第5話 村長の家へお使い

「おっつかい、おっつかい、ララランラン♪」


 ナノリアが陽気に歌いながら、駿助の頭の上をふわふわと飛んでいます。気持ちのいい朝の陽ざしの中を駿助とナノリアが村長の家へと向かっていました。


 当初の予定では、フェアリーナイツのみんなで村長の家を訪れる予定でしたが、レイモンが熱を出してしまい、診察というか医師であるギルバートからの質問が長引きそうだったので、アキラを残して駿助とナノリアの2人で向かうことにしたのです。


「すいませ~ん」

「おや? 見かけない子だね。それにフェアリーとは珍しいな」


 村長の家の門の中を覗き込んで、駿助が門の中に見えた若い男へ声を掛けると、男は珍しそうに駿助とナノリアへと目を向けました。


「こちらでハンターギルドの代行業務をしていると聞いて来たのですが」

「確かにギルドの代行をしているが、子供のお使いじゃ相手はできないよ」


 駿助が尋ねると、若い男はにっこり笑顔で子供の相手は出来ないと言います。駿助は背が低く童顔なので子供だと思われているのでしょう。


「あーと、俺はハンターなんですけど」

「あたしもよ」

「えっ?」


 駿助とナノリアがハンターだと言い、証明書としてハンターカードを取り出すと、若い男は驚きの声を漏らしました。


 男に促され、村長宅へと入った駿助とナノリアは、大きな机の置かれた部屋へと案内されました。


 そして、確認のためにと机の片隅に備え付けられている石板にハンターカードを乗せて隣に手を置くように言われたので、駿助は言われたとおりに対応しました。


 石板は魔道具になっているようで、駿助がカードと手を乗せると石板に付けられていたランプが緑色に光りました。


「本当にハンターだったんだな……」

「あはは、見た目からよく子供と間違えられるんです」


 疑っていたのでしょうか、男がまさかと言った顔をしましたが、駿助はいつものことだと苦笑いしました。


「えーっと、それで、どのような用件かな?」

「実は、村へ来る途中で魔王軍を討伐したので、報告をしに来ました」

「なに!? 魔王軍だと!?」


 駿助が魔王軍を倒したと伝えると、男は目を大きく見開いて驚きました。


「えっと、これが魔王軍の魔石です。確認してください」

「こ、こんなにたくさんだとぉ!?」


 さらに駿助が、魔王軍の魔石をじゃらじゃらと机の上に出したために、男はいっそう驚愕の表情を強め、声が裏返ってしまいました。


「いや、まて、お前らハンターと言えども3級と4級だろ? こんなにたくさんの魔王軍を討伐できるわけがない。嘘か? 嘘なのか? だが、しかし、これらの魔石をギルド支部へ送って調べれば魔王軍かどうかは分かるのだぞ。ふはははは、お前ら今のうちの本当のことを言っておいた方がいいぞ」


 男は、少し壊れた様子で早口で持論を展開し、駿助の言っていることが嘘ではないかと思い込んでしまったようです。そして、男の中では魔石は偽物という認識になってしまったみたいです。


「いや、その、落ち着いてください。魔石は調べてもらって構いませんし、俺達だけで魔王軍を倒したわけじゃないんですよ」

「ん? お前らだけじゃないと?」


 すっかり冷静さを失ってしまった男に対して、駿助は落ち着かせるように、自分達だけで倒したわけじゃないと言うと、男は、少し冷静さを取り戻したようです。


「そうです、そうです。俺らのパーティー4人と、あと、医者のギルバートさんが連れていた護衛の皆さんと一緒に倒したんです」

「なるほど、そうか、そうか。そりゃ、そうだよな。子供とフェアリーだけで、あれだけの魔王軍を相手に出来るわけがない」


 駿助が、実際に戦ったメンバーを伝えると、男は、なるほどと納得したようにうんうん頷くのでした。


「それじゃぁ、魔石は一旦預からせてもらうぞ。ギルド支部の方で確認してもらわなくてはならない決まりだ」

「はい、それでいいです。報酬は、こっちのパーティー用のカード宛てに振り込んでもらってください」


「ん? ギルバートさんの雇っている護衛の分はどうするのだ?」

「俺達のパーティーが臨時で護衛を引き受けたので、その報酬として魔王軍の魔石を貰ったんですよ。本当かどうかはギルバートさんに確認してください」


 魔石の報酬をフェアリーナイトのパーティー用カードに入れるように頼むと、男は少し訝しがりましたが、理由を説明してギルバートに確認してくれと言うと、男は少し訝しがりながら後ほど確認すると言っていました。


 ようやく用事を終えた駿助とナノリアが、村長宅の入口扉を出ると、門から慌ただしく駆け込んでくる村人達とすれ違いました。


「そ、村長はいるか!?」

「たいへんなことになっただ!」

「タゴサクが、消えちまっただ!」


 村長宅へ飛び込んできた3人が、慌てた様子で口々に叫びました。


「みなさん、行方不明のマリーさんとメリーさんを捜索中でしたよね」

「ああ、みんなでマリー達を探してただが、気が付いたらタゴサクが消えていただ」


 ハンターギルドの代行業務をしていた若い男が尋ねると、飛び込んできたうちの1人が興奮した様子で答えました。


「神隠しだべ」

「んだ、んだ、神様が怒っちまっただ」

「落ち着いてください。今、父を、村長を呼んできますので」


 興奮のままに好き勝手なことを言い出す村人達に対して、男は落ち着くように促すと、村長を呼びに家の奥へと駆け出して行きました。どうやら駿助達の相手をしてくれていた若い男は村長の息子だったようです。


「なんか、大変なことになってるみたいだね」

「う~ん、流行り病に神隠し……、この村で大きな事件が起きているようね」


 駿助の呟きに、ナノリアが事件の予感をほのめかすのでした。

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