第3話「優しい鬼」前編

 まさかミギヒロも土屋うちの高校に通っていたなんて。



 しかも真昼と同じ高校1年生だなんて。




[朝蔵 真昼]

 「加藤君ここ違う!」



[加藤 右宏]

 「はい……」




 ミギヒロは案の定勉強が出来ないらしい。




[朝蔵 真昼]

 「待って……ここもっ!」



[加藤 右宏]

 「ウッ、いつ終わるの?これ……」




 真昼とミギヒロがリビングで学校の宿題をしている。



 真昼のレクチャーは厳しい。



 真昼は多分私なんかより勉強出来ちゃうんだろうな、学年は私より1個下なのに。




[加藤 右宏]

 「ちくしょー、これじゃアッチと一緒じゃねェか……」




 ん?アッチってご実家の事を言っているのかな?



 魔法使いミギヒロめ、謎だ。



 今はまあ……良いけどいつかは出てってもらわなきゃ。



 

[朝蔵 葵]

 「皆〜お風呂沸いたから入りなさーい」



[朝蔵 真昼]

 「……お姉ちゃん先入って良いよ」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん」




 真昼のお言葉に甘えて今日の一番風呂は私が貰おう。



 と、テレビを消してソファから立ち上がった時。




[加藤 右宏]

 「おれ!おれが先行く!」




 多分ミギヒロは鬼講師の真昼から逃げたいんだろうな。



 仕方ない、譲ってやるか。




[朝蔵 大空]

 「良いよ、先に行きな」



[加藤 右宏]

 「よっしゃー!タスカッタ〜!」




 結局この日のお風呂はミギヒロ、真昼の後に私は入った。



 真昼はきっと早く寝たいだろうから。



 私は別に遅くなっても良い。



 どうせいっつも日付変わるぐらいにならないと眠れないし。




[朝蔵 大空]

 「ふぅ、今日は疲れたっと……あれ?」




 ベッドの布団に何か違和感を覚えた。



 畳んで揃えた布団が崩れている、と言うか。



 誰か寝てる?




[朝蔵 大空]

 「嫌な予感がする」




 先客が居る、と確信した私はそいつから布団をひっぺがす。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ!!」



[加藤 右宏]

 「ぅゎ、ナンダ……」




 布団を剥がすとミギヒロが丸まった姿勢で寝ていた。



 私が声をかけてもウトウトとしている。




[朝蔵 大空]

 「そっか……」




 お父さんの部屋、何もないもんね。



 ソファもベッドも。




[朝蔵 大空]

 「まっ、いっか」




 正直子供にしか見えないし、1個下の子なら真昼と寝てるのと同じようなもんだ。



 ツッコミどころ満載だが、私はそう自分に言い聞かせた。



 私はミギヒロをベッドの端に寄せてその横に私も寝転ぶ。




[朝蔵 大空]

 「おやすみ」




 ……。






 ピヨピヨ……。






[朝蔵 大空]

 「おっ……鳥の鳴き声で起きた」



[加藤 右宏]

 「ぐー……ぐー……」




 起きてすぐ左横を見ると、ミギヒロが一緒に寝ていた。




[朝蔵 大空]

 「うおっと……忘れてた…………」




 そう言えば昨日は諦めてここで寝かせてたんだったな。



 起こすか?




[朝蔵 大空]

 「起きてー」




 私はミギヒロの肩を左手で揺り起こす。




[加藤 右宏]

 「うん…………あれ?え、え、うわーー!!痴女だー!助けてー!痴女に襲われる〜!!」






 ぽこパンっ!!☆






[加藤 右宏]

 「きゅー……」



[朝蔵 大空]

 「まだ寝てな」




 な事を言い出したのでミギヒロにはまだ寝ててもらう事にした。




[朝蔵 大空]

 「あー……」




 私ったら、流されたままで来てたけど。



 やばいよな、この状況。



 なんで身元不明の男の子なんかと一緒に暮らしてるんだろ。



 ここのところ、日常じゃない事が連続で起きてる気がする。




[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ、お前は一体何者なんだ?」




 そう問い掛けてもミギヒロは返事をしなかった。



 なんせ気絶してるからな。



 私がポコしたから。




[朝蔵 大空]

 「外さないんだ……」




 ミギヒロは初めて会った時から顔に着けてる白ゴーグルを外さない。



 だからまともに顔を見た事が無い。



 もしかして正体を隠してる?




[朝蔵 大空]

 「はぁ……私は起きるかっ」




 昨日の疲れはまだあんまりよく取れていないが、今日も学校がある。



 本日も頑張っていきましょー!




[朝蔵 大空]

 「おはよー」



[永瀬 里沙]

 「おはよっ……なんか疲れてる?」



[朝蔵 大空]

 「よく分かったね、実は……」




 私は里沙ちゃんに昨日のミギヒロの事を素直に話した。



 まあ昨日一緒のベッドで寝てた事はさすがに話さないが。




[永瀬 里沙]

 「えー!?居候ですって?!」



[朝蔵 大空]

 「そう、なんか色々起きてて……」



[永瀬 里沙]

 「で、その子クラスどこ!?」




 里沙ちゃんが目を輝かせた。




[朝蔵 大空]

 「多分、真昼と一緒かな」



[永瀬 里沙]

 「見に行きたいんですけど!!」



[朝蔵 大空]

 「じゃあ今から行こっか」




 私達はミギヒロに会いに行こうと廊下に出る。




[朝蔵 大空]

 「そんなに見たかったの?」



[永瀬 里沙]

 「だって気になるじゃ〜ん」




 里沙ちゃん、私のお母さんと同じでイケメンに目が無いもんな〜!




[1の2担任]

 「宿題出してないの、加藤君だけですよ!」



[加藤 右宏]

 「えー?オレだけ〜?!」




 真昼達の教室を覗くと、ミギヒロは担任の先生に怒られていた。




[永瀬 里沙]

 「あ……アホの子なのね」




 あいつ、あれから結局宿題終わらせてなかったんだ……。



 それ知ってたら夜起こしてたのに。



 真昼も知らんぷりしてるし。



 なんかちょっと面白い。




[永瀬 里沙]

 「てか……あのゴーグル何?」



[朝蔵 大空]

 「分かんない、なんかずっと着けてるんだよね」




 ミギヒロは学校に来てもあの白ゴーグルをしていた。



 うちの高校そう言う服装とかあんま厳しくないけどあんなの着けてるのはさすがにミギヒロだけだろ。



 だから1年生の中でも凄く目立つ。




[永瀬 里沙]

 「あーもぉーこれじゃあ顔ちゃんと見れないじゃん!!!」






 ざわざわ、ざわざわ……。






 里沙ちゃんが大声を出すと教室内の人間が一斉にざわつき始めた。



 皆が私達を怯えた様子で見ている。



 恥ずかしい、ここから逃げ出したい。




[朝蔵 大空]

 「帰ろっ……?」



[永瀬 里沙]

 「ねぇ今度あの子の素顔撮ってきてよ!」



[朝蔵 大空]

 「え?うーん出来たらね?」



[永瀬 里沙]

 「期待してるからー!」




 そして朝のホームルームの時が来た。




[二階堂先生]

 「部活案内のポスターが出来たみたいだから配るぞ〜」




 私の所にも各部活の勧誘ポスターが届いた。




[永瀬 里沙]

 「私要らないんだけど」




 里沙ちゃんは既に水泳部に入ってるから要らないのだろう。



 まあ先生達も一応全員に配るって言う義務があるんだろうな。




[二階堂先生]

 「おい、くれぐれも学校で紙捨てるなよー?」



[永瀬 里沙]

 「そんな事しないし!」




 所々で笑い声が聞こえた。




[朝蔵 大空]

 「うーん……」




 私も要らないかなー、どうせ入る気無いし。



 私はふと右横に意識が行く。




[卯月 神]

 「……」




 話しかけてみようかな?



 昨日からなんも話してないけど、このままじゃダメだと思うし。



 どうせなら少しは仲良くなりたいしね!




[朝蔵 大空]

 「……卯月君は」



[卯月 神]

 「……!」




 ああ今明らかに動揺したな。



 冷静を装ってるけど。



 でも仕方無い、だってずっと気不味いのは私が嫌!!




[朝蔵 大空]

 「あっごめんね……部活入るのかなーって」



[卯月 神]

 「朝蔵さんはどこですか?」



[朝蔵 大空]

 「私は部活入ってないけど」



[卯月 神]

 「……じゃあ僕も入らない」




 私は卯月君に目を逸らされた。




[朝蔵 大空]

 「あっ、そう……」




 なんなのそれ、私が部活入ってなかったら自分も入らないって……不思議。



 せっかく仲良くなろうと思ったのに、相変わらず冷たいし、意味分かんない。



 私は配られたポスターをパラパラと1枚1枚見る。




[朝蔵 大空]

 「おっ」



 私の目に止まったのは、『写真部』のポスターだった。



 ここ良いかも、楽そうだし。



 あ、でもカメラとか高いのかなぁ?



 お母さんにお願いしなきゃ。




[永瀬 里沙]

 「てか思い出したんだけどさ」




 前の席の里沙ちゃんがこちらに振り返ってきた。




[朝蔵 大空]

 「うわっ!」



[永瀬 里沙]

 「何?ごめん」




 考え事してる時にいきなり話しかけられると心臓が止まりそうになる。




[永瀬 里沙]

 「1年の……東中ひがしちゅう原地はらちって子、知ってる?」




 原地?知らない。




[朝蔵 大空]

 「ううん?」



[永瀬 里沙]

 「そっかぁ」




 あっさり里沙ちゃんは前を向き直した。




[朝蔵 大空]

 「……?」




 そして時が経って昼休み。




[永瀬 里沙]

 「大空〜、食堂行こー」



[朝蔵 大空]

 「うんー」






 ざわざわ……ざわざわ…………。






 突然入口付近が騒がしくなった。




[SFC会員A]

 「ここね」



[SFC会員B]

 「例の子はどれなの?」




 なんだか派手な女の子達が教室の出入口で溜まっている。



 誰かを探しているようだ。




[SFC会員A]

 「いた」




 全員が私の方を見る。




[SFC会員A]

 「貴女ね、ちょっと着いて来てもらうわよ」



[朝蔵 大空]

 「な、なんの御用で……?」



[SFC会員B]

 「良いから着いて来て!」




 やだ、なんかこの人達怒ってる?



 言う事聞かないと不味そう……。




[朝蔵 大空]

 「わ、分かりました」




 そう言って私は席から立ち上がる。




[永瀬 里沙]

 「ちょっと、辞めた方が良いよ」




 里沙ちゃんに肩を掴まれ、引き止められた。



 心配になるのも当たり前だと思う。




[朝蔵 大空]

 「大丈夫だよ、行って来るね」



[SFC会員A]

 「来て」



[朝蔵 大空]

 「はい……」




 連れて来られたのは人が寄り付かない裏庭だった。




[SFC会員A]

 「ごめんなさいね急に来てもらっちゃって」



[朝蔵 大空]

 「いえ、大丈夫です」




 良かった、思ったより優しそう……。




[SFC会員B]

 「これ、どう言う事?」



[朝蔵 大空]

 「え?」




 見せられたのはケータイの画面、そこには……。



 嫉束君……?と、私?!!



 写っていたのは昇降口で私と嫉束君が話している場面だった、しかも動画で。




[朝蔵 大空]

 「これ……どう言う事ですか?」




 こんなの盗撮じゃん!!




[SFC会員A]

 「こっちのセリフよ!嫉束君と2人きりで話すなんて、あんた何様よ!」



[SFC会員B]

 「しかも会員にすら入ってないあんたが!!」




 そんな、まさか見られてたなんて、撮られていたなんて、全然気付かなかった……。




[SFC会員A]

 「しかも貴女、嫉束君と連絡先交換したんじゃない?」






 ドキッ。






 それもバレてる……。




[SFC会員B]

 「一体どんな汚い手を使ったら嫉束君とそんな事出来るのよ!?」



[SFC会員A]

 「見て、この子が嫉束君のケータイを勝手に奪ってるのよ」



[SFC会員B]

 「……ほんとじゃん!」




 え、なんでそうなるの??




[朝蔵 大空]

 「いや誤解です……」



[SFC会員A]

 「嘘つくのは辞めなさいよ」



[SFC会員B]

 「これが何よりの証拠じゃない!」




 確かに嫉束君と連絡先を交換する時、半分私が勝手にした事だけど。



 周りから見れば確かにそう言う風に見えるのかもしれない。



 もうここまで来たらどんな言い分も聞いてもらえなさそう。




[朝蔵 大空]

 「……」




 私の目から涙が流れた。




[SFC会員A]

 「何?泣けば済むと思ってんの!?こんな事しておいて、あんたどれだけの人を敵に回したと思ってんだよ!!」




 あーあ、なんで調子乗っちゃったんだろ、こうなるんだろうなとは分かってたのに。




[朝蔵 大空]

 「ちっ、違うっ……違うの」



[SFC会員B]

 「嫉束君に近付かないでよ!」



[SFC会員A]

 「学校来んな!」




 誰か!誰か助けて!!




[SFC会員A]

 「あ、あれ」



[SFC会員B]

 「やっば、鬼が来た……」




 突然、女の子達が見る対象が私から違うものに変わった。




[SFC会員A]

 「逃げよっ」



[SFC会員B]

 「うん……」




 女の子達は走って裏庭から消えて行った。




[朝蔵 大空]

 「あれ?」



[???]

 「……?おい、大丈夫か?」




 静まる裏庭に、背後から男の声が聞こえてビクッとなった。






 つづく……。

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