いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~

Sin Guilty

プロローグ

序章 101回目の決闘

「行くぞクリスティーナ! 今度こそ俺はお前に勝つ! 勝ってお前とのフラグを立てる! 覚悟するがいい!」


 正面に立つこの国の第一王女クリスティーナに、びしぃと指を突きつける。


「クリスティーナではありませんツカサ様。クリスティナです。クリスティナ・アーヴ・ヴェイン。勝手に私の名前を間延びさせないでください。わかってくれるのですか」


 溜息と共に、冷静に訂正された。


 やかましい。


 しかしこんな会話ができるようになるとはな。

 最初の頃はコミュニケーション可能になるとはとても信じられなかったが。


「不敬だ!」


「のぞき魔のくせにずうずうしい!」


「フラグってなんだ?」


「つーか今度こそって、何言ってんだあの男」


「俺も見たいぞこの野郎!」


 おい、最後の。


 敬愛する第一王女をいきなり呼びすてる俺に、闘技場のギャラリーたちから非難の声 (だけではなかったが)がそこかしこから上がる。


 ええいうっとおしい。


 お前たちにはいきなりだろうが俺にとってはもう数えるのもバカバカしいくらい繰り返しているから仕方がないんだよ!


 嘘だよ、数えてるよ!

 今回で百一回目だよ!


 僕は死にません!


 そう俺は死なない。

 いや死にはするが、死んだら任意の時点からやり直す事が出来る異能の持ち主だ。

 それ以外にもいろいろな能力チートも持っている。


 圧倒的な能力チートで敵を蹂躙し味方を救い、絡んでくる相手を圧倒して男には畏敬され、女には惚れられる。

 そんな異世界能力チート生活を送るために地球からやってきた転移者。


 それが俺、八神やがみ つかさ 十六歳。


 にも拘らず目の前の超絶美人、クリスティーナに勝つことがどうしてもできない。


 何回やっても倒せない。

 エ○ーマンか。エアー○ンなのかお前の正体は。


 こうやってクリスティーナに挑むのは今回で101回目となる。


 観客にとっては「今度こそ」と言われても何の事だかわかるまい。

 「やりなおし」の記憶を維持できるのは、当然ながら俺だけだからな。


 ……そのはずなんだが。


 倒すべき相手であるクリスティーナは、50回目を越えたあたりから俺の事を覚えているかのような態度を見せるようになり、80回目あたりからなぜかデレ出した。


 意味が解らん。


 いや本当はそうなる理由は解っちゃいるんだが。


「いえツカサ様。私はもう決闘などしなくても、私の肌を見た責任を取って伴侶になってくれればそれでいいのですけれど……」


 クリスティーナが頬を染めながら、可愛らしいことを言う。


 観衆にとっては意外過ぎる言葉に、さっきの俺の発言に対するものよりも大きなどよめきが闘技場に発生する。

 まあそりゃそうだ、王を助けたとはいえ昨日今日あったばかりのはずの男に、最強の誉れも高い王女がそんなことを言い出せば驚くのもわかる。


 いや、それだけじゃない。


 クリスティーナの圧倒的な「力」は、神に操を立てた「姫巫女」であるからこそ成立しているらしい。

 それが伴侶を得るという事は「姫巫女」から降りる、その圧倒的な「力」を放棄すると宣言しているに等しい。

 しかもそれを告げる相手は不埒なことに王女の着替えを覗き、神にしか晒してはならない肌を見た罪でこれから決闘にて公開処刑されるはずの男なのだ。


 俺の事なんだがな!


 まあ神罰執行をするはずの本人がそんなことを言い出せば、驚愕するのは理解出来なくも無い。


 だからこそ、俺はクリスティーナに勝たねばなん。

 どうしても勝たねばならんのだ。


 101回も助けたおっさん、いやこの国の王やクリスティーナの兄弟姉妹も目玉が飛び出すくらいびっくりした顔をしている。


 目、見開きすぎ。


 この顔ももう20回目くらいだが、これは何度見ても笑える。


 いや今はそれどころじゃない。


 赤くなりながらもじもじするなクリスティーナ。

 かわいいじゃねえか。

 だが俺は騙されない。


「ツカサ様は……そんなに私の伴侶となるのがお嫌ですか?」


 ええいだまれ、神に選ばれし天然チート女め。


 その美貌でそんな悲しそうな表情を浮かべれば、の俺であればイチコロだっただろう。


 だが今の俺は、お前の正体を知っている。


 虫けらを殺すような顔で俺の首を斬り飛ばしたことを覚えている。

 見下した目で俺を焼き尽くしたことを覚えている。

 煩わしそうに四肢を切り飛ばして「反省しましたか?」と覗き込んでから頭を割られたことを覚えている。


 うん、あの時の笑顔は怖かった。


 確かに、なぜかやり直し前の記憶が残っているような様子を見せるようになってからは、少しずつ人間味のあるところが出てきてはいた。

 それどころかここ数回では、責任さえ取ってくれればそれでいいなどと甘えたことを言い出す始末!


 そうじゃない。


 俺が求めているのはそんなご都合展開じゃない。


 能力チートを得て異世界転移したからには、王女の着替えをうっかり覗いてからの決闘!

 周りの予想を覆してそれに圧勝して、ツンデレ風味で惚れられてこそだろうが!


 まあ二回目からはうっかりではなくなっているが、それは良しとする。

 何事にも例外はある。


 それが何だ?


 俺の能力チートなど小指で吹き飛ばせるくらいの超絶天然もの能力チート持ちが序盤に居るって、バランスどーなってんだ。


 いやゲームじゃない、ゲームじゃないぞ異世界だ。


 ステータスオープンが出来ようが、レベルの概念が在ろうが、いろいろな能力チートが存在しようが、俺にとってはもはやここが現実。


 生まれ育った日本にはもはや帰ることはできない。


 俺はこの世界でテンプレ転移能力チート主人公として生きていくことに決めた。

 そのためにもまずはクリスティーナ、おまえを倒す。


 倒してきっちりとフラグを立てた後の事は知らん。


「いくぞおおおお!!!」


 能力チートで得た魔力を全身にみなぎらせ、101回目の決闘デュエルを開始する。


 左目に宿る銀色の義眼が魔力を吹き上げ、戦況分析を表示。


 左手に嵌められた戦闘管制制御を担当するオープンフィンガーグローブも義眼と同じように魔力を吹き上げ、あらゆる状況に対応可能なようにあらゆる魔法陣を展開する。

 右手には傷付けただけで対象のレベルを吸収し、低レベルの魔法や技であれば無効化する神器級武器である「吸精の短剣ドレイン・ダガー」を構える。

 風も無いのに漆黒の外套マントがはためき、俺の身体を空中へと浮かべる。


 万全の体制だ!


 俺の身体の周りに無数の巨大な氷柱が出現し、緩やかに旋回を始める。

 クリスティーナの剣技、神刀は爆炎を纏う。

 

 ならばこちらは相反する氷だ!


 ……あれ? 


 なんか昔、漫画で炎は上限ないけど、氷は絶対零度以下にはならないから云々……

 い、いいや大丈夫。相手は銀髪のイケメンじゃない。


 なんとかなる。


 はず。


 あ、クリスティーナのやろう溜息つきやがった。


 前回までの俺と同じと思うなよ、今度こそ目にもの見せてくれる。

 あっさり勝利した上で


「こっちの世界の女の子ってこんなに強いの? びっくりしたよ」


 といって手を取って立ちあがらせてやる。


 それが出来ねば、俺の異世界ライフはここから一歩も先に進めないんだよ!



 ――あれ?


 ……気合一杯で雄叫びあげて突撃したら、全然余裕じゃないんじゃない?

 ため息ついて「やれやれ」とか言いながら開始しなければならなかった。


「女の子と戦うのは気乗りしないんだけどな」


 の台詞も忘れた。


 失敗した。

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。以下略


 まあいい、勝てば官軍。

 勝った後余裕のフリをすればそれで済む。


 101回目の今回で、きっちり勝ってみせるぜ!












 ――クリスティナ、お前を解放してみせる。

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