第9話 マジパンワールド
竹藪から真っ白な空間へと入り込んでしまった駿助達は、遠くから叫び声が聞こえてきたため、急遽声のする方へと駆け出すのでした。
「た、た、助けてくれー!!!」
緩やかな丘のような地形を超えると、真っ白で雪だるまが点在する中を村人が3体の動く雪だるまから逃げ回っていました。
「ガパパパパ、早く逃げないと捕まっちまうマジぃ」
大きなパンダが高笑いしながら楽しそうに村人へと声を掛けます。その大きなパンダは、ゆるキャラみたいな風体で、少し先の丘の上にパンダ座りをして、村人が逃げる様子を楽しそうに見下ろしています。
「たいへん! 村人が魔物に追われているわ!」
「助けるっす!!」
雪だるまに追いかけ回される村人を見て、ナノリアとアキラが叫びます。
「勇者ボディ、オン!!」
「「バトルボディ、オン!!」」
駿助に続き、ナノリアとアキラが走りながら叫び、一瞬のうちに変身しました。今は緊急事態のためでしょう、変身ポーズはありません。
「とう!!」
変身姿の駿助が大きくジャンプし、空中で一回転して村人と動く雪だるまの間に割って入りました。
「正義の味方、ラビットマン参上!!」
シャキーン!
「雪だるま達、覚悟なさい!」
シャキーン!
駿助こと、ラビットマンがポーズを決めると、いつの間にやらついて来ていたナノリアが、うさ耳付の真っ赤な衣装で決めポーズを取りました。
「ガパパパパ、新たな獲物が入って来たマジぃ。ようこそ、マジパンワールドへだマジぃ。吾輩が、マジパンワールドの主、マージ・パンダー様だマジぃ」
ラビットマン達の出現に、大きなパンダが嬉しそうに高笑いしてマージ・パンダーと名乗りを上げました。
「マジパンワールド? このおかしな空間のことか?」
「マジパンって、お菓子の一種よね。たしか、何かの粉と砂糖を練ったお菓子じゃなかったかしら。変な世界ね」
ラビットマンとナノリアが、マージ・パンダーの言葉を拾って、この不思議空間のことを呑気に話してます。
「ガパパパパ、マジパン・ダルマ達、そいつらを捕まえて、マジパンワールドのオブジェにするマジぃ!」
マージ・パンダーが命令すると、村人を追いかけていた雪だるま達がにょきっと腕を伸ばしてラビットマンへと襲いかかりました。雪だるまはマジパン・ダルマと呼ばれているようです。
「てやっ! ていっ!!」
「がんばれ、ラビットマーン!」
ラビットマンが、両手に警棒を持って迫りくるマジパン・ダルマの腕をバシバシと叩いて砕いて寄せ付けません。ナノリアは、ラビットマンの後ろをふわふわと飛び回りながら呑気に応援しています。
「大丈夫っすか?」
「ひぃぃ、た、た、助けてくれぇぇ」
ラビットマンがマジパン・ダルマを引き付けている間に、青いコスチュームのアキラが村人へ近寄り、無事を確認していました。
「ガパパパパ、なかなかやるマジぃ。マジパン・ダルマの数を増やすマジぃ」
マージ・パンダーが、高笑いしながら腕をくるくる回すと、ラビットマン達の近くにあった雪だるまが、その目をキラリ光らせて動き出しました。
「気を付けて! 周りの雪だるま達が動き出したわよ!」
「うわ、めんどくさ!」
ナノリアの忠告に、ラビットマンは、マジパン・ダルマの頭を叩き割りながら叫びます。頭を叩き割られた雪だるまは動きを止めてドサリと崩れてしまいました。
「ひぃぃ、もうダメだぁぁぁ」
「おもしろくなってきたっす!」
村人が頭を抱えて蹲る側で、アキラはニヤリと口角を上げてテンションを上げながら、近づく雪だるま達を次々と槍で倒してゆきます。
ラビットマンが、掴みにかかってくる雪だるまの腕を警棒でバシバシと叩き落しながら隙をみて頭を潰して1体1体丁寧に倒していく一方で、アキラは豪快な槍捌きで次々と雪だるまを倒しまくってゆきます。
「ガパ? なかなか面倒な奴らマジぃ……。ならば、喰らうがいい、甘い息マジぃぃぃぃ!!!!」
マージ・パンダーは、ちょっと焦った表情をしたかと思うと、ゆるキャラみたいな大きな口をパカッと開けて、ガハーっと、大きく息を吐き出しました。
「なんだ? なんか甘い香りがする?」
「この匂い、砂糖を煮詰めた感じかしら?」
マージ・パンダーが吐き出した甘い息が広がり、ラビットマン達へと届くと、ラビットマンとナノリアが顔を顰めて匂いについて呟きました。
「ガパパパパ、吾輩の甘い息には強い催眠作用があるマジぃ、お前達は、眠りに落ちて吾輩の操り人形となるマジぃ」
「なんだって!?」
甘い息を吐き終えたマージ・パンダーが、ドヤ顔で高笑いしながら、甘い息の効果について自慢げに話すと、それを聞いたラビットマンは驚きの声を上げました。
「どうやら、あのパンダが村人達へ甘い息を吹きかけて、竹藪の方へ誘導していたようね」
「ガパパパパ、パンダじゃなくてマージ・パンダー様だマジぃ。村には風に乗せて甘い息を流したマジぃ。マジパンワールドの外だから効き目は薄かったけど、何人かはマジパン・ワールドへ誘導出来たマジぃ。これからもどんどん人間共を誘導するマジぃ」
ナノリアの推測を捕捉するように、マージ・パンダーが甘い息で村人をマジパンワールドへと誘導していた手口を嬉々として語りました。
「ふわぁぁ、おら、なんだか眠くなってきただぁぁ……」
「だ、大丈夫っすか!?」
そして、マジパン・ダルマに追われて怯えていた村人が、急に眠気に誘われ、アキラが声を掛けましたが、村人はそのまま倒れるようにして眠ってしまいました。
「ガパパパパ、さっそく1人、眠りに落ちたマジぃ。お前達が眠りに落ちるのも時間の問題マジぃ」
「く、くそう、このままではみんな眠ってしまう。どうしたらいいんだ……」
村人が眠ったようすを見て、マージ・パンダーが愉快そうに高笑いする中、ラビットマンは焦りを募らせるのでした。
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