




 誰?



 後ろを振り返って見えたのは、私が知らない男の子。



 薄めの茶髪に赤色の瞳のイケメン。



 正直かなり私のタイプだった。



 

[朝蔵 大空]

 「ぐすっ……うわぁん……」




 なのに私の顔は涙でぐちゃぐちゃ、最悪だよ。



 せっかく目の前に好みのイケメンが居るって言うのに。



 こんな顔見られたくない!!




[???]

 「おいっ……大丈夫なのかよ?」




 私はその場に顔を隠すように泣き崩れる。



 怖かった、助かった、さっきの。



 もしかするとだが、この人が来たからあの子達は去って行ったのか?



 だとしたらこの人は一体何者!?




[???]

 「おい!」




 どうしよう、泣けちゃって上手く話せない。




[朝蔵 大空]

 「うっ……」



[???]

 「……そこ、座るか」




 私は彼に腰や腕を掴まれ、近くにあったベンチに座らされる。




[朝蔵 大空]

 「ぐすっ……ぐすっ……うぇ……ぐすっ」



[???]

 「あははっ……泣きすぎだよ」




 大声で泣いてたら笑われた、恥ずかしい。



 穴があったら入りたい。



 息がしづらい。




[朝蔵 大空]

 「うっ、私……私……」




 こう言う時、何を話したら良いのか。



 どう頼れば良いのか、分からない。




[???]

 「……落ち着いてからで良いよ」




 横に座っている男の子は本当に私が泣き終わるまで横に一緒に座って待ってくれていた。



 静かに、何も言わず。



 あまりにも静かなので私は『居なくなったのかな?』と思って不安になって横をチラ見てしまう。



 その度に彼は必ずこちらに気付いて視線をくれる。



 なんて優しいのだろう。




[朝蔵 大空]

 「おっ、落ち着きました」



[???]

 「おう」




 男の子の方を見るとかすかに微笑んでいた。



 私の胸が高鳴る。



 男の子にこんなに優しくされたの初めて。



 私なんかがこんなに良くされて良いんですかね?




[朝蔵 大空]

 「ごめんなさい、私もう……」




 『もう帰ります』と言いかけた時……。






 ぐー。






 あっ!?



 今のは、お腹の……音??



 しかも結構大きい音!!!



 私の腹から!




[朝蔵 大空]

 「あっ……」



[???]

 「お腹空いてるの?」




 そう言えばまだご飯食べてなかったな。



 授業終わって里沙ちゃんと食堂に行こうとした時にちょうどあの子達が来たから……。



 私がコクっとうなずくと、男の子はガサゴソと自分のカバンをあさり始めた。




[???]

 「あった、これ食べて良いよ」




 カバンの中からお煎餅せんべいが出てきた。




[朝蔵 大空]

 「い、いいの?」



[???]

 「良いよ」




 私はその手からお煎餅を受け取って有難く頂いた。



 美味しい醤油煎餅。




[朝蔵 大空]

 「パリパリ……」



[???]

 「これも飲んで良いよ」




 渡されたのはパックに入ってるりんごジュース。



 私はりんごジュースが大好き。



 本当に嬉しい、助かる。 




[朝蔵 大空]

 「ありがとう……!」




 凄い、こんな優しい人いないわ……。



 しかもこんなイケメン、うちに居た?



 気になるのはこの人がなんでひとりでこんな所に居るのか?と言う事。




[朝蔵 大空]

 「ねぇ、あっあの……」



[???]

 「ん?」




 横を見ると彼は握り飯を食べていた。



 多分手作りのものを。




[朝蔵 大空]

 「えと……」



[???]

 「欲しいのか?」




 そう言って彼はおにぎりを私に渡そうとする。




[朝蔵 大空]

 「えっ!?いや違うの!そうじゃなくて……てかさすがに悪いよ……」




 さっきから私が優しくされっぱなし、色々貰われっぱなしだ。



 なのにおにぎりまで貰ったら申し訳無い。




[???]

 「遠慮すんなって」



[朝蔵 大空]

 「ああいや……あ!名前!名前なんて言うの?」




 そう言えば名前をまだ聞いていない、彼のネクタイが赤色なので私と同じ2年生だと思われるが……。




[???]

 「名前?……笹妬ささやき。笹妬吉鬼よしき




 笹妬君は自分の名前を言う時少し躊躇ったような気がした。




[朝蔵 大空]

 「笹妬……くん?」



[笹妬 吉鬼]

 「う、うん」



[朝蔵 大空]

 「あ、私は朝蔵大空!えっと、笹妬君って優しいね!」




 私は泣いた後でも精一杯の笑顔で伝える。




[笹妬 吉鬼]

 「お前……知らないのか?」



[朝蔵 大空]

 「え?何が?」




 笹妬君が黙って私の目を見つめてくる。



 なんかちょっと怖い。



 でも同時に照れる様な気持ちもあった。



 何故なら笹妬君は顔がすっごくカッコ良いので。



 大丈夫かな?私、顔赤くなってないかな!?




[朝蔵 大空]

 「な、何?」




 そんなにマジマジと見られると困るのですが!!



 でもこんなイケメンに見つめられたら誰だってこんな反応するよね?




[笹妬 吉鬼]

 「いや悪い、知らないならいいから」




 笹妬君は急に私から目線を外した。




[朝蔵 大空]

 「う、うん?」



[笹妬 吉鬼]

 「お前の名前、大空、だっけ?」



[朝蔵 大空]

 「うん!合ってるよ」



[笹妬 吉鬼]

 「そっか……覚えとくよ」




 笹妬君、暗い人ではないけど何故か何処かミステリアス。



 気になるような人……。



 でもとっても優しい人。




[笹妬 吉鬼]

 「なぁお前、さっきのは……」



[朝蔵 大空]

 「え?」



[笹妬 吉鬼]

 「なんでひとりで泣いてた?」



[朝蔵 大空]

 「あぁ……色々あって」



[笹妬 吉鬼]

 「……そっか」




 笹妬君はそれ以上何も私に聞いてこなかった。



 そして少しの沈黙の後……。




[笹妬 吉鬼]

 「分からないけど。大空、お前は悪くないよ」



[朝蔵 大空]

 「あ、ありがとう。そう言ってもらえるとほんとに……」




 この人どこまで優しいんだ?



 こんな初対面の可愛いくもない地味な私なんかに。



 それと本当にどうしてこの人はここにひとりで来てるの?




[笹妬 吉鬼]

 「ん、俺そろそろ行くわ。じゃあな」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん」




 笹妬君は背中を向けて行ってしまった。



 またどこかでお礼したいな。



 同じ学校ならきっといつかまた何処かで会えるよね。



 私もひとりで居るとまた絡まれそうなので急いで教室に戻った。




[永瀬 里沙]

 「大空〜!!」



[朝蔵 大空]

 「里沙……ちゃっ!?」




 里沙ちゃんが教室に戻って来た私を見つけると、走って私に抱き着いて来た。



 この人のぬくもりが傷付いた私の心を癒してくれる。




[永瀬 里沙]

 「うわ、あんた泣いてんじゃん!」



[朝蔵 大空]

 「ああ、うん、まあね」




 ああ里沙ちゃんが友達で本当に良かった。




[木之本 夏樹]

 「おい、何かあったのか?」



[永瀬 里沙]

 「木之本はどっか行って!!」



[木之本 夏樹]

 「な、なんだよ……」




 里沙ちゃん、貴女は最高の親友だよ……。




[永瀬 里沙]

 「さっきの、嫉束のファンでしょ?」



[朝蔵 大空]

 「うん、そうだった」



[永瀬 里沙]

 「なんかあったの?」




 私達は出来るだけ教室の隅っこに寄って話す。




[朝蔵 大空]

 「……バレちゃったの」



[永瀬 里沙]

 「バレた?何が?」




 どうしよ、でも里沙ちゃんは信頼出来るし。



 いつだって私の事守ってくれるし、ちゃんと話そう。




[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん、絶対に……絶対に驚かないでね?大きい声も出さないで……」



[永瀬 里沙]

 「わ、分かった。なんでも来なさい?」



[朝蔵 大空]

 「耳貸して」




 ごにょごにょごにょ。




[永瀬 里沙]

 「え……そんな事が?」




 私は里沙ちゃんに全部話した、昨日怪我を嫉束君に手当てしてもらった事、嫉束君と友達になった事、放課後に嫉束君と連絡先を交換した事。



 それが多分一部のファンクラブの人達にバレてしまった事。




[永瀬 里沙]

 「大空、あんた凄いわね」



[朝蔵 大空]

 「えっ?」



[永瀬 里沙]

 「だって……あの、S氏と……ねぇ?」




 私もあの時は結構勢いで行っちゃった所はあるからな、まあその勢いのせいでちょっと大変な事になってるんだけど……。




[朝蔵 大空]

 「う、うん……あっそうだ」



[永瀬 里沙]

 「何?」



[朝蔵 大空]

 「私、絶体絶命だったんだけど、助けてもらったの」




 私は裏庭で笹妬君と出会った事も話す事にした。




[永瀬 里沙]

 「誰に?」



[朝蔵 大空]

 「えっとね」






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






[二階堂先生]

 「よーしお前ら、午後も頑張ろーなー」




 あっ、タイムオーバーになってしまった。



 まあまた今度話せば良いや。



 話すの忘れてるかもしれないけど。




[二階堂先生]

 「えーっと……朝蔵!」



[朝蔵 大空]

 「はひっ!?」




 うわ、ボーッと授業聞いてて急に名前を呼ばれたから思わず変な声が出てしまった。




[二階堂先生]

 「大丈夫かー?元気出せよ〜」



[朝蔵 大空]

 「はーい……」




 私そんなにへこんで見える?



 普通にしてたつもりなのに、やっぱり誰かしらにバレるもんだな。



 そんなに分かりやすいかな?私……。



 テストの為にも、ちゃんと授業聞かなきゃ。



 もう2年生だし!




[朝蔵 大空]

 「はぁ……恥ずかしい」



[卯月 神]

 「……」




 ハッ……!見られてる!気がする。



 この子は本当になんなんだろう?



 でも私ほんとにこの子の事覚えてないしなぁ……。



 時は過ぎ放課後。




[永瀬 里沙]

 「じゃあねー!今日も部活行って来まーす!」



[朝蔵 大空]

 「うん!頑張って」




 今日も里沙ちゃんはプール目掛けて元気に駆けて行く。




[二階堂先生]

 「おい永瀬走るな!!」




 元気が良いなぁ。




[卯月 神]

 「……」




 教室から出て行こうとする卯月君の姿が見える。




[朝蔵 大空]

 「むっ」




 やっぱり気になる!話しかけてみよう!




[朝蔵 大空]

 「卯月君!」



[卯月 神]

 「……!はい」




 卯月君は私に呼ばれて一瞬戸惑ったがすぐにいつもの無表情に戻る。




[朝蔵 大空]

 「ちょ、ちょっとお時間よろしいでしょーかー?」



[卯月 神]

 「……良いですよ」




 良かった、とりあえず話を聞いてもらえそう。




[朝蔵 大空]

 「えとー……あのー……」




 やばい、何話すか決めてなかった。




[卯月 神]

 「……朝蔵さん?」



[朝蔵 大空]

 「卯月君は……なんで昨日はあんな事したの?」




 私は思い切って1番気になってる事を聞く事にした。



 答えてくれるだろうか?




[卯月 神]

 「……それについては本当にごめんなさい」



[朝蔵 大空]

 「うん、まあ別に良いんだけどさ。意味を聞きたいの!」



[卯月 神]

 「……やっぱり覚えてないんですね」




 えっ、覚えてないんですね……ってやっぱり何か私が忘れてるのかな?




[朝蔵 大空]

 「ご、ごめん……私、記憶力無くて」



[卯月 神]

 「……そう言えば朝蔵さん、もうミギヒロ君には会いましたか?」



[朝蔵 大空]

 「えっ?」




 な、なんで卯月君の口からミギヒロの名前が出てくるの?



 卯月君とミギヒロは知り合いなの??




[朝蔵 大空]

 「あいつの事知ってんの!?」



[卯月 神]

 「ええ、まあ。それで、今はあの人は?」



[朝蔵 大空]

 「ミギヒロは……私の家に居ます」




 もしかして、卯月君はミギヒロと同じ……魔法使い?



 もし本当にそうだったら!




[朝蔵 大空]

 「ねぇ!卯月君も魔法使いだったりする?」




 自分が意味不明な質問をしているのは分かっている。




[卯月 神]

 「は?魔法使い?……あの人がそう言ったんですか?」



[朝蔵 大空]

 「えっ……私はミギヒロは魔法使いだって聞いたけど……」




 私はミギヒロから自分は魔法使いで私に謎の呪いをかけてしまったとあの夜の夢で聞いている。



 ミギヒロはまだ何も教えないと言っているが、卯月君なら何か教えてくれるかもしれない!



 話を聞いているとミギヒロの事を知ってるみたいだし。




[卯月 神]

 「嘘つかれてますね」



[朝蔵 大空]

 「え?」




 嘘?ミギヒロが私に?何を?



 その頃のミギヒロ。




[加藤 右宏]

 「はっ……クショーン!!誰かがオレの噂をしている〜」






 「優しい鬼」おわり……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る