第9話:祝・婚約破棄




 即日、ジョフロワ公爵がウェントワース侯爵家を訪れた。

 そしてジョナタンがシャーロットを蔑ろにしていた事、学園でドリーという平民と常に行動を共にしている事を理由に婚約が破棄された。

 解消では無い。

 ジョナタン有責による破棄だ。


 違約金は発生しないが、今後一切シャーロットに近付く事が禁止された。

 それは書面にも残され、契約として交わされた。

 破った場合は、今度は違約金が発生する。

 ティファニーと婚約しても、ウェントワース侯爵家への出入りは禁止された。


 婚約は家同士の契約に当たるので、本人のサインが無くても成り立つ。

 婚約破棄や解消もまた然り。

 ジョナタンは知らないうちにシャーロットとの婚約を破棄され、ティファニーとの婚約が成立したのだ。



「今回は、ジョナタン殿がシャーロットに金だけを出していた愚行を、うちのティファニーが利用していた。だから、あの娼婦の様なドレスはシャーロットの趣味では無い。それだけは言っておく」

 侯爵は最後、公爵に言葉強く言っていた。

 それまでは淡々と手続きをしていたので、却って印象に残った。


 書類が完成すると、それは家令によってすぐに提出された。




「明日にはもう、ジョナタン様……ジョフロワ公爵令息の婚約者はティファニーなのね」

 自室で膝に『リズ』を乗せて撫でながら、シャーロットは呟く。

 婚約者らしい交流は、パーティーのエスコート位しかなかった。


 お茶会は何度も中止にされた。

 しかも公爵家での場合は、訪問したら断られ、侯爵家では約束の時間を過ぎてから使者が来る始末。

 そのうちにお茶会の約束自体をしなくなっていった。


 学園では声を掛けると不機嫌になる為、シャーロットも近付くのを避けていた。

 だがそのお陰で良い事もあった。

 昼を婚約者と過ごさない為、友人が増えたのだ。

 婚約者が学園内に居ない生徒も意外と多い。


「別に今までと何も変わらないわね」

 フフッとシャーロットが笑うと、『リズ』がその手に頭を擦り付ける。

「慰めてるの?」

 シャーロットが問い掛けると、更に『リズ』がグリグリと頭を押し付けてくる。

「ありがとう、リズ」

〈これで悪役令嬢じゃ無くなったわね!新しい婚約者は、きっと素敵な男性よ!〉


 その日、シャーロットは『リズ』を籠に寝かせず、一緒のベッドで眠った。



 朝になり、同じベッドに寝ている『リズ』を一撫でしてから支度を済ませ、学園へと向かった。

 ティファニーは体調不良で学園を休むらしく、馬車にはシャーロット一人だった。

 学園に着くと、ドリーが馬車から降りて来たシャーロットを見て、馬車の中を覗き込むような動作をする。

 いつもならティファニーが先に降りて、ドリーと合流するからだろう。


「あの……」

 ドリーがシャーロットに声を掛けるが、シャーロットは完全に無視をして通り過ぎた。

 ドリーは1学年下で、シャーロットとは名乗りあっておらず、知り合いでも無いのだ。

 ティファニーが休む事は、担任に聞けば判る事である。



 教室へ行くと、いつも一緒に行動している友人達が既に登園していた。

「おはようございます」

 シャーロットがあいさつをすると、皆が同じように挨拶を返す。

 教室内にはまだ生徒がまばらで、丁度良いとシャーロットは婚約破棄の話を伝えた。


「まぁ!おめでとうございます」

「あのような婚約者なら、居ない方がマシですものね」

「これからは、シャーロット様の素敵なドレス姿が見られますわね」

 友人達は口々に祝いの言葉を口にする。

 はたから見ても、やはり最低の婚約者だったようだ。


「うちにリズが来てから、私は良い事ばかりですわ」

 シャーロットが『リズ』と名前を出すと、教室の後ろの方に居た男子生徒が立ち上がった。

 そのままシャーロット達の方へと近付いて来る。


「話し中にすまない。リズと言うのは?」

 突然声を掛けられたシャーロットは、その相手を見て固まった。

 それはそうだろう。

 相手はこの国の第三王子だった。



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