第02話 選んだ世界と能力は

 俺が選んだ世界は魔法と魔物モンスターが跋扈する、中世っぽいファンタジー世界。


 この「っぽい」っていうのが重要。

 これが最重要。

 厳密な中世で、ついさっきまで現代日本でのほほんと高校生をしていた俺が耐えられるとは思えない。

 ネット環境がないってだけでも大問題なのに。

 

 魔力に満ち、空に大陸が浮き、竜が飛ぶ世界。

 何で創造主とやらは、この世界に興味を失くしてしまったんだろうな。

 

 同じような世界をつくりすぎたせいなのかもしれないな。

 ここに決めるまで似たような世界は結構あったし。


 勇者だの魔王だの世界の敵だのが定期的に現れるも、本格的な滅びなどはめったになく続いている、どちらかと言えば安定している世界とのことだった。

 それでも何度か世界の終わりと再生を繰り返しているらしい。

 地球はどうなのかと聞いたら沈黙しやがった。

 地球世界に戻ることはもうないんだから、冥途の土産のようなもんで教えてくれたっていいのに。

 ケチ珠め。


 まあいい。


 伝説はこう始まる。

 全ての起こりは一人の「異世界人」だったのだ、と。


 遠い遠い昔、生けるなんちゃら中略。

 寝こけた神様がどうたら中略。


 世界の名は、「ラ・ヴァルカナン」


 こんな風に詩歌うたや伝説に名を残す人生を、俺はこの異世界で始めるのだ。

 あたかもヴァ○・ディールに降り立った名もなき冒険者と同じように。


 冗談はさておき。


 俺の選んだ「ラ・ヴァルカナン」は魔法、魔物ありの世界。

 当然それに合わせて、俺の能力チートも選んだ。

 君の最大の願いをのぞいて、五つの能力チートを授けてあげよう、と突然偉そうに語り始めた珠をとりあえずけっとばし、選んだ能力チートは以下の5つ。


 俺が本来持っていた「死に戻り」の力は能力チートとは別枠であるらしい。


 一つ目、ステータス・マスター。


 自分や他者のステータスを見る事が出来る、おなじみのアレ。

 能力チート系異世界転移冒険譚には欠かせないだろう。

 レベル制を前提のステータス確認可能な能力を一つ目に選んだ。


 好き嫌い賛否両論はあろうが、個人的にはこれがあってこその異世界転移だ。

 ゲームじゃないのにゲーム感覚ってのが異世界転移の醍醐味だと自分では思っている。


 異世界行ったら、最初の一言は「ステータス・オープン!」と決めている。


 文章で読むのと自分がやるのとじゃ大違いなのは理解しているつもりだけど、自分の状態や相手の強さ、状態、未知のものや、一見して知っているもののように見えるものを数値化、文章化して把握できるのは大事だと思うんだ、うん。

 現地の言語で書いてやがったらぶち転がすぞと珠を脅したら、現地の言葉も聞けて話せるし、読み書きできるようにしておくから大丈夫だとぬかしやがった。サービスだから大丈夫と。


 愚かな。


 「ラ・ヴァルカナン」でただ一人俺にしか読めないからこそ価値があるんだろうが。

 万一覗き見られても影響無いように日本語表示にしろって言ってんだ。

 そう言うと感心された。


 いや途中で思いついただけだったんだが。


 二つ目、魔力適性。


 魔法のある世界に現代日本人である俺が行くからには、これもまた必須だろう。魔法全般の適性をセットでもらった。

 これで「ラ・ヴァルカナン」に存在する全ての魔力に適性を示す「魔法の天才」となる訳だ。


 目指すは魔導王。


 刀遣い(使いじゃないところがポイント)にも憧れはするが、自分が刀や剣を自在に操っているところが想像できなくて断念した。

 やはり異世界なら魔法でしょう。詠唱したら発生するし、詠唱キャンセルとかもお約束だし。どういう仕組みになるのか想像もできないけど。


 三つ目、成長限界突破。


 ゲームのような成長が可能な世界を選んだが、その成長が俺の本来のスペックに左右されてはたまったものじゃない。

 こう見えてそれなりに本格的なヲタクをやっていたのだ、体力などないし、運動神経に自信など全く、欠片もない。

 そんな理由もあって「刀遣い」を諦めたのだ。

 とはいえ異世界で一振りしかない「刀」を駆使する異世界人にはやっぱ後ろ髪引かれるものがあるな。 そもそも「刀」がないから無理か。


 魔法系で行くつもりとはいえ、レベル上限が3でしたとか言われた日にゃ目も当てられない。

 得た経験をもとに無限に成長できることは大事。


 四つ目、アイテムボックス。


 これもまたお約束だろう。

 異世界を気ままに旅したり、何百層もある迷宮ダンジョン攻略するのにでかい鞄もってウロウロするのは大変だ。

 それ以前に絵にならない。却下。

 というわけでアイテムボックスという名の四○元ポケットを用意してもらった。

 長年の謎であった、生き物は入るのか、時間は経過するのか、その辺は速攻で実験してやろうと思っている。


 自分でやる気は更々ないが、どうせ盗賊とか出るだろうからそれで。


 最後の一つ、経験累積。


 これはぎりぎりで思いついて用意してもらった。

 俺がもともと持っている「死に戻りの異能」があっても、この能力チートとセットにしなければ詰む可能性がある。


 あんな無力感は二度とごめんだ。

 自覚した一回目でそこに気付かせてくれたことには感謝せねばなるまいが。


 他の四つの能力チートを駆使しても、死に戻りの能力が発動する状況が無いとは言い切れない。

 魔物モンスターの跋扈する世界であれば、いかに能力的に秀でていてもちょっとした不注意で命を落とすかもしれない。

 その状況の回避が、「やり直し前の記憶がある事」だけで可能であれば問題はないが、そうでなければ永久ループだ。


 例えばその時点の強さではどうしても倒せない魔物モンスターを避けては通れない状況なんかだ。

 そうなった場合に、死に戻った時点からその状況に陥るまでに強化した部分が累積されるのであれば、いずれは突破できる。

 注意するべきはその魔物モンスターとのエンカウント直前を死に戻りのポイントに設定してしまうという愚行か。


 セーブ可能なのが1つだけのゲームで、引き返せないボスの前でセーブしてしまうようなものだな。

 最近のゲームではそういうのはなくなっているが、現実ではそうもいくまい。

 ゲームのように迷宮の奥底でじっとプレイヤーがやってくるのを待っていてくれる魔物モンスターばかりではないのだ。そういうのも居るかもしれないが。

 その時、その瞬間に解決しなければならない問題は、現実にはごまんとある。

 それは異世界でも変わることはないだろう。


 それに対応するためには必須の能力と言えるだろう。


 以上が、俺が異世界「ラ・ヴァルカナン」に転移、ぶっちゃけていえば地球世界から厄介払いされる代わりに得た能力チートたちだ。


 このまま日本で「死に戻りの異能」だけを頼りに生きていくよりは、たぶんやれることの幅は広がっているはずだ。


 だぶん、きっと、おそらくは。


 珠のやろう、「その世界限定なら、全知全能とかも可能だよ?」みたいなふざけた事言ってやがったが、そんなもの得たと同時に俺が俺じゃなくなるのは自明だ。


 今得た能力チートだけでも相当に俺は変わるはずだ。

 少なくとも「死に戻りの能力」を自覚する前と後では、俺自身が別人かと思う位に俺の考え方は変わってしまっている。


 まあ他に上げられた能力群を見ても、そんなこと実際は不可能なんだろうけどな。

 そうしてくれと俺が言ったら、「嘘に決まっているじゃないか」と笑われたんだろう。


 まあどうあれ俺はこれらの能力チートで「ラ・ヴァルカナン」を生きていく。


 こっちの条件は充分以上のんでもらったと言えるから、すなおに「地球世界」からは厄介払いされてやろうじゃないか。


 血が繋がってないのによくしてくれた両親や、数は少ないが仲良くしてくれた友人たちに心残りがまるでないといえば嘘になるが、逆に泣くほど心残りかと言われればそれもない。


 もともと俺は情に厚い人間ではないのだろう。


 ふははははは、「地球世界」で俺と仲良くしてくれた連中よ。

 君たちとの友誼は俺にとって有意義な能力チートに姿を変えた。

 悪く思わないでくれ、こっちも創造主とか使徒とか頭のわいたこと言う連中と渡り合わねばならなかったんでな。

 俺は異世界を選ぶことにした。


 さらばだ。




 ――胡散臭いけど、使徒とやらは気にかけてくれるみたいだし大丈夫だと思う。

 

 それにおかげで美人が一人、噂通りならフリーのまま生き延びたんだ、良しとしてくれ。

 祝に惚れてたお前らなら、まあプラマイでチョイプラスってあたりと判断してくれることを願う。

 丸儲けだと思われてたら泣くけどな。


 じゃあな。




 ……なんか忘れているような……


 …………あっ!


 異世界行ったら「地球世界」の創作物一切合切手に入らねえじゃねえか!!!


 あああなんてこった、珠、珠、今から能力チートどれか一つ、異世界でも地球からネット通販可能とかにならない? え? だめ? 完全に俺は「地球世界」との接点切らないと意味がない? そこを何とか……だめ? どうしても? あああ、だめかああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!

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