第7話 村の外の竹藪で

 駿助達がやってきたタケコ村では、熱を出して風邪かと思いきや、ふらふらと無意識で歩き回るという、良く分からない症状が現れる病気が流行っていました。


 そして、仲間のレイモンがこの病に罹ってしまい、昼間からフラフラと歩き出してしまいました。すぐに捕まえて揺すって起こすことも出来ますが、駿助達はレイモンの行動を観察することにしました。


 レイモンは、無意識のうちにいったいどのような行動をとるのでしょうか。ナノリアをはじめ、医師のギルバートが興味を持っているところです。


「ほうほう、無意識でもちゃんとドアを開け閉めするっすね」


 レイモンが、臨時病院としている村の集会所の入口ドアを開けて外へでた後、きちんとドアを閉めたことに、アキラが感心しています。


 レイモンは、村の集会所を出た後、村の中をゆっくりふらふらと歩いて行きます。ナノリアがレイモンの頭に乗っかっていますが、レイモンは全く気付いていないようすです。


 レイモンの後を駿助とアキラ、そしてギルバートに指示を受けたマリエルがついて歩きます。


「マリエルさんは、看護師の仕事をしていた方が良かったんじゃないですか?」

「まぁ、入院患者達は徘徊することを除けば、特に面倒な症状がないからね。村の者達が交代で見ていてくれるから問題ないよ」


「そうですか」

「ギルバートは、患者達がふらふらとしてしまう理由が分かれば、もしかすると病の原因もしくは治療法が分かるかもしれないと考えているのさ。だから、私に一緒に確認するように指示してきたんだよ」


 駿助の問いに答える形で、マリエルは、駿助達と一緒に来た理由を話してくれました。


 レイモンは、ふらふらと村の中を北側へ向けて歩いて行き、畑を抜けて林の中へと入って行きました。


「ここは、もう村の外じゃないのかい?」

「そうっすね。村の地図を見たかぎりだと、北側に林があったはずっす」


 マリエルの問いかけをアキラが肯定しました。アキラは宿に貼ってあった村の地図をしっかり記憶していたようです。


 林を抜けた先には竹藪が見えました。そして、そこには村人達が3人いるのが見えました。


「村を出たにしては、人が集まってるっすね」

「う~ん、行方不明者捜索中の人達じゃないかな?」


 アキラの問いに、駿助が推察を述べます。

 レイモンは、ゆっくりですが竹藪の方へと近づいて行くので、おのずと村人達との距離が縮まってゆきます。


「看護師のマリエルさんだべ」

「こんなところへどうしただ?」

「危ねぇから、村の方さ戻った方がええだよ」


 駿助達が近付いて行くと、竹藪と草地の境界にいた村人たちは、マリエルへと声を掛けてきました。


「何かあったのかい?」


 マリエルは、レイモンよりも前へ出て、落ち着いた様子で村人達に尋ねました。


「この竹藪でタゴサクが神隠しにあっただ。だども、村長は信じておらんだべ」

「んで、村長の息子が村の者さ連れて確かめると言って竹藪に入って行っただ」

「危ねぇから止めろって言っただが、村長の命令だ言うて……」


 マリエルの問いに、村人達はそれぞれの話を繋ぐように話してくれました。よく見れば、彼らは村長の家へと慌ただしく飛び込んできた人達です。


 この人達は、神隠しが起きたのだと信じているようで、竹藪の中に入るのを恐れているようすです。村長の息子たちが竹藪から無事に出て来ることを祈ると同時に神様の怒りを買わないかとやきもきしているようです。


「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」


 そこへ、突然、竹藪の奥から叫び声が聞こえてきました。

 駿助達が声の方へと視線を向けると、村人が数人、大慌てで逃げて来るのが見えました。


「助けてくれぇぇぇーーー!!」

「神様がお怒りになられたぁぁぁーー!!」

「みんな、逃げるだよぉぉ!!」


 血相を変えて逃げて来た村人達は、駿助達にも逃げるように叫びながら村へと一直線に駆けてゆきました。駿助達と話していた村人達も怖くなったのでしょう、逃げて行く村人達を追いかけるように村へと駆け出しました。


「待て! 待ってくれ、みんなー!!」


 最後に少し遅れて村長の息子が息を切らせて竹藪の奥から逃げて来ると、駿助達の前で立ち止まりました。


「いったい何があったんだい?」

「ああ、マリエルさん、行方不明の村人を探していたら、目の前で仲間が消えてしまったんだ。そうしたら、みんな逃げ出してしまって……」


「目の前で消えたって?」

「信じられないかもしれないが、本当に消えたんだ。君達も村へ避難した方がいい」


 マリエルが問いかけると、村長の息子が息を切らせながらも、今しがた竹藪の中で起きたことを話してくれました。


「消えた村人はどうするんだい? 放っておくのかい?」

「わ、私1人ではどうしようもない。まずは、村長に報告してからだ。すまないが私はこれで失礼するよ」


 マリエルが、消えた村人への対応について尋ねると、村長の息子は、急に焦り出して、村長に相談すると言って、そそくさと村へと駆けて行きました。


「やれやれ、私らも村へ帰った方が良さそうだね」


 マリエルが、村へ駆けて行く村長の息子の背中を見ながら溜息を1つ吐いて、そう言いました。


「そうっすねぇ。マリエル殿、レイモンを村へ連れ帰ってもらっていいっすか?」

「えっ?」


 アキラの返答に、マリエルは驚きの声を漏らしました。彼女にしてみれば、目の前で起きた不測の事態に一度撤退するのが当然だと思っていたのでしょう。


「自分達は、この先を調べてみるっす」

「うん、何か秘密がありそうだ」


 アキラ、駿助の2人ともやる気満々のようです。


「病に罹ってふらふらと無意識のうちに向かった先がこの竹藪ね。そして、その竹藪で、村人が神隠しにあったわ。うふふっ、これは、もう偶然とは思えないわよ。怪しさ満点、2つの事件の謎を解き明かすわよ!」


 最後にナノリアが、探偵の推理がごとく、どこか楽し気に言い放つのでした。

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