第4話 おかしな流行り病
タケコ村に入った翌朝、レイモンが熱を出してしまいました。流行り病がうつった可能性があるため、駿助達はレイモンを連れて村の集会場へと向かいました。
集会場には、流行り病の患者達が集められていて、医師のギルバートが朝早くから患者の様子を診ているはずです。
「おや、アキラたち、どうしたんだい?」
集会所へ入ると、駿助達に気付いたマリエルが声を掛けてくれました。
「レイモンが熱を出してしまったっす。診察をお願いするっす」
「そうかい。そっちで座って待ってておくれ。待ってる間に熱を測っておくよ」
アキラがレイモンを診て欲しいと告げると、看護師であるマリエルは、慣れた様子で集会所の入口近くにある椅子へ腰かけて待つように指示しました。
「よろしくお願いするっす」
アキラは、マリエルの指示に従い、レイモンを椅子に座らせました。すぐにマリエルが体温計を持ってきてくれて、レイモンの体温を測ります。
「ほかの患者さんの様子はどうっすか?」
「熱と喉の腫れが主な症状でね、普通の風邪と言ってしまってもいいのだけれど、眠っている間にフラフラと起きて歩き出すんだよ」
アキラが、世間話のような感じで、ほかの患者について尋ねると、マリエルは困った顔をして、患者の症状を話してくれました。聞いた限りでは、まるで夢遊病の患者のようです。
「トイレに向かったとかっすか?」
「私も最初はそう思ったんだが、声を掛けても全く気が付かないんだよ。体を揺するとハッと気が付くんだけどね、どこへ行こうとしていたのかを尋ねてみても、みんな『えっ?』ってな感じで、起き出したことも覚えていないと言うんだよ。こんなことは初めてさ」
アキラの疑問に答える形で、マリエルは患者達の奇妙な行動を話して聞かせてくれました。そんなことが昼夜問わず起きるため、患者達から目を離せないのだと溜め息交じりに教えてくれました。
そんな話をしている間に、医師のギルバートから声が掛かって、アキラたちはレイモンを連れて臨時の診察室として使っている部屋へと入って行きました。
「うん、発熱に加えて喉に炎症があるね。村の患者達と一緒だな」
「ぼくも、夜な夜な歩き回るですか?」
ギルバートから村の患者達と症状が一緒だと聞いて、レイモンはとても不安そうな顔で自分も徘徊するのかと尋ねました。
「その可能性があるからね、この集会所で寝泊まりするといい」
「あぅぅ……」
ギルバートから集会所へ入院と告げられ、レイモンは涙目になってしまいました。
「自分も一緒に泊まるっすから大丈夫っすよ」
「アキラさん、ありがとですぅぅ」
アキラの配慮に、レイモンはうるうるしながら礼を言うのでした。アキラは、そんなレイモンの頭をよしよしと撫でました。
「それで、レイモンくん、村に来てから何か変わったことは無かったかい?」
「変わったことです?」
「そうだよ。患者が無意識のうちに歩き回るなんて症状は、私も今まで聞いたことが無いんだ。だから、この病気についていろいろ調べているところなんだよ。どんな小さなことでもいいから、気付いたことがあったら教えて欲しいんだ」
ギルバートは、レイモンに村に入ってからのことを尋ねました。その真剣な眼差しから、医師として、この奇妙な病気について危機感を持っているようすが窺えます。同時に何としてでも患者を助けたいという意思も感じられます。
「えっと……」
「そう言えば、昨日、甘い香りがするっていってたっすね」
「あ、そう言えば、甘い香りがしたです」
何か思い出そうとするレイモンの横で、アキラが思い出したように昨日あった出来事を話すと、そうだそうだとレイモンも頷きました。
「ふむふむ、その時の状況を詳しく教えてくれないかな」
「昨日、村の散策をしていた時の事っすけど――」
ギルバートが興味津々に尋ねてきたので、アキラが、村を散策中にレイモンだけが甘い香りがすると言っていたことを話しました。一緒にいたアキラも駿助も甘い匂いなど感じていなかったのですから、不思議に思っていたという話です。
「マリエル、患者達に熱を出す前に甘い香りがしなかったか聞いてみるとしよう」
「了解、さっそく聞いてくるよ」
アキラの話を聞き終えると、ギルバートは、看護師のマリエルに聞き込みしようと提案しました。すぐにマリエルは患者達が集められている大部屋へと向かいます。
「レイモンくん、甘い香りと言ったけど、どんな香りだったか詳しく話してくれないかい」
「えっと、詳しくと言われても……」
「例えば、甘いクッキーのような香りとか、蜂蜜の匂いだとか――」
ギルバートは、甘い香りがどんなものだったか詳しく知りたいようで、戸惑うレイモンに対して、具体例を挙げて何とか聞き出そうと根気よく話をするのでした。
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