第6話 どうなるのかな?

 駿助とナノリアは、村長宅で用事を済ませたあと、再び村の集会所へとやって来ました。集会所は、臨時の病院として患者を入院させています。レイモンも熱が出てしまい、ここに入院することになったのです。


「レイモンの様子はどうですか?」

「先ほど眠ったところっす。相部屋で落ち着かない様子だったっすけど、やっぱり体がしんどかったみたいっすね」


 駿助が、集会所へ入ったところで休憩していたアキラを見つけて話しかけると、アキラはレイモンの様子を教えてくれました。

 そこへ、マリエルが診察室から出て来ました。


「あ、マリエルさん、聞き込みの結果はどうだったっすか?」

「おう、それがな、熱を出した患者達は、ほぼ全員が熱を出す前日に甘い香りがしたと証言したよ」


 アキラが声を掛けると、マリエルが聞き込みの結果を教えてくれました。

 看護師であるマリエルは、医師のギルバートからの指示で、患者達に聞き込みをしていました。その結果、村で熱を出した患者達は、レイモンと同じように甘い香りを嗅いでいたことが分かったようです。


「ほぼ全員っすか。偶然とは思えないっすね」

「私もそう思うよ。だけどな、その甘い香りが何なのかっていうのがさっぱり分からない。ギルバートも首を傾げていたよ」


 しかし、患者の共通点である甘い香りとは何なのかが分からないため、原因解明とはいかず、治療法を探るにしても手も足も出ないといったようすです。


「ねぇ、ふらふらと歩き出した患者って、放っておいたらどうなるの?」

「どうって言われると……、躓いたりして危なっかしいっすよ」


 ナノリアが、ふと思いついたように夢遊病のように歩き出した患者がどうなるのかを尋ねると、アキラが一瞬考えてから危なっかしいと答えました。たしかに、意識も無くふらふら歩きまわると躓いて転んだりと危ないでしょう。


「まぁ、転んで危ないのもあるが、2人ほどちょっと目を離した間にどこかへ行ってしまって行方不明になっているそうだ」


 さらにマリエルが、実際に熱を出した患者が行方不明になっているのだと言いました。そういえば、宿屋のおかみさんも同じことを言っていました。


「あ、もしかして、村の人たちが、その行方不明になった患者の人達を探してる?」

「ああ、そう聞いているな」


 駿助がハッとして尋ねると、マリエルがすぐに肯定しました。


「先ほど村長さんのところへ村人たちが慌てて駆け込んできて、人探しをしていたら仲間が消えたって言ってたんだ。神隠しだって騒いでたよ」

「へぇ~、そんなことがあったっすね。患者がふらふら歩きまわる病に、神隠しっすか。なんか大変なことになってるっすねぇ」


 駿助が、村長の家で見たことを話すと、アキラは他人事のように大変だなぁと返します。


「その大変な病気にあんたの仲間も罹ってるんだよ」

「そうだったっす」


 マリエルが軽く突っ込むと、アキラは頭の後ろを描いて苦笑いです。


「その病気の患者さん達の中で、回復した人はいないんですか?」

「今のところ回復した患者はいないよ。熱が下がり切らないんだ。とは言っても熱が出てから1週間も経っていないしね。普通の風邪でも数日寝込むことはあるから異常とも言えないよ」


 駿助が回復した患者について尋ると、マリエルが現状を教えてくれました。


 そんな話をしていると、大部屋からレイモンがふらふらと出て来ました。その目はぼうっとどこか遠くを見ているようで、体をゆっくりと左右にふらふら揺らしながら歩いて来ます。


「レイモン? って、こっちを見てないっすね……」

「なんか酔っぱらいみたいだなぁ」


 アキラがレイモンに声を掛けましたが何も反応がなく、駿助がちょっと酷い感想を言っています。


「目が開いてるけど、反応が無いわね」


 ナノリアが、ぴゅいっとレイモンの顔の前へと飛んで行き、大きく手を振って見せますが、レイモンは何の反応も示しません。


「これが、徘徊っすか……」

「寝ぼけてるだけとか?」

「そんな呑気に観察してないで、さっさと揺すって起こしてやりな」


 アキラと駿助が、レイモンをまじまじと観察しながら思い思いのことを言っていると、マリエルが呆れた顔でさっさと起こせと促しました。


「レイモン、起きるっすよ」

「ちょっと待って!」


 アキラがレイモンを揺すり起こそうと手を伸ばしたところで、ナノリアから待ったがかかりました。


「せっかくだから、このままレイモンの行動を観察しましょ」

「観察って……、危なくないっすか?」


「あたし達が見ていれば大丈夫よ。それより、ふらふら歩きまわるのを放っておいたらどうなるのか気になるじゃない」

「それは、そうっすけど……」


 ナノリアの提案に、アキラは危険ではと言うものの、ナノリアの言うことも分かるようで、言葉を濁しました。

 そこへ、医師であるギルバートがやってきました。


「ふむふむ、私も患者がふらふらと徘徊したときどうなるのかには、大いに興味があるな」

「ギルバート、医者がそんなこと言っていいのかい?」


 どうやら、ギルバートもナノリアと同じ意見のようですが、看護師であるマリエルは困った顔でたしなめるように問いました。


「村長にも徘徊する患者の動向を調べたいと持ち掛けたのだが、これ以上行方不明者を出したくないと言われてしまってな。だが、村人でなければ村長も文句は言わないだろう?」

「そりゃぁ、そうだけど……」


 続くギルバートの言葉に、マリエルは困った顔で言葉を詰まらせました。マリエルとしては、レイモンのことが心配なのでしょう。


「ギルバートもこう言ってるし、レイモン追跡作戦を開始するわよ!」

「しょうがないっすね」


 ナノリアが、レイモン追跡作戦と勝手に命名してやる気を見せると、アキラもしょうがないと言いながら、ニヤリと口角を上げるのでした。

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