第4話「誰が厨二病だ」

  ◇


 高嶺の花の生誕祭も、騒々しい朝の出来事からようやく放課後まで辿り着いた。


 この日、優花宛に届けられたプレゼント総数は過去最多。遂には自身のロッカーにも収まりきらない程膨大な量となってしまった。


 部活へと向かう生徒もいたが、クラスメイトの大多数は優花1人では到底家まで持って帰れない量の紙袋を一緒に持とうかと提案する。そんなクラスメイトの優しさを受け取りつつも、優花はその善意を申し訳なさそうに断った。


 理由は単純。俺という幼馴染兼荷物持ちがいるからだ。


「……んで、貰ったプレゼントどうするんだ?」


「どう、とは?」


 俺の隣を歩く優花は“高嶺の花”としての口調で聞き返す。


 校舎内はとっくに出ているが、今のご時世、いつどこで他人の目があるかわからない。あの口調を出すのは閉鎖的な空間、完全に他人の気配が感じられない場所限定だ。


「いやさ、これだけのプレゼントを貰っても1日じゃ全部食べきったり手紙を読んだりするのは、いくらお前でも難しいだろ? だからこれ、最終的にどうすんだろうと思って。去年はどうしてたんだっけ」


「去年は両親に頼んで、職場の方々におすそ分けとして持っていって貰ってましたね。私宛のものだとわかってる半面、こうした対処は大変心苦しくはあるんですが……」


 そう言いながら、優花は今にも溢れ出しそうな紙袋を持ち直す。


 優花の両親は共に有名会社に勤めていて、母親は海外でも人気な女性ブランドの服を手掛けるデザイナー、父親は全国でも有名な出版社で働いている。


 小さい頃から優花とは仲が良かったのはそうだが、実のところ、連休でも重ならない限り優花の両親と顔を合わせることはほとんどない。優花自身も、夜中になればようやくどっちかが帰って来るレベルで出くわさないらしい。


 ただ、家庭環境はそれほど悪いなんてことはないし、幼稚園の頃から両親が帰って来るまで俺の家で過ごしていることが多かった分、帰宅時間が安定しない優花の両親も大助かりだったそうだ。全部俺の母親から聞いた話だが。


「あ、そうだ。良ければ、少しだけでも持って帰っていただけませんか? 私1人では、賞味期限までに全て食べ終えられそうもないので」


「まぁ別にいいけど……なんか、他人に向けて贈られたものを貰うって、スゴい罪悪感あるな」


「そうかもしれないですね。私も去年、両親に仕事場で配ってくれないかと頼んだ時、スゴく良心が痛かったですし」


「でも、そうしておいて正解なのかもしれないな。お前がこの山のようなプレゼントを出来る限り粗末にしたくないっていう心意気は素晴らしいかもしれないが。こんだけのお菓子を期限以内に全部食べようと思ったら極度の糖分取り過ぎで増量しそうだし」


 ざっと数えただけでも100個以上はありそうだよな。


 優花は両親からの遺伝によるものか、食べても太りにくいという同性からすれば羨ましいと嫉妬の目線が飛んできそうな体質ではあるが、さすがにこの量は話が変わってくる。


 すると、優花は上目遣いで俺のことを睨みながらぷくっと頬を膨らませる。


「もぅ、そういった話を歳頃の女の子に振るのはメッ!ですからね。私は体質的に嫌味と感じることはありませんが、基本的に女子高生にはタブーなワードですよ!」


「ちゃんと相手を選んで発言してるから問題無しだな」


「……その無駄な自信は一体どこから出てくるんですか。うっかり、意図せず飛び出してしまう可能性もあるんですから気を付けないといけませんよ」


 そうは言っても、クラスの中に優花以外に仲が良い女子がいる訳じゃないしな。まぁ、少々面倒な友人達ならいるんだが。


「お前も、クラスの奴と話すときはそういうの意識してたりするのか?」


「まぁ、そうですね。人によってタブーな話題というのは異なりますし、今日の気分などでも触れてはならない地雷は変動してしまう可能性だってあるかもしれません。基本そこまで意識してるわけではありませんが、頭の片隅には入れておいて損はない知識かと」


「……まさかとは思うが、クラス全員のタブーな話題を把握してるとか言わないよな?」


「どんな超人ですかそれ。いくら私でも、そこまでのことに労力を割くつもりはありません」


 本人はこう言うけど、実際のところクラスの女子達に範囲を絞るなら『イエス』と答えそうだ。



 中学、高校。大人数の生徒達が1つの学年に集合する故に誕生する制度、それがカースト。


 例えば陰キャ。学校内では地味な外見や引っ込み思案な性格故に大勢のクラスメイトからはその存在を認知されていない奴のことを指す言葉。要はカースト最下位のこと。


 カーストの位が高い程クラスの中心であるといつの間にか存在した学生内の社会構図。

 上の者は下の者を扱き使い、逆に下の者は上の者に従わざるを得ない。


 目立ち過ぎず、発言し過ぎず。――平穏な学生生活を送りたいのならば、カーストの縦社会には従うのが暗黙のルール。そう、自分がいじめに遭うのを避けたいならば。



 ……ただ、そんな厳しい縦社会も現代にはほぼ残っていない。


 あるとすれば自然と出来てしまったクラスカーストのみ。自分は下の者、自分は上の者だと勝手に自己申告するだけの構図だろう。


 そんな構図にこの幼馴染を当てはめるなら当然最上位。

 一方の俺は中間辺りが理想だ。


 幼馴染が平穏に学校生活を過ごせるよう、影からそっと見守るのが俺の役目だ。……なんかカッコいいな。


「……今度はどうしたんです、いきなり変な顔浮かべたりして」


「変なとは失礼な。今の俺は隠れ里からやって来た忍者なんだ。そして忍者は主君を影から守るのが務め。この間テレビでそんなドラマをやってた」


「厨二病を発病させるにしてはさすがに遅すぎるのでは……?」


 厨二病って中学2年生になったら発病する病じゃないからな? あと誰が厨二病だ。


「……水無月君が私を影から守る忍者ですか。運動音痴な忍者に守られるっていうだけで既に不安要素てんこ盛りなんですが」


「変に考えんなよ。まぁその……あれだ。身体能力が劣る忍者は前線には敢えて立たず、裏から作戦を指揮する指揮官として動けばいいだけなんだよ。だから決して運動音痴は響かん!」


「それもう忍者関係なく、補佐とかになった方が早いのでは……」


 横からめちゃくちゃ正論パンチしてくるじゃん今日の高嶺の花は! 昨日は俺がボケようとも決して乗って来なかったくせに!


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



To Be Continued...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る