第一章 異世界転移
第01話 異世界へ
8月15日の午後十二時半くらいのこと。
天気がいい。
俺、
嘘です、ごめんなさい本当は10月10日、天気もそんなによくない、というか雨でした。
時間はほぼそのあたりだったはずです。ごめんなさいもうしません。
とにかく俺は初めて死んだ。
お約束通りトラックにひかれたのだ。
初めて死んだ、という日本語もどうかと思うがそこはまあ良しとしよう。
せっかくの休日なのに雨なんてついてないなと思いながらコンビニに出かけて、信号待ちの所で偶然同じ高校の女の子と信号待ちをしていた時だ。
なんで制服姿でもないのに同じ高校の女の子だと分かったのか。
まあぶっちゃければ片思いをするにも恐れ多い、うちの高校一美少女と名高い
苗字も名前も一文字ってなんかカッコいいよな。
そうでもない? それが美少女と来た日にゃかなりカッコいいと思うんだけど。
まあどう考えても避けようのないタイミングだったし、俺も祝も間違いなく死んだだろう。
にも拘らず、ぐだぐだと俺の思考が途切れないのはなぜなのか。
それはコンビニに出かけようかなーと思った時点に、時間が戻っているからだ。
今は自分の部屋でコンビニに出かける準備をしているところ。
夢を見ていたとか、そういう事ではけしてない。
何故断言できるかと言えば、俺が「初めて死んだ」という表現を使えるくらいに、初めて以降何度も繰り返しているからだ。
夢でも見ていたのかなと思って、考えなしに同じ行動を取った二回目は寸分たがわず同じように死んだ。
祝に逢えて、「お、ラッキー」と思ったところから、「げえ、トラック!」と思うところまで寸分違わず同じだった。
ぎゃああんぎゃああんと聞こえるおそらくはブレーキの音がじゃーんじゃーんと聞こえるなと思った所まで同じだった。
我ながら馬鹿丸出しだと思ったね。ちょっと笑えるくらいに
俺は一度くらいチャンスを与えられても絶対に活かせない男。
いや何度チャンスを与えられてもダメな男かもしれない。
痛みがないから気楽に繰り返しているけど、実はもう38回繰り返してるんだよね。
だけどどーしても死んでしまう。
まあへこんでたってしょうがない、残機が無くなるかトラック回避に成功するかまで根競べだ。
TRY TO 39th!!!
おお、数的に次は上手く行く気がする。
さて出かけましょうかね。
『いい加減諦めてくれないかな。世界が先に進めなくて困るんだけど』
懲りもせず39回目に挑戦しようとする俺の目の前に、何色と言っていいかわからない色の珠が現れて話しかけてくる。
珠かよ。
もうちょっと凝れよ、美少女女神とか、威厳のあるじじいとか。
白い空間とか美男子神じゃないだけましかもしれんが、もうちょっとどうにかならなかったのか。
『ものすごく落ち着いているというか、肝が据わっているね。普通の人からすれば取り乱しても不思議じゃない状況下で僕は現れたと思うんだけど』
珠な上にヤローですか。
まったく需要を満たしてないな。
いやこのあたりはあっさり済ませる方がいいのかな。
『一人称が僕だからヤローと決めつけるのは少し早計じゃないかい? 僕っ娘という可能性も……』
やかましい。
つかしれっと思考を読んで会話を成立させるな。
俺は一言も話しちゃいないぞ。
『それはもうしわけない』
意外と素直だ。
小動物のスタイルだともっとそれっぽいのに。
魔法少女になる気はないが。
「嘘みたいな状況だけど、実際に起っている以上取り乱したってしょうがないだろ。とにかく何とか生き延びる方法を探すしかないだろさ。まあ詰んでる状況で改善が望めなければ、なにか接触があるかもなーとは思っていただけさ」
しゃべらずに会話が成立するのはやはり気持ち悪いので声を出すことにする。
『別に詰んじゃいないと思うけど。君が死なないことを最優先とするならば、あの交差点へ行かなければいい。一度も試してないみたいだけど、その時間にどこに居ても君が死ぬなんてことはないよ。保障してもいい』
「……」
この野郎。
『怒らせたかな? オーケイ、無駄は僕も好きじゃない。とりあえず君が実はものすごい異能を持っていることはもう理解できていると思う。要は任意の時点に戻ることが可能な能力だ。当然今まで死んだことなんかなかっただろうから、今回の件で初めて認識したわけだね』
今まで一度も死んだことなんかありません、ってな本来言うまでもなく当たり前だ。
だが俺の場合うっかり死んで、無意識に戻ってやり直していたことがあった訳か。
だから「今回の件で初めて認識した」な訳ね。
なるほどうまいこと言いやがる。
『話がはやくて助かるよ。ぶっちゃけるけど、君の生きている「地球世界」は創造主のお気に入り筆頭なんだよね。その世界が停滞するのは僕たち使徒としても凄く困るんだ。正直に言うけど僕らが介入しても君の能力を奪う事も、本当の意味で殺すこともできなかった。それでも今までは無意識のやり直し程度で済んでいたけど、今回はそうはいかないよね』
こいつら今までに何回か俺を殺していたのかよ。
こっわ。
その度俺は無意識にやり直していたって訳だ。
というかさらっと創造主とか使徒とか厨二ワードが飛び出してきたな。
正直大好物ではあるのだが、このシチュエーションで聞くとちょっと笑える。
それを信じるしかないような状況に置かれていることが、一層それに拍車をかける。
「今俺が困っている状況をシトサマとやらがなんとかしてくれればいいじゃないスか」
『定められた因果を曲げるのは結構骨なんだよ? できなくもないけどね。それはまあ一旦おくとして、君は今後こういう事になる度、今回と同じことをするだろう?』
「……」
『君が自分だけ楽しく生きるためにその異能を使う様な人だったら良かったんだけどね。君が救おうと決めた人の因果をその都度変えていたのでは、正直世界が前に進めない』
「聖人じゃあるまいし、誰もかれも助けようなんて思ってないよ」
それは本音だ。
誰彼かまわず、自分がなんとかできると思いあがるつもりはないし本当にそこまでお人好しなつもりもない。
『――かもしれない。でも、そうじゃないかもしれない』
「……」
「力」におぼれないと断言できるほど自信家でもないしなあ。
確かに使徒の皆さんにとっては頭の痛いイレギュラーなのだろう、俺は。
それをどうにかしたいと切実にお考えな訳か。
『で、交渉に来たわけなんだ。今回の件も含めて、出来る限りの条件を呑むから「地球世界」から離れてくれないかな? 創造主が興味を失くした世界はそれこそ星の数ほどある。君の好みの世界へ、君の好みの能力を持って行ってくれないか? ありていに言えば、異世界一つを好きにしていいから「地球世界」から消えてくれって事なんだけど』
夢のような条件と、鬼のような要求をさらっと同時に言っている。
やっぱりここはお約束の展開か。
――まあ渡りに船ともいえるのかな。
彼らにとっては厄介なイレギュラーな存在なのだろうが、時間を戻せたところでどうにもならない事はどうにもならないのもまた現実だ。
そこをどうにかしてくれるなら、話に乗ってもいい。
「いいぜ。理想の世界へ、可能な限りのチート貰って行ってやるさ。時間を戻す異能だけじゃ、因果とやらを曲げるのは骨が折れそうだしな。ただし絶対条件が一つある」
『即答とはね。かっこいいなあ司君。絶対条件については承知した。サービスでご家族や君が友人だと思っている人たちについても僕たち使徒が責任を持とう』
口にして言う前に了承しやがった。
この全部わかっているという態度が癇に障るが、まあしょうがなかろう。
珠のくせに妙にイケメンボイスなのもそれに拍車をかける。
しかも数珠のようにたくさんいるらしい。僕たちときたもんだ。
『ひどいな。まあ想定していたよりもはるかにあっさり話が付いたのは喜ばしい限りだ。そうと決まれば司君の望む世界と、欲する能力の選定に入ろう。かなりの無茶は通せると思うよ。こういうの選ぶ時が実は一番楽しくない?』
ゲームか。
こいつらにとってはゲームみたいなものか。
まあしょうがない、望みを叶えるためには乗るしかないのなら乗るまでだ。
かくして俺は異世界チート転移をすることに相成った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます