第22話:新事実が盛り沢山




 国王陛下のお言葉があり、夜会が始まった。長いし、つまらないので割愛しておく。

 筆頭公爵家から、王家への挨拶が始まる。

 エリザベスの両親、キャンピアン公爵夫妻がまずは挨拶に現れた。

 公爵が不安そうにチラチラとエリザベスを見ていたのが印象に残った。


 ジョフロワ公爵家は公爵位の末席なので、ウェントワース侯爵のすぐ前に挨拶をする。

 すぐ側に居るのに、ウェントワース侯爵はティファニーに声を掛けようとはしなかった。


「おぉ!ジョフロワ公爵!ジョナタンは婚約者を変更したそうだな」

 国王がジョフロワ公爵へと声を掛ける。

 必要以上に大きく聞こえたのは、おそらく気のせいではない。

「シャーロット嬢より妹の方が好みだったのね。学園でもようですし」

 王妃が扇で口元を隠しながら言う。

 その視線は蔑んだもので、しっかりとティファニーを見ている。


 三人の王子は、誰も口を開かない。

 ダニエルとセザールは同じ学園に通う年齢なので、通常はジョナタンへ挨拶程度は声を掛ける。

 しかし視線も向けようとはせず、完全に無視をしている。

 セザールの横にシャーロットが居る事もあり、ジョフロワ公爵家の立場があまり良いものではない事は、全貴族に認知されてしまった。



 シャーロットの父、ウェントワース侯爵が前に出る。

「ウェントワース侯爵、息災のようだな」

 ウェントワース侯爵が名乗る前に、国王が声を掛けた。

 これはとても親しい間柄である事を示している。

「そろそろ夫人も戻られる頃かしら?」

 王妃もにこやかに話し掛ける。

 ウェントワース侯爵は深く頭を垂れ、「勿体無きお言葉」と返した後、顔を上げる。


「妻が無事、男児を出産いたしました」

 会場がザワリと揺れる。

 結婚、出産が早いこの世界では、36歳での出産は滅多に無い事のようだ。

 後継の男児が欲しければ、若い第二夫人を迎えるのが当然、と考えるのが貴族なのである。


「何を驚いてるのよ。日本人の最高記録は81歳と言われているし、今や40代での出産が普通よ普通」

 『茜』が呟く。その声は近くに居るダニエルやシャーロット、ギリギリでセザールにしか届かない程度だ。

「私は結婚も出産もしてなかったけどね」

 とても小さな呟きはダニエルにしか聞こえておらず、前世とはいえイライザにそういう経験が無い事を、ダニエルはコッソリ喜んだ。




「ドリアーヌ・マルリアーヴです!」

 マルリアーヴ伯爵と共に国王夫妻の前に現れたドリーは、カーテシーをしてから笑顔を浮かべる。

 子供がやったら可愛いだろうが、学園に通う年齢の淑女がやる事では無い。

 しかし、それも狙っての事だったようだ。


「平民として育っておりましたので、まだまだ教育が行き届いておりません」

 マルリアーヴ伯爵は、哀れみを誘う声と表情で語り始める。

 前にダニエルが言っていた通り、メイドが正妻の産んだ子を死産と嘘をいて誘拐していた、と。


 実際はそのメイドがドリーの母親で、男児だったら引き取ると屋敷で出産させ、女児だった為に僅かな手切れ金と共に追い出したのだ。

 漫画では、閑話として描かれていた。

 『茜』は、マルリアーヴ伯爵を直に見て、たった今、その事を思い出していた。



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