第26話:堕ちるのはあっという間
「親子鑑定とは、どういう物なのだ?」
昼休み。いつもの王族専用サロンで、『茜』はダニエルに質問されていた。
「そういえば、さっきも同じ事を言ってたよね」
セザールもダニエルに追随する。
ドリーの殺人事件の話になり、うっかり『茜』が前世の科学捜査の話をして、「それは親子鑑定も出来るんですよ!」と言ってしまったのだった。
「えぇと、人間……いや、生物にはDNA配列がありまして、親子だと半分一致するんだったかな?兄弟だと半分だったかな?」
残念ながら『茜』の専攻は遺伝子学では無い。
せいぜいが刑事ドラマの知識だった。
しかし、それでもこの世界では大きな発見になった。
後日、またあの魔術師長がウェントワース侯爵家を訪れ、体液に個人を識別するDNAが存在するという事を『茜』から聞いた。
体液と説明して「例えば?」と聞かれ「精液です!」と答えた『茜』に、魔導師長が絶句したのは、良い思い出だ。
唾液や涙を思い付かなかったあたり、『茜』もかなりテンパっていたのだろう。
更に数日後、目の下を真っ黒に染めた魔導師達により開発された新たな魔法により、親子鑑定が出来るようになった。
魔導師長はとても感謝していたが、魔導師達には恨まれていたようである。
誰が?
名前だけしか明かされなかった『茜』と言う人物が。
「うわぁ、私悪くないよね?悪いのは魔導師長に話を通した王子二人だよね?」
シャーロットの膝の上で、まん丸くなった『リズ』は、暫く『茜』になるのを止めてしまい、ダニエルがエリザベス不足で不機嫌になったのは、ここだけの話。
マルリアーヴ伯爵とドリーの間に親子関係が有り、伯爵夫人とドリーの間には無い事が証明された。
そして遺体となっていた元メイドが、ドリーの本当の母親だとも。
正当な血筋の当主と血縁関係にあった為、ドリーが伯爵令嬢である事に変わりは無い。
しかし、『実の母を犯罪者に仕立て上げた』という悪女としても有名になってしまった。
「やぁ!そこに居るのはジョフロワ公爵家のジョナタン殿だね?ウェントワース侯爵令嬢とは仲良くやっているかい?あぁ勿論、シャーロットの事では無いよ」
セザールが、偶然廊下で見かけたジョナタンに声を掛ける。
そして周りをキョロキョロと見回し、首を傾げた。
「あれ、あの元平民の嘘吐き伯爵令嬢は?結局君が第二夫人に迎える事で、マルリアーヴ伯爵家から通常の3倍の持参金を貰う約束になったのだよね?」
あくまでも爽やかに語るセザール。
公爵家へ嫁ぐ際の持参金は、元々かなりの金額である。
それをマルリアーヴ伯爵家は、3倍も払うのだ。
そこまでしても、追い出したいのだろう。
しかもドリーは、母を殺したとされる豪商から慰謝料を貰い、示談としていた。
当時はまだ、元メイドで犯罪者、ドリーにとっては育ての母と公には言われていたので、大した罪にはならなかったのだ。
ようは証言をしたドリーが「勘違いでした」と言った事により、事件自体が有耶無耶になってしまっていた。
ドリーを第二夫人に迎える事で、ジョフロワ公爵家はかなりの大金を手に入れる事になるだろう。
ただし、失う物の方が遥かに多そうだが……。
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