第28話:茜とイライザとダニー
第一王子の王位継承権剥奪、王族籍からの除名が決まった。
正妃だった母も離縁が決まり、国へ
勿論、国交は断絶された。
それだけ隣国の王女とその情夫である魔術師のやった事は最悪だったのだ。
「不貞がバレて国へ帰っても居場所が無いから、どうしても第一王子と結婚したかったのだろう」
何の感情も籠らない声でダニエルが語る。
「私の後ろ盾を無くし、王位を確実な物にしてやると取引を申し出たそうだ」
現に「今後不貞をしないのならば」との条件付きで婚約話が復活していた。
きっかけは第一王子の「国の為ですから、多少の我慢はしましょう」と言う言葉だったらしい。
部屋の空気が重い。
余計な邪魔が入らないからとはいえ、学園の王族専用サロンで聞く話では無かったと、『茜』はダニエルの横で少し後悔していた。
「このままでは、私が王太子になってしまう」
肩を落とすダニエルに、部屋の中のセザールとシャーロット、そして『茜』が首を傾げる。
「それの何が問題なのでしょうか?」
質問したのはシャーロットだった。
結局シャーロットは、セザールに捕まってしまい、婚約者になっていた。
「イライザは、見た目と違い気が弱くて優しいのだ」
「は?」
「王太子妃、
本気で言っているダニエルは、両手で顔を覆っていた。
「あの、ダニー?私が言うのも変だけど、エリザベスは婚約を了承した時点で、その覚悟はしていたみたいよ」
『茜』はエリザベスの記憶から、その覚悟を拾ったのだ。
「だから人一倍勉強を頑張ったし、表情を読まれないように常に無表情だった」
そのせいで親しい友人が作れなかったけど、今はシャーロットも居るし大丈夫そうね。
『茜』がそんな事を考えていたら、突然ダニエルに抱きしめられた。
「え?何?」
抵抗する間も無く、チュッとダニエルがくちづける。
歓喜するとエリザベスにくちづける癖でもあるの!?
そう『茜』は思いながら、意識を手放した。
ダニエルに抱きしめられたまま、エリザベスは固まっていた。
喜ぶとチュッと唇にくちづける癖だけは、本当に直してほしい。
しかもここは学園ではないですの!?
エリザベスは室内を見回す。
驚いてこちらを見ているのは、第三王子のセザールに侯爵令嬢のシャーロットだ。
「お
エリザベスはダニエルを突き飛ばした。
その瞬間に様々な情報が頭に入って来た。『茜』の中から、常に世界を観ていたのを思い出したのだ。
茜の言葉を借りるならば「ドラマを観ていた」ようだった。
「
エリザベスの変化にいち早く気付いたのは、ダニエルだった。
「イライザ……本当にイライザなのか?」
エリザベスに突き飛ばされた状態でソファに倒れたまま、顔だけを起こしてエリザベスを見ている。
「いくら他の方と呼び方を変えたいからとはいえ、イライザは嫌だと言っておりますのに」
エリザベスがちょっと唇を尖らせる。
拗ねた時のエリザベスの癖だ。
「イライザ、いつもみたいにダニーと呼んで?」
ダニエルが言うと、チラリとダニエルを見たエリザベスは、頬を染める。
「ダニエル様は、ダニエル様です」
実は『茜』はエリザベスの記憶からダニエルを「ダニー」と呼んでいたが、それは二人きりの時だけの呼び名だった。
恥ずかしがり屋のエリザベスは、人前では常に「ダニエル様」と呼んでいたのだ。
「あぁ、おかえり、イライザ」
ダニエルは壊れ物にでも触れるようにそっとエリザベスを抱きしめた。
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