第13話:最強なのは……?




「リズ、気持ち良く寝ている所をごめんなさいね。また第二王子殿下がいらしたの」

 シャーロットは『リズ』に優しく声を掛け、目を開けたところを抱き上げる。

「王宮魔術師長も一緒なのですって。本気過ぎて怖いわ」

 シャーロットはそっと『リズ』の頭を撫でる。


「でもね。例えあなたがエリザベス様でも、嫌なら行かなくて良いわ。私が泣き喚いてでも、連れて行かれるのを邪魔するからね」

 おそらく本気なのだろう。

 『リズ』を抱く腕が少し強くなった。



 シャーロットが『リズ』と共にサロンを出ると、執事が待っていた。

 いつも通りに見えるが、少し表情が暗い。

「何か有りましたの?」

 シャーロットが問うと、一通の手紙を差し出された。

「たった今、早馬で届きました」

 宛名はシャーロットで、差出人はセザールである。


 一瞬迷った後、シャーロットはサロンへと戻り、まずは『リズ』をクッションへと戻した。

 そして自分はテーブル席へと座り、手紙とペーパーナイフを受け取る。

 王族からの手紙を開ける為の最低限の礼儀として、立ったままではいけないとおもったからだ。

 封を開け、中身を確認する。


『僕が行くまで、兄は放置で良い』


 第二王子と第三王子。

 どちらの言う事を優先するのが正解なのだろうか。

「いいわ、ここは第三王子殿下に任せましょう。もし遅いと怒られたら、サロンに虫が入って来て、リズと二人で逃げ回ってた事にするわ」

 シャーロットはセザールからの手紙を、執事に見せた。




 それから程なくして、セザールがウェントワース侯爵邸へと馬で着いた。

 そう、馬車では無い。馬である。

 護衛の二人だけを連れ、制服のままで侯爵邸に現れたセザールは、シャーロットの所へは行かず、兄ダニエルのいる応接室へと特攻した。


「おぉ!セザールも来たのか!」

 にこやかに弟を迎えたダニエルは、近づいて来たセザールの顔を見て固まった。

「僕が帰るまで動かない、という約束を忘れましたか?ダニエル第二王子殿下」

 笑っているのに、笑っていない。

 セザールは本気で怒っているようだ。

 ダニエルは顔を青くして、口をつぐむ。


「魔術師長、貴方が付いていて何をしているのでしょう」

 セザールの視線が魔術師長と呼ばれた年配の男性へと向く。

 子供か孫か、という年齢のセザールに気圧され、魔術師長は無言で頭を下げた。



「あの、お待たせいたしました」

 執事からセザールの到着を聞いたシャーロットは、『リズ』を抱いて応接室へと来ていた。

〈漫画には出て来なかったけど、セザール最強説〉

 シャーロットの腕の中で、『リズ』は笑う。


 どこから見られていたのだろう、とセザールは表情を変えずに耳を赤くする。

 それを見て、ダニエルはなぜ弟がこれほど怒っているのかを知った。

 自分も、いや、誰もがそうであるように、好意を持っている相手には嫌われたくは無い。

 結婚をしたいほどであれば、家族に悪印象を持たれるのも困る。

 これから長い付き合いになる人物ならば。


「ウェントワース侯爵令嬢。昨日に続き、急に押し掛けてしまい申し訳無かった。魔法陣の解析が終わったので、一刻も早くイライザかどうか確かめたかったのだ」

 ダニエルは視線を下げ、魔術師長は無言で頭を下げた。

 セザールも「約束をたがえて申し訳無い」と、王族としては精一杯の謝罪を口にする。


「だ、大丈夫ですので、皆様お気になさらずに」

 格上からの謝罪に、シャーロットはどうして良いのか判らず、ワタワタとしている。

〈しょうがないわね、ここはお姉さんが取り成すわよ〉


 『リズ』はシャーロットの腕から飛び降りると、ダニエルの前まで行く。

〈さぁ!この見事な肉球をフニるが良いさ!〉

 ダニエルの足を支えに後ろ足で立った『リズ』は、右手をダニエルへと伸ばした。



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