第12話:性格悪いのは誰?




「明日!」

 シャーロットと『リズ』の様子を見ていたダニエルが、突然声をあげた。

「明日、王宮魔術師を連れて来る。そうすれば『リズ』がイライザなのか、ただの猫なのか判るだろう」

 いきなりの決定である。

「明日、ですか?」

 シャーロットが戸惑う。


 それはそうだろう。

 明日は普通に学園のある日だ。

 だが何時に来るのか判らないので、休まなければいけなくなる。

 それにこの様子だと、朝一に押しかけて来そうだ。

 鼻息荒く語るダニエルの横で、セザールは溜め息を吐き出した。


「大丈夫だよ、ウェントワース侯爵令嬢。明日、学園から帰宅するであろう時間以降に訪ねるようにするから」

「は!?」

 セザールの言葉に反応したのは、ダニエルだった。

 しかし、ダニエルが異を唱える前に、セザールは横に居る兄へ笑顔を向ける。

「嫌なら、もう僕は協力しませんからね」

 完全に目が笑っていなかった。




 王族二人が帰った後、シャーロットは自室で『リズ』と共に過ごしていた。

 シャーロットは明日の授業の準備を終わらせ、ソファへ座る。

 『リズ』は先にソファでくつろいでいた。


「リズ様」

 シャーロットが『リズ』を呼ぶが、『リズ』は反応しない。

「エリザベス様?」

 呼び方を変えてみたが、やはり反応しない。

「リズ」

「にゃ~ん」

 今まで通りに呼ぶと、やっと返事をした。


〈多分、私がエリザベスなのだろうけど、記憶が無いからね〉

 何となく『エリザベス』として返事をするのは違う気がして、『リズ』は『リズ』として振る舞う事に決めたのだ。



「そうだわ。私の婚約破棄は、『リズ』のお陰だと聞きました。改めて、ありがとうございます」

 シャーロットがフワリと笑う。

「このまま卒業して、結婚して、平民を愛妾として受け入れなければいけないのかと……しかも、あのような娼婦のようなドレスを贈ってくるような人と結婚すること自体が嫌で嫌で」

 ドレスはティファニーの趣味でしたけどね、と更に笑う。


 ティファニーは、あれから自室から出て来なくなっていた。

 食事はしっかり摂っているので、家族も放置している。

 ティファニー付きのメイドは部屋にはいれているので、普通の生活は送っているのだろう。



「次のパーティーでは、ティファニーがジョナタ……ジョフロワ公爵令息の婚約者として並ぶのですね」

〈しかも、真っ赤なドレスよ!今までで1番派手な!〉

「それを楽しみにしてしまう私は性格が悪いかしら?」

〈そんな事無いよ!当然、当然!〉


 シャーロットには、『リズ』が何を言っているのかは通じていないはずなのだが、「にゃあにゃあ」いう『リズ』に向かってお礼を言う。

「ありがとうね、リズ」

 その笑顔が晴れ晴れとしていて、『リズ』に達成感を感じさせた。




 翌日、普通に学園へ行き、何事も無く帰って来た。

 またドリーが居たが、何もせずに通り過ぎた。

 そしてセザールも特に普段と変わらず、挨拶を交わすだけで会話も無く過ごした。

 昨日の約束はどうなったのかしら?

 シャーロットがそう思いながら屋敷へ足を踏み入れた瞬間、執事が硬い表情で出迎えた。


「第二王子殿下が、王宮魔術師長と共にお待ちです。制服のままで構わないから、すぐにリズ様を連れて来るようにと」

「は、はい!」

 シャーロットは鞄を執事へ渡すと、サロンへと『リズ』を迎えに行った。


「帰宅時間以降って言ってなかった!?まさか先に来て待っているとは思わなかったわ」

 廊下を早足で歩きながら、シャーロットは独りちた。

 サロンではいつも通り、『リズ』は籠の中で幸せそうに寝ていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る