第2話「保健室の王子様」後編

[朝蔵 大空]

 「うーん……やっぱり何か忘れてるような?」




 私は朝目を覚ましてから何か大事な事を忘れている。


 

 急いで教室に戻ったのに、まだ授業は始まっていなくて、先生も来ていないようだった。



 ラッキー☆



 これで怒られずに済むね。




[朝蔵 大空]

 「あ……」




 座ろうとした席の隣に卯月君の姿が目に入る。




[卯月 神]

 「……」




 忘れてたぁ。






 ガラッ。






[二階堂先生]

 「すまん遅れた」




 私が席に着くのと同時に先生が教室に入ってきて授業開始。




[朝蔵 大空]

 「ウズウズ……」




 隣に居る人のせいで凄く落ち着かない。



 卯月君も思ったより普通にしてるし……?



 さっきのは本当になんだったの?



 もしかして、いつまでも意識してるの自分だけ??



 話しかけようにも私には勇気が無くて。



 私は午後の授業中ずっと授業に集中出来なかった。




[永瀬 里沙]

 「足大丈夫だった?」



[朝蔵 大空]

 「うん!」




 今は放課後の教室。



 私は右隣を見ないようにしていた、そしたら卯月君はいつの間にか消えていた。



 帰ったのかな?




[永瀬 里沙]

 「てかさ、さっき遅かったねー」



[朝蔵 大空]

 「そ、そうかな?」




 遅れた理由はさっきまで嫉束君と話していたからだが、それは里沙ちゃんには言わない。




[永瀬 里沙]

 「うん。あとさっ、あの話はどうなったの?」




 里沙ちゃんは周りを気にして小声になる。




[朝蔵 大空]

 「何?」



[永瀬 里沙]

 「ほら、例の卯月君の事」



[朝蔵 大空]

 「あー……抱き締められた事か」



[永瀬 里沙]

 「ええっ!!?」



[朝蔵 大空]

 「あっ」




 しまった、ついポロッと…。




[永瀬 里沙]

 「どう言う意味で?!」




 さぁ?どう言う意味なんでしょうか。




[朝蔵 大空]

 「声大きい……」



[永瀬 里沙]

 「あ、ごめん……」




 まあ驚かれても仕方ないのは分かっているが。




[永瀬 里沙]

 「なんかさ、おかしいと思ったのよね」



[朝蔵 大空]

 「何が?」



[永瀬 里沙]

 「いやさ、あの子最初から大空の名前知ってたじゃん?」



[朝蔵 大空]

 「えっ」






 "朝蔵さん"







[朝蔵 大空]

 「うわっ、ほんとだ」




 確かに私は覚えている。



 だけどどうしてあの子が教えてもない私の名前を呼べる?



 初対面のはずなのに。



 おかしい。




[永瀬 里沙]

 「ねぇ、昔どっかで会った事あるとかじゃ……」



[朝蔵 大空]

 「そんなはずは……」




 そう言えば……誰かもうひとり私の名前を呼んでいたような……。




[永瀬 里沙]

 「あっ!!」




 里沙ちゃんは急に何か思い出したようで。




[朝蔵 大空]

 「うわ!?何!」




 私は取り乱した里沙ちゃんに取り乱した。




[永瀬 里沙]

 「やべっ、今日部活あるんだった……じゃあね!」




 私が返事をする前に里沙ちゃんは凄い勢いで教室から出て行ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「部活か」




 去年もそうだが、私は部活には入っておらず放課後は基本暇だ。



 興味も無いし。



 きつい運動を長時間やるよりは家でゴロゴロしてたいし。



 圧倒的インドア。




[朝蔵 大空]

 「帰ろっと」




 誰も居なくなった教室でひとりで居るのは辛いので、私はもう家に帰ろうと昇降口まで向かった。



 ん?うちのクラスの下駄箱の近くに誰か居る……?



 あれは……。




[嫉束 界魔]

 「あっ、大空ちゃん!」




 なんで??




[朝蔵 大空]

 「えっ」




 また嫉束君が……。




[嫉束 界魔]

 「大空ちゃんっ」




 嫉束君は私を見つけた瞬間、弾んだ様子で私に近寄って来た。



 もしかしてこの人、私を待ってた?



 どうして?




[朝蔵 大空]

 「……どうしたの?」



[嫉束 界魔]

 「あの、大空ちゃん今から帰るところ?」



[朝蔵 大空]

 「うん、帰るよ?」



[嫉束 界魔]

 「だよね」




 あれ?嫉束君は確かテニス部だったよね?



 なんでこんな所に居るんだろ。




[朝蔵 大空]

 「部活は……?」




 早く行かないと部活遅れちゃうんじゃない?



 きっと今頃女の子達大騒ぎだろうな。



 なんせ嫉束君は人気者だから。




[嫉束 界魔]

 「部活?ああ、僕もうテニス辞めたんだ」



[朝蔵 大空]

 「えっ、なんで?」




 いつの間に!?私全然知らなかった……。



 あっ、でも里沙ちゃんがなんか言ってたような気がしなくもない。



 最近記憶が曖昧で困る。




[嫉束 界魔]

 「なんか、居辛くなっちゃってさ。大空ちゃんは?」




 居辛くなった?



 むしろ持てはやされてるだろうに。



 もしくはそれが嫌なのか?



 モテる人も辛いな。




[朝蔵 大空]

 「私?私は特にやりたい事無くて」




 部活に入ったら人間関係とか色々面倒臭そうで私は入る気にはならない。



 うちの高校、部活は強制じゃないし放課後は個人的にゆっくりしたい。




[嫉束 界魔]

 「さっ、これからどうしよっか?」




 嫉束君が私にニコッと笑いかける。




[朝蔵 大空]

 「えっ?どうしよっかって、何を?」



[嫉束 界魔]

 「あの!僕、早速大空ちゃんと友達らしい事したいなって!だから手始めに2人でどっか行きたいなーって?」




 行きたいなーっと言われても、そんな事をしたらどっかで学校の人達に偶然見られるかもしれないのに……。




[朝蔵 大空]

 「……」




 危険だ。




[嫉束 界魔]

 「あっ、もしかしてこの後用事あったかな?」



[朝蔵 大空]

 「な、無いけど」




 これはいきなりハードル高くないか?



 皆の憧れ、嫉束界魔君と放課後出かける……なんて。



 私にはもったいなさすぎて!



 てかやっぱり誰かに見られたらどうしよー!?って言う気持ちが強すぎて。




[嫉束 界魔]

 「……僕、あれからずっと考えてたんだけど。やっぱり、友達……迷惑だったかな?ごめんね」



[朝蔵 大空]

 「迷惑だなんて……」




 ああ、私がいつまでもウジウジしてたから嫉束君に悲しい想いをさせてしまった。



 せめて会話は続けないと……。




[嫉束 界魔]

 「うん……」



[朝蔵 大空]

 「こ、今度なら……!」



[嫉束 界魔]

 「今度っていつ?」




 不味い、何か代わりになるような事無いかな?!




[朝蔵 大空]

 「あっ、あの……さ!よかったら、はい!」



[嫉束 界魔]

 「え?」




 私はポケットからケータイを出した。




[朝蔵 大空]

 「嫉束君もケータイ出して!」



[嫉束 界魔]

 「あ……う、うん!」




 嫉束君もカバンの中からケータイを取り出した。



 私はそれを一旦預からせてもらう事にした。




[嫉束 界魔]

 「あっ、何するの?」



[朝蔵 大空]

 「ちょっと待っててね……はい、これでいつでも連絡して!」




 私は勢いで嫉束君とケータイの連絡先を交換してしまった。




[嫉束 界魔]

 「……メールか」



[朝蔵 大空]

 「よろしくね?」



[嫉束 界魔]

 「うん……!ありがとう」




 嫉束君が笑顔を取り戻す。



 よかった。




[朝蔵 大空]

 「えへへ。じゃ、そろそろ帰るね。また」



[嫉束 界魔]

 「……うん!」




 私は昇降口に嫉束君を置いて家路に走り出した。




[朝蔵 大空]

 「ただいまー」



[???]

 「おかえリ」



[朝蔵 大空]

 「ビクッ……」




 誰?知らない人の声……。



 いや違う、知ってる。



 でもお母さんでも真昼でもない声。



 真昼は私に"おかえり"なんて言ってくれないが……。




[朝蔵 葵]

 「あらおかえりー大空。あっ、この子はね加藤かとう右宏みぎひろ君って言うの。真昼のお友達なんですって!」




 みぎひろ。



 聞き覚えのある名前の響きだった。



 絶対聞いた事ある。




[朝蔵 大空]

 「あぁ……は、はあ?」



[加藤 右宏]

 「初めマシテ!」




 紹介された加藤右宏はブロンドの髪に顔にはゴーグルを付けている小柄の男の子だった。




[朝蔵 大空]

 「は、初めてまして」



[朝蔵 葵]

 「変なゴーグル付けてるけど可愛い子でしょ?ママすっかり気に入っちゃった♪真昼と友達になってくれてありがとねー」



[加藤 右宏]

 「ハイ!」



[朝蔵 葵]

 「真昼ももう少ししたら塾から帰って来ると思うから〜」



[加藤 右宏]

 「分かりましターン!」




 そう言ってお母さんはカバンを持って買い物に出かけて行った。



 そして家には私と、謎の加藤右宏と言う少年だけが取り残された。




[朝蔵 大空]

 「……」




 私は警戒していた、だって真昼に友達なんて本当に珍しいものだったから。



 今日友達になったばかりなのかな?




[加藤 右宏]

 「ニヤリ」



[朝蔵 大空]

 「……!!」



[加藤 右宏]

 「アサクラソラ」



[朝蔵 大空]

 「あっ」




 私は思い出した、朝見た夢の事を。




[朝蔵 大空]

 「あんた……あんたね!」




 私は目の前の少年に掴みかかる勢いで迫った。




[加藤 右宏]

 「うわなんだ?!いきなり敵意ムキダシか!!?」



[朝蔵 大空]

 「ねぇ!朝私の夢に出てきた子だよね!?そうだよね!?」




 こいつ、現実でも出てきやがった。




[加藤 右宏]

 「マーマー落ち着けって……!」



[朝蔵 大空]

 「……魔法使いさん?」




 私は心を落ち着けて聞く。




[加藤 右宏]

 「ふっふっふっ……」



[朝蔵 大空]

 「うわ」




 いきなり笑いだした、気持ち悪っ!!




[加藤 右宏]

 「そうともサ!オレがミギヒロ!なのダ!!」



[朝蔵 大空]

 「あー……」




 この子ちょっと頭がおかしい子だ。



 まあ初めて会った時から思ってたけど。




[朝蔵 大空]

 「ねぇ、呪いって結局なんなの?」



[加藤 右宏]

 「それはマダ教えられないナー」



[朝蔵 大空]

 「えっ!?今教えてよ!!」



[加藤 右宏]

 「マァ!立ち話もなんだし座ろうぜ!」




 ミギヒロ君がリビングの方のドアを見る。




[朝蔵 大空]

 「それは良いけどちゃんと話して!」



[加藤 右宏]

 「わー、興奮しちゃっテ〜」



[朝蔵 大空]

 「ムカッ……」




 どうしよう、この野郎。



 出来る事なら今すぐに家から追い出してやりたい。



 でも本当に真昼の友達ならそんな事出来ないし。



 真昼に嫌われちゃう……。




[加藤 右宏]

 「それにしても……良い家だな」



[朝蔵 大空]

 「は?」



[加藤 右宏]

 「キメタ!ここをオレ様の拠点とする!!」



[朝蔵 大空]

 「は、拠点って?」




 言っている意味がよく分からないんですけど。




[加藤 右宏]

 「ちょっとお邪魔するゾ〜!」




 そう言ってミギヒロ君はうちの階段を駆け上がる。




[朝蔵 大空]

 「あ、ちょ」






 ガチャ。






[朝蔵 大空]

 「あっ!」




 この音は、どこかのドアが開けられた。




[加藤 右宏]

 「おっ、ここナンダ〜?」



[朝蔵 大空]

 「そこはお兄ちゃんの部屋ー!!」






 ガチャ。






[加藤 右宏]

 「ココは〜?」



[朝蔵 大空]

 「そこは真昼の部屋ー!!」




 こいつ、人んのドアをどんどん勝手に開けていきやがる。



 凄いな、逆に。



 躾が相当なっていないらしい。



 でも我慢、我慢しなくちゃ。






 ガチャ。






[加藤 右宏]

 「ジャここは〜?」



[朝蔵 大空]

 「そこは私の部屋だー!!!」



[加藤 右宏]

 「おっとっと……」




 タックルしようとしたら普通にかわされた。



 私の部屋だけは頼むから開けないでほしかった。



 いや大人しく見てただけの私も悪いんだろうけど。



 私は自分で自分の部屋のドアを守る。






 ガチャ。






 こうしている間にもまた奴はドアを開けていく。




[加藤 右宏]

 「なんだここ空っぽジャナイカ」



[朝蔵 大空]

 「そこは……お父さんの部屋だった」



[加藤 右宏]

 「いないのか?」




 私のお父さん、朝蔵あさひは街の方で現在別居していて、家には居ない。



 最後にお父さんを見たのはいつだったか。



 幼い頃の記憶すぎて姿すらあんまり覚えていない。




[朝蔵 大空]

 「うん」



[加藤 右宏]

 「ほー、よし!ココで寝泊まりさせてもらうゾ〜!」




 寝泊まりさせてもらうゾ〜とか言ってるけどこの子にも家があるだろうに……無いのか?




[朝蔵 大空]

 「……貴方、家は?」



[加藤 右宏]

 「無い……」



[朝蔵 大空]

 「えっ!!」



[加藤 右宏]

 「実はオレ、こわーい親父の所から逃げて来たの〜、つまり家出!ってコト!だからお願い?」




 ミギヒロの瞳はうるうるうる、していた。




[朝蔵 大空]

 「そんなの、私が決められないよ……」




 見ず知らずの人が自宅に住んでるなんて落ち着かないし。



 きっとお母さんがダメって言ってくれるよね?




[朝蔵 真昼]

 「な、なに」



[加藤 右宏]

 「むふふ」



[朝蔵 葵]

 「今日からこの子、うちに住むのよ?」




 あれから、あっさりとお母さんの許可は下りてしまった。



 あとは真昼だけ。



 私も家が無いと言うのは可哀想だとは思うので皆の意見に合わせる事にしました。




[朝蔵 真昼]

 「加藤君が……うちに住むの?」



[朝蔵 大空]

 「そう」



[朝蔵 葵]

 「そうよ」



[朝蔵 真昼]

 「……君が?」



[加藤 右宏]

 「そうだぜ」



[朝蔵 真昼]

 「僕はどうなっても知らないから」



[朝蔵 大空]

 「それは良いって事?」



[朝蔵 真昼]

 「うん」




 ああ、うちの家族は赤の他人が自分に居てもそんなに気にしないみたい。



 だから私も気にしない事にした。




[加藤 右宏]

 「やったぜ!今日からよろしくお願いしまーす!!」



[朝蔵 大空]

 「ん?てかミギヒロ、あんたその制服……」



[加藤 右宏]

 「お?」






 「保健室の王子様」おわり……。

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