第24話:破滅に向かう女




「ジョナタン様と仲良くしていただいていたのですが、ティファニー様との隠れ蓑にされてたみたいです」

 ドリーは悲しそうに訴える。

 誰も話す許可を出していないし、シャーロットの居る場でするには相応しく無い話題である。


「お互い当て馬にされちゃいましたね」

 次にシャーロットへと笑顔を向けるドリーは、この場では不敬罪にはならないだろうと計算してやっていた。

 メイドに誘拐されて、平民として暮らしていた不憫な伯爵令嬢。

 暫くはソレでいけるとドリーは考えていた。



「人の婚約者に手を出していた阿婆擦れのくせに、何、被害者みたいな顔しているのですか?シャーロットは被害者だけど、貴女は加害者ですわよ」

 『茜』は、エリザベスの口調を真似て、ドリーを責めた。


 貴族では無い、可哀想な令嬢。

 他の貴族はドリーに同情的で、が許されそうな雰囲気だった。


 しかし『茜』の知識の中でドリーは可哀想では無いし、そもそも学園に通える程度には裕福な生活をしているのである。

 地方の男爵家の方が、責任のある立場のせいで困窮しているくらいだ。



「酷いです!」

 ドリーはポロポロと涙を流し、エリザベスを非難がましく睨みつける。

 ジョナタンであれば、「可哀想に!」とドリーを庇ったであろう。

 他の男子生徒でも、エリザベスをいさめたかもしれない。

 それくらい庇護欲を刺激する容姿と行動だった。


 しかし、ここにいるのは婚約者エリザベス大好き第二王子ダニエルである。

「準王族のイライザを睨みつけるとは!」

 絶対零度な視線がドリーと、そしてマルリアーヴ伯爵夫妻へと向けられる。

「貴様等、私の生きている間はイライザの前に姿を現すな!」

 別に法的拘束力のある台詞では無い。

 だが、ダニエルに嫌われた事だけは確かだ。


 それにもし、シャーロットがセザールと婚姻を結んだ場合は、そちらからも嫌忌けんきされる事だろう。

 今さっき、自分でジョナタンの恋人だった事をシャーロットにハッキリと告げたのだから。

 冷静に考えて、そのような伯爵令嬢と誰が懇意になりたいだろうか。

 そのような伯爵令嬢がいる家と、誰が縁を持ちたいと思うだろうか。




「お前は!ジョフロワ公爵の嫡男の所へ嫁ぐと言っていただろうが!」

 王家へ挨拶した後、マルリアーヴ伯爵家は早々に会場を後にしていた。

 今は馬車の中で、伯爵が杖を振り上げていた。

 フリだけで、まだ実際には打っていない。


「公爵より王子のが上でしょうが!ずっと学園休んでたし、体調崩して子供も作れないと踏んでたのに!」

 ドリーが叫ぶ。

 主語が無いが、どうやらエリザベスの事を言っているようだ。


「卑しい女の産んだ子供なんて引き取るからよ」

 伯爵夫人が吐き捨てる。

「確かにアタシの母親は最低な女だったけど、アンタ達だって変わんないからね!」

 ドリーが伯爵夫人の頬を平手で打った。


「何をするんだ!馬鹿者が!!」

 マルリアーヴ伯爵が杖を振り下ろした。

「狭い所で杖を振り回すなんて馬鹿じゃないの!?」

 ドリーは杖を避け、マルリアーヴ伯爵の顎を拳で殴りつける。

「可愛い平民女はね、護身術を習うのがたしなみなのよ」

 ドリーが不敵に笑う。


「良い?これからアタシに逆らう度に殴るからね」

 既に実子として届け出てしまっているので、マルリアーヴ伯爵はドリーを追い出す事も出来ない。

 それに家には、まだ夜会に参加出来ない年齢の跡取り息子も居た。

 ドリーの暴力がそちらへ向くのだけは、阻止しなければいけなかった。

 マルリアーヴ伯爵家での力関係が決まった瞬間だった。



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