第3話 タケコ村の流行り病

 駿助達フェアリーナイツは、ギルバート達を護衛して、無事に目的地であるタケコ村へ辿り着きました。道中、レッドボアという猪の魔獣が現れて、アキラが肉を目当てに仕留めて解体するという場面もありましたが、再び魔王軍が現れることはありませんでした。


「お医者さまだ! お医者さまが来てくれただ!」

「すぐに村長へお知らせしろ!」


 タケコ村へ入ると、ギルバートの姿を見つけた村人の1人が、嬉しそうな顔をみせて叫び、周りの村人達が慌ただしく動き出しました。


「ギルバート様!ようこそおいで下さいました!どうか、皆をお救い下さい!!」


 ギルバートの下へ駆けつけた村人が、神にも縋ろうかという勢いで救いを求めてきました。


 村人の様子にギルバート達は少し驚いたようでしたが、すぐに真剣な顔つきになりました。


「村で何かあったようですね」

「はい、数日前から村で熱を出す者が増えてきているのです。流行り病かと思うのですが……。どうか、どうか皆をお救い下さい!」


 ギルバートが尋ねると、村人は不安そうな顔つきで村の様子を教えてくれました。流行り病と言っていますが、それにしては村人の態度が大げさに見えてとても気になります。


「とにかく診療してみましょう。患者さんのところへ案内してください」

「はい、村長の指示で熱のある者は集会場へ集めています」


 ギルバートが案内を頼むと、村人は、医師のギルバートと看護師のマリエルを連れて集会場へと行ってしまいました。


 村の入口で取り残された形になったフェアリーナイツの面々は、ギルバートの雇った護衛達と共に、宿を取りに向かいました。



 タケコ村の宿は1軒のみでしたが、部屋は空いていて駿助達は4人部屋を取ることができました。護衛の人達は、怪我をした男を休ませる為に、すぐに部屋へと向かいました。


「最近、村で熱を出す人が多いと聞いたっすけど、どうなんすか?」

「そうなのよ。数日前から熱を出す人が増えてきてね、流行り病じゃないかと噂になっていて心配だったのよ。でも、巡回のお医者さんが来たから、もう大丈夫ね」


 アキラが宿のおかみさんに村の病の話を尋ねると、おかみさんは、気さくな感じで話をしてくれました。


「流行り病って、患者を一か所に集める必要があるんすか?」

「それがね、病にかかった連中が、高熱で意識がないままフラフラと村の中をさまよい歩いてしまうんだよ。だから、一か所に集めて見張りを立てているんだよ」


「えっ? 本当っすか?」

「本当さ。2日前にどっか行っちまって行方不明になった人が出てね、村中探しても見つからないし、それで発熱した者は集会所に集めることになったのさ」


 おかみさんは、患者を集会所に集めている訳を教えてくれましたが、その内容はすごく不思議な話でした。


「その行方不明になったって人は見つかったんですか?」

「まだ見つかっていないよ。村の外へ出たんじゃないかって、村の周辺を探しているところさ。無事でいてくれるといいんだけど……」


 駿助が心配そうに尋ねると、おかみさんは、すごく心配そうな顔つきで捜索状況を教えてくれました。


「あーっと、この村にハンターギルドはあるっすか?」


 アキラが、しんみりとした空気を変えるかのように、ギルドのことを尋ねました。


「ハンターギルドは無いよ。小さな村だからねぇ。だけど、村長のところで代行業務を行ってるわ。午前中だけだから、明日にでも行ってみるといいよ」

「そうっすか。ありがとうっす。明日、行ってみるっす」


 おかみさんは、にっこり笑顔で、ギルド代行のことを教えてくれました。


 それから、アキラが村に来るときに仕留めたレッドボアの肉を提供すると、おかみさんは凄く喜んで買い取ってくれました。今夜の食事に使うと言っていたのでみんな夕ご飯が楽しみだと口をそろえて言いました。



 宿を確保した駿助達は、少し休憩したあと、散歩がてらに村を散策することにしました。


 畑が広がり、のどかな村という感じですが、ときおり見かける村人達は、どこか不安そうな顔をしていました。


「なんか、甘い香りがするです?」


 突然、レイモンが言いました。

 アキラと駿助は、くんくんと空を仰いでにおいを嗅ぎます。


「甘い香りなんてしないっすね」

「そうだね。草木の香りがするくらいかな」


 アキラと駿助は、首を傾げてそう言うと、レイモンの方へ視線を向けました。

 レイモンはレイモンで駿助達の反応を見て首を傾げてしまいました。


「確かにお菓子のような甘い匂いがしたです。あ、でも、さきほど、ぶわっと匂いが強くなってから、急に匂いがしなくなったです」

「そうっすか?」

「う~ん、なんだったんだろうね」


 レイモンの言葉に、アキラと駿助はやっぱり首を傾げて不思議がるのでした。


「ナノリアさんは、においを感じなかったです?」

「うん? あたし? そうねぇ……、強いて言えば、駿助が獣臭いわ」


「えっ!? 俺!? そんなに匂う?」

「酷いわよ。ちゃんと水浴びした方がいいわね」


 レイモンに話を振られたナノリアは、なぜか駿助の匂いについて発言し、駿助は驚きの声を上げて自分の服の匂いをくんくんと嗅いでいました。


 この日、駿助は、宿のお風呂でこれでもかというほど、しっかりと体を洗ったのでした。

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